第5話
男は発狂した。
惨めな毎日を笑われた上に、肥を塗り込むような対峙をされたことに激昂したのである。
梨が展開し、扇風を起こした。風斬り音が刃と全く変わらぬ程の切れ味を帯びている。
翔翼を展開し、突撃した。周りの草木ならず、家屋の接触部までをも刻んだのである。ガイストは横転し、躱すことしかできなかった。
自分と比べて相手は熟練の大人であった。駆け出しの身よりも素早く空を駆けるのが早いことに素直に関心した。
しかし、戦わねばならぬ。付近の人々にも勝手に約束をした身を思えば引くことも出来なかった。
肩のアーマーを拳に纏い、襲い来る回転刃と対峙せねばならなかった。
男はらちが明かぬと判断するや、梨を下げて閉じ、鈍器として振りかぶった。ガイストは拳で応じ、長い応酬が続く。
男は次の手に応じる。翔翼で下がり、梨で家屋の一部を掴むと、次々と投げ入れた。
さしものガイストもただの拳ではたまらぬ。腰のアーマーを外すやいやな左右の拳と光の筋で繋げ、フレイルの様にはじくことで危機を払うので一杯である。
男は狂った笑いの叫びを上げた。勝利を確信したのである。
“火刑承認”
常人であれば、必ず死を連想する事態である。
梨が開いて回転し、目の前に竜巻を作り出した。巻き込まれた屑はあらゆる物が発火し、外へと逃れられぬ火の地獄である。
ガイストは鎧を纏っている事の幸運をひどく感じた。
狂った追放者が相手だと覚悟をしたが、火刑と相対するとここまでの絶壁感を味わざるを得ないのである。
だが、進むしかない。そうとも、相手が火刑を出したのならば、こちらも手を切らざるを得ない。
「行くぜ!」
“火刑承認”
アーマー同士が己を包む様に連結し、盾の様に全身を包んだ。
車輪である。単純であるが攻防一体の最強武装とガイストは誇りに思っている。
目が見えなくても相手の気を察し、導かれるように前へ前へと激しく転がり続ける。事実、男が慌てて位置を変えても執拗に着いて来た。それも自ら炎に包まれながら。
瓦礫、軋轢を全て潰しながら突撃し、男は火と金物の記憶で途絶えた。
後には炎と煙に包まれた車輪が存在しているだけだ。
「走り続けりゃ全て灰だぜ」
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