17 シャルル
ムズムズとする鼻を指で擦りながら、僕は無数に並べられた書架の間を突き進んでいた。
僕は適当な所で立ち止まると、本棚から薄い淡黄色の紙の束を取り出して、表紙の年代を確認した。そこには『200年』と書かれていた。
少しだけ来た道を戻ると、また別の紙の束を取り出し、年代を見た。そこには『290年』と書かれている。惜しいなと思いながら、その周辺から『288年』の資料を探した。
「あった」
僕は目的の資料を見つけ出し、表紙をめくった。そこには一月から日付順に転出者について記録されていた。名前と大まかな住所、そして転出地がずらりと並んでいる。ページを数枚めくると、すぐに転出者のリストが終わり、次に転入者のリストに変わった。
僕が知りたかったのはこっちの方だった。
目的の九月以降までページをめくっていこうとすると、資料は八月で終わっていた。すぐにその資料を戻して、隣にあったもう一つを取り出した。表紙をめくるとリストは九月から再び始まっていた。どれほどの量があるのか飛ばしながらめくってみると、九月だけで五十ページ以上はあった。十月も三十ページ近くあったし、それ以降も同じくらいだった。
「これは、大変だな」
僕はため息交じりに言った。
予想はしていたけど、こんなに多いとは……。これだけの人間が、植物たちの大氾濫を逃れて南部から逃げてきたのか。父さんはよく受け入れたなあ。城門を閉ざした街もあったって聞くのに。
母さんから自慢げに聞かされていた父さんの行動には今一つ実感がわかなかったけれど、今ようやくその凄さを身に染みて実感できた。
この人数を受け入れたら、いろんな問題があったはず。それなのに、今となっては、街に降りても難民の文句一つ聞いたことがない。僕は思わぬところで父の大きすぎる背中を見せつけられ、しばらく唖然とした。父さんと自分との距離が大人になるにつれて開いて行く。
こんなんじゃ、いつ追いつけるんだろう……。
いや、よそう。今は自分のことを考えている場合じゃない。
僕はその資料を持って、入り口の方へ戻り、黄土色の小さなテーブルに座った。テーブルは真四角で、資料を開いて置くと、もうそれ以外は何も置けなかった。
僕は気合を入れるために腕をまくった。
「よしっ。やるか」
まずはこの中から名前を探し出す。みんなのためにも、何が何でも証拠を掴ないと
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