強くてニューゲームなら男でもビキニアーマーが着られるって言うから

殿水結子@書籍化「娼館の乙女」

第1話

 強くてニューゲーム(二周目)をはじめますか?


「はい」




 クリア後。


 彼らの冒険は二周目に入った。


 二周目の特典は──


①真の魔王が登場!

②クリア後に真エンディング!

③男性パーティーでも女性専用装備を着用可能!




 というわけで男性パーティーはビキニアーマーを囲み、全員正座していた。


「これがこの世で最強の装備品、なんだよな……」


 女性専用装備品である、このビキニアーマー。着れば防御力もさることながら、攻撃力も20%アップという、大変有難い装備品である。尚且つサキュバスドロップ率2%というレア装備でもあるのだ!


 四人はこれを四着持っていた。


 四人全員が装備可能──


 しかし全員、着る勇気が出なかった。


「戦士」


 いきなり話を振られた屈強なモヒカン戦士はびくついた。


「攻撃力20%アップなら、お前が着るしかないだろう」


 戦士は首を横に振る。


「それなら勇者のお前が着ろ。俺はこんなものには頼らねぇ!」


 サラサラ髪の勇者は苛立っていた。


「そうは言っても、真の平和を取り戻すには、真の魔王を倒さねばならないんだぞ!そのためには装備を強化……」

「じゃあ尚のことお前が着ろよっ」


 険悪なムードの中、坊主の僧侶が言った。


「心を強く持てば、絶対着られます」

「おいおいそんな言葉で俺を追い込んだつもりか?ならお前から着てみろよ。心の強いお前がよぉ」


 僧侶はくやしそうに歯噛みする。


 パーティの団結も壊れようとしていた、そんな時だった。


「わしが着るぞ」


 魔法使いの老人が、神々しささえたたえながら、すっくと立ち上がったのである。


 全員が息を呑んだ。


「若いやつをむざむざビキニにするわけには行かんよ。わしは着るぞ。真の平和をこの世界に取り戻すために、な──」


 若人たちは己の羞恥心からなる利己主義を恥じた。


 自己犠牲。魔法使いは大切なことを若人たちに身をもって教えたのである!


 その結果。




 真の魔王は四人の勇者パーティを待っていた。


 並々ならぬ力をつけて魔王城に向かって来ているというのは、魔族からの報告にも上がって来ていたのである。


 真の魔王──


 それは、前魔王の娘であった。


 歳は100をゆうに超えているが、見た目はまだあどけない少女である。羊の角を生やし、美しいブロンドを肩に滑らせている。


「父上の仇……!」


 一周目で殺された父。


 その娘こそ、復讐に燃える仇花たれ!


(玉座の間に現れた暁には……皆殺しにしてくれる!)


 と。


 玉座の間がついに開いた──


 そこに現れたのは。


 ビキニアーマーの男衆四人組。


 勇者89%。


 戦士94%。


 僧侶84%。


 魔法使い80%。


「いやあああああああああああああああああああああ!!」


 魔王の娘は力の限り叫んだ。


「殺す殺すぅ……絶対……ううう」


 魔王の娘はくじけそうになる心を奮い立たせ、魔王に代々伝わる古代魔法を放つ。


 火炎の柱が次々に立ち、著しく着衣率の低い勇者パーティを焼き尽くした!


「はぁ……はぁ……これで、やったか!?」


 魔王の娘は肩で息をし、黒煙立つやけつく景色を見つめた。


 しかし。


 強くてニューゲームな勇者パーティは、それぐらいでは倒せなかった。


 魔王の娘は絶望する。


「そ、そんな……くそっ」


 黒煙の中、現れたのは。


 勇者89%。


 戦士98%。


 僧侶84%。


 魔法使い90%。


「いやあああああああああああああああああああああ!!」


 何かが色々と燃え落ちたのを見て魔王の娘は慟哭した。


「馬鹿!変態!最低!今すぐ死ね!今すぐ……!!」


 次々と繰り出される最上級攻撃魔法にも、勇者たちは身じろがない。


 鍛え上げられた肉体の四人は魔王の娘の攻撃魔法をものともせず、ずんずんとこちらに歩みを進めて来る。


「いやあっ、いやあっ……もう、許して……」


 勇者たちのあれがもうどうなったりして文章には書けないあられもない有様である。


「お願い!止まって!」


 勇者たちはある地点で止まった。


「こっ、これ以上近づかないで……!」


 勇者は魔王の慌てぶりを鼻で笑った。


「どうした?怖気づいたか」

「怖気づくわ馬鹿ッ。ま、まさかこれが目的……?」

「ふっ。いくらでも魔法を放つがいい。ビキニアーマーさえ着ていれば、俺たちは無敵だ!!」


 四人が近づいて来る──


「いやあああああ!もう来ないでええええ」


 魔王の娘は泣き出した。


 魔法を放ち続ければ、彼らはいずれ100%になってしまうだろう。


 魔王の娘は観念した。


「……もう、世界は滅ぼさないと誓うか!?」

「うっ、うっ、誓いますぅ」

「悪いことはしないな!?」

「しましぇん……だから、もう帰って頼みますぅぅぅ」

「よし、そこまで言うなら許してやろう。また何かやらかしやがったら、ビキニアーマーで駆けつけるぞ!」

「そ、それだけはそれだけはごきゃんべんを……!」


 魔王の娘はもはや呂律も回っていない。


 勇者は剣を収めた。


「さあ、帰ろう」


 勇者が振り返り、三人は頷いた。


 勇者の帰還、王国に凱旋だ……!




「陛下」

「何だ」

「勇者らが帰還いたしました」

「うん、ゆめゆめ城には入れるな」


 国王は城の窓から、門番と揉めているあられもない姿の勇者パーティを眺めていた。


「一応、真の魔王を倒したとのことですが……」

「そんなことはもうどうでも良い。あの変態どもを牢にぶち込め」


 かくして真エンディングは誰も予想しえなかった、苦くも辛い結末を迎えた──




 強くてニューゲーム(三周目)をはじめますか?


「はい」




 彼らの冒険は三周目に入った。


 三周目の特典は──


①全裸(100%)なら防御力が体力の4倍!

②真の魔王の妹が登場!

③「強制花嫁イベント」を確約!




????「いやあああああああああああああああああああああ!!」

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強くてニューゲームなら男でもビキニアーマーが着られるって言うから 殿水結子@書籍化「娼館の乙女」 @tonomizu

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