21 ユーグ
人が多すぎるなあ。まだ午前中だってのに。
俺は両手に出店で買ったシャーベットを持ちながら、人混みを抜けようと格闘していた。シャーベットを落としたり、人にぶつけたりしないように注意しながらやっとの思いで通りの端に抜けた。
そこにはアレッサが家の階段に腰を降ろして座っていた。
座っている姿の彼女も美しかった。
チョコレート色の髪が、祭りの熱気で溶かされたように風になびいている。鼻先がツンと尖った横顔に、ぷっくりと膨らんだ果実のようなピンクの唇。彼女の肌のように真っ白なワンピース。俺がどこから来るのかとキョロキョロと見回しながら待つ姿。
今日も彼女は完璧だった。何一つ欠けている所がない。
俺はシャーベットが溶けてしまうことも忘れてアレッサに見惚れてしまった。しばらくして、誰かに背中を押されて我に返った。そして、手の中の真っ赤なシャーベットが少し溶け始めていることに気づいて、急いでアレッサの元に駆け寄った。
「ごめん、ごめん。待った?」
「かなりね」
アレッサはそう言いながらも笑顔でシャーベットを受け取った。
彼女はシャーベットを口に頬張ると、「ンー」と言いながらこめかみを押さえた。
そんな無邪気な姿を絵として残しておきたいほど愛おしかった。
「キーンとくるけど、美味しいわ」
「よかった」
俺もシャーベットを口に入れると、頭の奥がキーンとして目を細める。暑さが一気に吹き飛ぶようだった。
「この後はどうする?」
アレッサが冷たさに足をパタパタさせながら聞いた。
俺はその足を眺めながら、練りに練った今日の計画をもう一度確認した。
「ねえ、聞いてる?」
アレッサが顔を傾け、俺の顔を覗き込んだ。
少し尖らせられた口もその仕草もまた、とても愛おしかった。
「──お昼はレストランに入ろう。それまでは適当に歩こうか」
「いいね」
アレッサは立ち上がり、手を差し出した。
「さあ行こっか」
俺はその手を見て、どこにでも行けると思った。
アレッサと手を繋いで、草原や花畑、古風な村、暗い森の中を二人で歩く姿が思い浮かんだ。
「──うん」
俺は彼女の手を取った。
そして、彼女の手の平の温もりと指先の冷たさを感じながら、一生この手を離したくないと、また強く思った。
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