第7話 悪魔の囁き
地図もない土地勘もない3人が川沿いをひたすら歩てたどり着い小さな村
第一村人がアブドゥルを見るや叫ばれ、説明も虚しく誘拐犯と攫われた令嬢に間違えられて、村の自警団や近くの町の兵士まで呼ばれて、すったもんだあり
アブドゥルが「ここは私が食い止めます」って言うから、馬パクってカヤックと2人乗りして村を出てきた←イマココ
「隊長が完全に誘拐犯や山賊とか犯罪者扱いでしたね…みんな新しい領主って知らないんですか?」
「領民にお披露目してないとは言え、田舎の村は情報遅いのよ…人は都合の良い事しか信じないし。私たちが夫婦に見えないから仕方ないわ。まあ元はと言えばアブドゥル様が拉致事件なんて起こすからよ」
「いや、俺らの人相悪いんで仕方ねっス」
「あら、カヤックはカッコイイのに?服のせいかしら?アブドゥル様がいたから同類にみられたのねきっと」
「…マリーウェザー様は本気で俺がカッコよく見えてるんですか?俺、三角つり目ですよ?今までカッコイイなんて言われた事ないです」
「そうなの?アルラシードでは切れ長の一重は受けが悪いのね。ライバルが少なくて私は嬉しいわ、カヤックはカッコイイから3年経つまでに取られそうで心配よ」
「マジかー、あんためちゃくちゃ可愛いな…でも俺より凄い奴いっぱいいるし。…いつかマリーウェザー様の目が覚めたら俺なんか」
「俺なんか何?目ならしっかり覚めてるよ?もぅ、カヤックは凄くカッコイイから…ふぅ熱いわ」パタパタ扇ぐ
カヤックがキュンと照れて顔を手で隠した
馬に2人乗りして、ぴったり密着してるから抱きしめられてるみたいでマリーウェザーの甘酸っぱい胸はドキドキしている
「今が永遠ならいいのに…夢なら覚めるな」ボソッ
マリーウェザーの指輪とカヤックの指輪
趣きが似てるからペアリングに見える、カヤックにはそれが体験したことの証しになっていた。
マリーウェザーが無事に離縁できたら結ばれるのだろうか?とぼんやり考えていた
賢者の杖で馬に
馬を走らせて数時間、昼頃に無事に領主館に到着したマリーウェザー達。もちろんカヤックは誘拐犯扱いされたのだが
「カヤックは川に落ちた私を助けてくれた命の恩人なのよ!それからもずっと私を守ってくれたの、こんなに信頼できる御仁は他にいないわ!今日から私の護衛騎士よ」
と皆を言いくるめてカヤックはゴロツキ兵から伯爵夫人の護衛騎士に
執事頭「アブドゥル様はご一緒ではなかったのですか?」
「戻って来る途中の村で代官の不正に気づいたの、アブドゥル様は残ったわ。こちらでも調べるから資料を用意しといて!それと、グロステーレの王様に手紙を書くわ、それも準備をお願い」しれっ
執事頭「…かしこまりました」
「侍女長、地下牢の2人を出してとりあえず西の塔の客間に入れといて?お世話にリタを向かわせて頂戴。
お腹すいたからお昼を出すよう伝えてくれる?昨日あれから食べてないの、もうお腹ペコペコよ。それとカヤックに湯浴みと着替えも用意して、昼食をとりながら今後の事について会議もするからカヤックの分の食事も一緒に用意してね
…何となくだけど、アブドゥル様も帰ってきそうだから一応そっちも用意しといて?」
侍女長「…かしこまりました」
「…みんなどうしたの?ほら動きなさい」手をパンと叩いて促す
アニー「あのっ奥様は何だか人が変わったようですね」
「ふふっ…人間、死にかけると色々と見えてくるものなのよ。短い人生の走馬灯を見たのだけど、前世の記憶まで見えたみたいなの」
「は?え?前世ですか?」
「冗談よ、私も湯浴みしたいから準備お願いね。カヤックまた後でね、湯浴みしたらお昼を食べましょう」
「あ、ハイわかりました」
「それとアニー、あなたの実家は商会なのよね?ちょっとお願いがあるのだけど――…」
マリーウェザーが湯浴みを終えてカヤックと昼食を食べてる頃に予想通りアブドゥルが馬より早く走って帰ってきた
「おかえりなさいませ、アブドゥル様もゆっくり湯浴みなさるといいわ…いつもちゃんと洗ってるの?」
