22 アレッサ

 まだ心臓がドキドキしてる。顔が火照って熱い。汗もかいてて、服の中がベトベト。きっと顔もぐしゃぐしゃだし……。


 でも、気分は最悪じゃない。むしろ、その正反対。


 ユーグとわたしは路地裏から大通りに向けて狭い道を歩いていた。路地裏にあった隠れた名店の雰囲気が漂うレストランで食事をした帰りだった。実際そこは名店で料理も内装も全て完璧だった。

 そこでのユーグのサプライズも……。


 路地裏には日陰で大繁殖する苔に覆われた石畳と石壁によって、暗緑色のトンネルができていた。トンネルの上部はちょうど日が差し込むところで途切れ、一直線の境界線ができている。足元はフカフカとしていて、絨毯の上を歩いているようだった。

 初めはなぜこんなものを取り除かないのかと思っていたけど、こういう陰鬱な景色も悪くないと思えるようになっていた。


 苔たちの住処を抜けると、わたしは思わず立ち止まってしまった。いつもはこっちの日差しが出ている方が好きなのに、今はこの暗い道へ引き返したかった。名残惜し気に振り返ると、ユーグと目が合った。わたしは咄嗟に目をそらしてしまった。

 まだユーグの顔をまともに見られない。

 だって、ついさっき、あんなことを、言われてしまったから。そして私もそれにうなずいてしまったから。


「どうか、した?」

 ユーグも少し恥ずかしがっているのが伝わってくる。

 二人して照れててばかみたい。そう思うと可笑しかった。


「ううん。行こう。私、雑貨屋さんが見たいなあ」

「いいね。俺も何か買いたかった」


 私たちは手を取り、人の波にのみこまれながら先へ先へと進んでいった。

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