第2話

走る。走る。蜘蛛の子を散らした様に邪教徒が走る。

宴は突如として終わり、同胞は逃げ惑うしかない。

殺戮だ。ただ世界を呪うためにまぐわい、踊り明かしていた人間はひとたまりも無かった。

闇か飛んできたのだ。光の翼を背負った鋼鉄の天使様が。

お許し下さい! お許し下さい!

集団を統率していた父親役の男とその妻役の少女達が脱落者を出しながら逃げ惑う。

落ちこぼれが出るたびに後方から光と熱波が発生し、仲間の絶叫が木霊する。


何だ? 罰だ! これは何だ? 天罰が当たったんだ!

このやり取りは己の問答か、それとも周りの狂乱か、もはや誰もがわからない状態である。

突然後方から唸りが響いた。しびれを切らしたのか「翔翼」の出力を上げて周りこんだのだ。

彼らは止まった。血と肉片とがこびりついた板金の鎧が熱で表面を炭化させ続けている。


これが人民か。

ライルは無慈悲の心持ちで眼前の豚どもをねめつけた。

便利な物である。大陸に蔓延る邪教徒を効率的に排除する為に教会が錬金術師に製造させた「審問の鎧」の前ではこうも簡単に屠殺できるのだ。

それぞれが空を駆ける為の翔翼を持ち、世界に満ちるエーテルを用いることで常人には出せない膂力を使え、あまつさえ尋問と処刑が可能な拷問具まで装備している。

これ程の性能を持ちながら、邪教徒という弱者をいたぶるだけであるのは少々疑問であるが、ライルは使えるならばそれで良いと淡白でさえあった。

「さて、この親父がここの首魁と見えるが、事実か?」

ライルはそう言いながら手先から火を放ち、少女の一人を焼いた。

耳をつんざく叫び。場数を重ねたライルには大した事のない光景である。「火攻め」の拷問具を備えたライルの鎧。邪教徒には耐え難い苦痛であった。

「知らん!知らん!お助けください!お助けください!」

 親父の隣の小綺麗な少女を焼いた所、煩い口はすぐに閉じた。

「やめろ!我らは世界を正すために儀式を行っていただけだ!」

「ならば“クロ“だな」

 不敵に笑ったライルを見て親父は黙った。処刑対象である


 “火刑承認“


 首筋に備わった三本の杖が扇状に広がり、光を放つ。世界のエーテルを大量に集める事で拷問具に火刑になるほどの火の法力が備わる。

ライルの火攻めであるとその力は他の鎧とは比べるまでもない。

 手のひらの口が広がり、瞬く間に昼になったかの様な激しい閃光が一筋の尾を引いた。

 全て無くなった。全て亡くなった。

 心の中で唾を吐き捨てたライルは翔翼を展開し、仲間の待つ闇へと飛び去っていった。

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