アブドゥルがいつもより念入りに湯浴みしてる間にカヤックと昼食を済ませ今後の方針をザックリだが紙に書き起こし方々へ指示を出す
マリーウェザーの変わりように皆が驚いたが「死にかけて目が覚めたの、村を実際に見てきてこのままじゃ駄目だとカヤックに諭されたのよ」で全部誤魔化してカヤック上げ上げキャンペーンする
館にあった剣を賢者の杖の錬金術で錬成し直して、カヤック専用の飾りの付いた剣を創り、アブドゥルが湯浴みしてる間にサクッと騎士の就任式を済ませた。侍女長と執事頭さえ押さえておけば後はどうにでもなるから。
お喋りなメイドに小銭を掴ませ「館中のみんなにカヤックが護衛騎士だって伝えといてね」と周知も済ませる
※後にカヤックはワニのいる濁流に飛び込んだり、高さ100メートルから滝壺に飛んだ勇者になっていた
褐色肌の使用人が増えてきた館でカヤックは羨望と早くも嫉妬の眼差しを得ることになった。補充要員をカヤックに選ばせる事で嫉妬からの嫌がらせを減らす
「3〜5人くらい探してるって伝えて1人選んだら後は保留にすればみんな大人しく頑張るわよ?その1人もたっぷりと勿体ぶって選べばいいの、お試し期間も設けてもいいわ」
「え?俺が選んでいいんですか?」
「カヤックが上司だから部下を選ぶのは当然じゃない。経験が豊富そうな老剣士がいれば理想だけど中々いないわよね」
「護衛なのに老剣士なんですか?え?」
「護衛経験があればカヤックの為になるわよ?仕える上で必要なマナーなんかもこれからは覚えないとね。読み書きは私が教えるけど鍛錬とかは上手な人に師事した方がいいわ」
「勉強かぁ…」
「ふふっカヤックは勉強が苦手なの?私と一緒に頑張りましょうね」
執事頭が息を切らせて走ってきた
「奥様、王宮から使者の方が手紙を持って来られました」
「手紙を受け取ったの?」
「応接間で待ってもらってます、それが、ブローニュ子爵子息だと名乗られて、奥様にお目通りを要求されてます。直接手紙を渡すよう申し付けられてるとおっしゃって」
「アブドゥル様は食事は終わったの?一緒に会いに行くわ。カヤック早速だけど護衛してね」
「それがアブドゥル様は先に行かれました、奥様もお願いします」
それを先に言ってよね!
応接間に向かうとアブドゥルが仁王立ちしていて、向かい側の子爵子息がソファの後ろに隠れていた
「お待たせ致しました、私がマリーウェザーでございます。今お茶を用意させます…アブドゥル様もおかけ下さい」
子爵子息「わた、私はマリーウェザー嬢に会いに来たのだ!アルラフマーン伯爵に用はない!」
「妻に何用ですか?」ゴォォォと闘気が燃える
「ひぃぃっ!」
「話しが進まないから旦那様は部屋から出て下さる?部屋の前で張り付いてても窓から覗いてもかまいませんわ」
「マリーウェザー様そんな!危険です!どこの馬の骨とも知れぬ男と2人など許可できません!」
「護衛ならカヤックがいますわ!執事頭(セバス)が確認したい書類があると言ってましたよ?……大人しく部屋から出るなら後でアブドゥル様宛に恋文でもしたためましょうか?」
「は?恋文?!」
「ええ、普通は婚約期間にお互い送り合うものですけど、私たちに婚約期間はありませんでしたから手紙1枚も書いてませんよね?
良ければ今すぐ書いてきて下さいませ…ふふっ無骨なアブドゥル様のお手紙楽しみでしてよ?」
アブドゥルが部屋から出て行くと、子爵子息がソファに座り直して偉そうにふんぞり返りお茶を飲む
そしてカヤックを睨んだ
「ふん!蛮族を護衛にせねばならぬなど、ハインツの人材不足も深刻ですね!」
「…アルラフマーン領になる前に誰か義勇軍でも送って来てくださったら私はここにいませんわ」
「ブローニュはミシェランド公爵派閥ですからね!ハインツに味方がいないのは自業自得では?」
え?そうなの?ハインツってそんな社交下手なの?
実母のエリザベス様はダビルド公爵令嬢だったんでしょ?
