シャルがギルたちの元に戻った時にはすでにほとんどの兵士たちが荷台に乗り込んでいて、出発の直前だった。


「お、来た来た。あと少し遅かったら置いて行かれるところだったぞ」

 ギルがそう言いながら、シャルに手を貸して荷台の上まで引き上げた。


 ほどなくして荷台は戦地へ向けて動き始めた。


「なあシャル。こいつらがな、シャルは戻ってこないかもしれないって言ってたんだぜ」

「ちょっと」

「お前な」

 シャルの正面に座っていたアレッサとユーグが身を乗り出し、ミラも目を見開いた。


「なんだよ」

 ギルは不服そうに言った。


「そういうことはさ、普通言わないもんだろ」

「そうよ。少しは気を使いなさいよ」

「気を使えったってよ。シャルは絶対に来るって分かってたからそう言ったんだぞ。お前らの方こそ、シャルのこと分かってないな」


 アレッサとユーグ、ミラの三人は「何を言っているんだこいつ」といった表情を浮かべて、ギルを見た。


「シャルは仲間を見捨てるような奴じゃない。父ちゃんに何と言われようと、絶対ここに戻ってくる」


 シャルはそれを聞いてはにかみ、声を上げて笑った。

「ギルには適わないよ」


「まったくね」

「底抜けにバカだな」

「相変わらずだよね」

 ギル以外の四人は口々に言って微笑んだ。

 しかし、当のギルは皆がなぜ笑っているのか理解できずに困惑しているようだった。


「なんだよ。また悪口か」

「違うよギル。褒めてるんだ」

 シャルはギルの方に向き直りながら言った。


「俺は褒めてないぜ」

「それだけは俺にも分かってたぜ、ユーグ」

「ならよかった」

 ギルとユーグはしばらくの間、互いにニヒルな笑みを浮かべて睨み合ったあと、鼻をならして終わりにした。


「そう言えばさ、リックはどうしたんだ。しばらく見てないような気がするけど」

 ギルが尋ねると、途端に四人の表情に緊張の色が現れた。


「──今まさに僕らが向かう所にいるんだよ」

 シャルルが答えた。


「橋にか?」

「そう」

「なんでまたそんな所に」

 シャルは手だけで分からないと示した。


「──自分から希望したって聞いたよ」

 ミラがおずおずと言った。


「変わった奴だな。あんなところに行きたがるだなんて……。でも、そうか。それは心配だな」

 ギルは荷台の縁に肘を置き、進行方向、橋のある方向に視線を向けた。


 シャルはその横顔を見ながらひどく不安に襲われた。滅多に不安を口にしないギルが心配だと言ったからだろうか、それとも初陣とはこういうものなのだろうか。


 シャルはまだ見えぬ橋から放たれた、恐怖にも似た威圧感を、ひしひしと感じずにはいられなかった。

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