第3話

土を耕す。

鍬に染み込む手汗がそのまま大地へと注がれるかの様に一心不乱に得物を振るう。

家にいるのは一人だけ。妻が消えてから一月過ぎようとしているのに、空けた我が家には誰もいない。

食わねばならぬ、働かねばならぬ。散々村人総出で探したが、生活の檻に囚われて己しかいない生活を続けていた。

空虚な心を消し去るために体を動かしたが、そろそろ限界を迎えて座り込んだ。

するとどうであろうか、たちまち行方知れずの妻を思い、己の身が食い散らかせられるのだ。涙が頬を伝う。鍬の柄に頭を預け、途方の無い何かへと祈りを捧ぐしかなかった。

「…おっさん平気か? 何か食うか?」

 顔を上げると、少年が一人立っていた。快活で社交的そうな若者だ。

 荷物からパンを出し、こちらへと差し出した。

 黙り続けていても、辛さは減らぬ、事情を話すと少年は同情しながら、水を差し出した。

「ガキの俺が何か言うのも駄目だよな。でもよ、放っておくのは俺の心情じゃねえ」

 よっと立ち上がり、ズボンのホコリを落としながらこう言った。

「縁ってやつだ、調査ついでに調べて見るよ。オレ?ガイストって名前だけど。少年審問官って知ってる?」

 はて、聞いた事も無い。しかし、2,3年前より丘の上に砦が建てられ、お偉いさん方が邪教徒だと騒いで四方八方へと行軍している事は知っていた。

 ガイストは荷物を担ぎ、頼りがいのありそうな背を残して去っていった。


 人気の無い所へとガイストは辿り着き、そこいらで調達した荷物を捨てた。

「転送装着」

 そう言ったかと思うと、瞬く間に光に包まれ、後には異形の甲冑が立っていた。

 その鎧を見た者は誰しもが肩と腰にまとわりついた超大型のアーマーへと目を引く。

「さあて、他の集落へと言ってみるか」

 翔翼を展開し、大地を捨てて虚空へと消えていった。

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