19 シャルル

「──きろ! シャル! 起きろよシャル! ったくなんでこんなに寝坊助なんだ? まじめばかのくせによ」

「真面目ばかで悪かったね」

「なんだ起きてたのかよ」

「起こされたんだよ。君の大声でね。僕から降りてくれないか?」

「それで起きてくれるなら、もちろん」

 僕は体を起こした。腕を伸ばすと、肩や腰がギシギシした。

 ここ最近の寝不足が祟ったかな。


 僕は大きな欠伸を一つして、椅子をシーソーのように揺らしながら、その背に顎を乗せて、興奮を隠せない様子のギルを見た。

 楽しそうだな。僕の部屋に駆け込んでくるくらいだから、何かとてつもなく嬉しいことがあったに違いない。


「楽しそうだね」

「そりゃあそうさ。シャルは楽しくないのか?」

「え?」

 僕は正面の影になっている壁を呆然と眺めながら考えた。

 僕も楽しいことって何だろうか?


「そんなんじゃ城主にはなれないぞシャル。この街でいっちばん大切なことだろ」

「いっちばん大切なこと?」

「そうさ」

 僕はいまいちピンとこないまま、首を掻きながら思案した。その数秒後、まさに天から降ってくるように突然、そのことを思い出した。そして、どうしてそのことを忘れていたのか不思議でたまらなかった。

 ギルの言う通り、この街にとって大切なことだった。


「火祭り!」

「そうだよ! 待ちに待った火祭りの日さ。俺たちはずっとこの部屋で花火を聞くだけだったろ。今日はついに見に行けるのさ。それだけじゃない。通りに並んだ出店も回り放題。こんな日に寝てるなんておかしいだろう?」

 ギルは興奮気味に顔を近づけた。

 いつもなら睡眠は大切だと否定したいところだったけど、今日ばかりは自分が馬鹿だったと思った。こんな日に寝てるなんて確かにおかしい。


「よし。ちょっと待ってギル。今すぐ準備するから」

「早くしてくれよ。待ちきれないぜ」

「分かってる」

 僕は寝間着を脱ぎ、畳まずに放り投げたことにほんの少しの罪悪感を覚えながらも、着替えを取り出した。焦げ茶一色のズボンを履きながら、ベッドの上の段を見てユーグがいないことに気が付いた。


「ユーグは?」

「さあな。来たときにはもういなかった。多分アレッサと一緒だろ」

「そうだね」

 僕は急いでシャツのボタンを留め、鞄の太くて黒く、大きな金具がついている肩掛け部分を引っ掴んだ。


「それじゃあ行こうか」


 僕らは一年で最も燃え盛る炎の街に向けて出発した。

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