8月15日
8 ユーグ
一目ぼれだった。それまで異性なんてものにはこれっぽっちも興味がなかったのに、アレッサを一目見た瞬間から俺は彼女の虜になった。
気づけば彼女のことを考えていた。それまでは、ギルと何をして遊ぼうかとか、植物をなぎ倒していく姿を妄想するとか、そんなくだらないことばかり考えていたけど、アレッサをこの目で見た瞬間から、彼女にどうやって話しかけようかとか、付き合えたらどんなことをしようかとか、そんなことを妄想するようになった。
だいたいの妄想は当時の俺が考えに考え抜いたカッコいいセリフで彼女を惚れさせるみたいなことばかりだった。
シチュエーションは様々。わざと廊下の角でぶつかるとか、夜中に呼び出して花束をプレゼント、剣術の授業でカッコいい所見せてウィンク、彼女の危機に駆け付けて助ける、などなど。今考えれば鳥肌が立ちそうなほど気持ちの悪いセリフを吐いて、彼女を虜にできると思っていたらしい。
そのほとんどが妄想に終わってよかった。そもそも、妄想したような場面に出くわすことはほとんどなかった。角を曲がってぶつかったのは強面の上級生だったし、剣術は相手を負かすのに精いっぱいだったし、危機的状況が訪れたことももちろんない。
妄想が現実となったあの日、アレッサと友だちになることに成功した夜から、俺は彼女と長い時間を共にすることになった。俺にはギルしか友だちがいなかったし、アレッサはずっと一人だった。俺の印象ではそうなってしまったというよりも、望んでそうしていたような感じだった。
俺たちはいつしかギルを含めた三人で過ごすようになる。ギルにも友だちがいなかったからだ。なにせあいつの脳みそと口の間には壁の一つも存在しないから、思ったことがすぐ口に出る。女子の一団からはめちゃくちゃ嫌われていたし、教官や上級生からも目を付けられていた。面白がって関わろうとする男子もいたが、友だちとまでは言えなかっただろう。
その後、ずっと一人でいたシャルが俺たちに加わり、シャルが図書館仲間のリックとミラを連れてきた。そうやって、俺たちは今に至るまでずっとこの六人だった。言ってしまえば、はみ出し者グループだった。
俺たちが仲良くなって四年がたった頃、俺は意を決してもう一度アレッサに告白した。シチュエーションは同じで、就寝時間前、城壁の脇。これに失敗すれば諦めるつもりだった。
アレッサは最初、言葉を詰まらせ、悩んでいるようだった。だけど、その悩み方が普通ではなく、告白を受け入れるかどうか以上の深い悩みを抱えているようだった。それが何かは分からなかったが、アレッサは静かにうなずいた。俺はそれが嬉しくてたまらなかった。
二人きりで過ごしている時、アレッサが告白の時と同じ表情をする事があった。それは今でも続いている。戦争が始まるまでは減ってきていたのに、最近は昔に逆戻りしてしまった。
アレッサは自分のことを多く語らない。だから、それが何かは分からない。ただ、アレッサは「私なんて」と口にすることがあった。きっと、過去に自分を否定したくなるようなことがあったんだと思う。だから、告白のときにあれほど苦しんでいた。私なんかが受け入れていいのか、と。
だから、俺はアレッサが望む限り、離れるつもりはない。たとえ今はアレッサが認められなくても、俺がこれからも必要とし続ければ、いずれ受け入れられる日が来るはずだから。
その日が来るまで、俺はアレッサの側に居続けたい。
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