娘が死んだから孫放置でもノータッチだったのかな?(※同じ国内だけど最北と最南で増援の見込みなかった)
「ほぉ…ハインツの幻の妖精姫の噂は真実でしたか。お初にお目にかかる、私はブローニュ子爵の次男ロドリゲスです!兄が病弱ですから私が爵位を継ぐ予定です!」ドヤ顔
若造のロドリゲスはニヤニヤしてる
「マリーウェザー・アルラフマーンですわ…それで今日はわざわざブローニュから何用で来られましたの?」
「お!そうでしたね。私は王都から来ました!第二王子殿下から手紙を預かって参りました」
王家が私を差し出したくせに今更何の用だよ?と思いつつ手紙を開く
手紙には美辞麗句が並んで春の宴の前にまた会いたいと書かれていた
え?なんで?それにまた会いたいって?第二王子?誰よ?
「あ、結婚式にいらしてた王族の方ですか?えっと…シュナイダー殿下でしたか?」
「そうです……(チラッ)結婚式で殿下に助けを求めましたよね?シュナイダー殿下はマリーウェザー嬢を助けたいと仰せです」
「は?何ですって?」
ロドリゲスはカヤックをチラチラ気にしている
「だから、マリーウェザー様は無理やり結婚してショックで倒れたのですよね?殿下は亡命するなら手を貸すそうです」
「……亡命はしませんが春から留学はしたいです。カレッジでもアカデミーでも構わないので勉強させて下さい。何もなければ私も15歳になる年…再来年の春には通う予定でしたから」
「は?今15歳じゃ?え?今おいくつですか?」
「来月13歳ですわ!んまあ、私が老けてるとおっしゃりたいの?」
「いえそんなまさか!!それなら、え?今はまだ12歳ですか?…そんな年齢で蛮族の邪悪な鬼と結婚など、なんと憐れな…」
「貴族の政略結婚なんて珍しくもないわ。貴殿に憐れまれる謂れはございません…第二王子殿下が支援して下さるなら春から私を学園に通わせて下さいな?
丁度お手紙を書こうと思っていた所ですの、飛び級制度を利用して半年ほどでかまいませんわ」
「返事の手紙を預かって来るよう言われてたからそれはありがたいですが…亡命しないのですか?」
「ええまあ、それなりに楽しくやってますから?」
カヤックをチラチラ見て小声で話してくるけど丸聞こえだよ?
「本当の事は手紙にしたためて下さい…ここでは話せない事もあるでしょう?私が第二王子殿下に直接手紙を渡しましょう」
「ハァー、言い方を変えます…では、はっきり申し上げます。ハインツの民を残して私だけ亡命できませんわ!
私はこの地を復興させたいのです!記録に残っているハインツは、もっと収穫量もあって強い土地でしたのに。
亡命ではなく支援して欲しいわ!大豆が欲しいです!一万株ほどタダで下さいとお伝え下さいませ。
王家が領地ごと私を差し出した事は忘れませんけど、今はもう恨んでませんわ。この地の民も見捨てたれたなどと思ってませんことよ……ホホホ」
「え?…王家が見捨てたなどと、ハインツが増援を断ったのですよ!それで間に合わなくて…その」
「間に合わないなんて本当かしら?それに亡命の手助けをするなら結婚前にして欲しかったわ!
おおかた結婚式で私を見て、幼く手懐けやすそうな小娘だと思ったからでしょう?ハインツを奪い返そうと亡命を持ち掛けたのかしら?」
「そなた不敬にも程があるぞ!」
「私はシュナイダー殿下と一言も話してないのに助けを求めてるですって?」
(※アブドゥルの挨拶に合わせてカーテシーしただけ)
「なっ!一言も話してないだと?シュナイダー殿下は助けてと手を伸ばされたと申していたぞ!嘘をつくな」
「…民を見捨てて亡命するような恥知らずだと思われていたのですか?腐っても私はこの地の領主の娘ですよ?
一度お会いしただけで言葉も交わしてない王族の方にそのように思われてたなんて…やはり民ごと私たちは王家に捨てられたのね」
オヨヨとしなをつくって泣き真似してみた。
ぶっちゃけどんな人だったかな?記憶にない殿下が亡命?
「いや、それは…その…あれ?想いあってるんじゃ?殿下はマリーウェザー嬢と2人で話されたのでは?えぇ?聞いてた話と違う」
使者は混乱していた
「もしかして一目惚れした殿下の横恋慕だったりして?敵の大将にくれてやるのが惜しくなったんじゃ?」
カヤックのつぶやきはしっかり聞こえた
「ぶ、無礼者め!シュナイダー殿下がまさかそのような事、ありえぬ!」
「あぁなるほど。だから会いたいとか、運命の導きとか書いてあったのね?心を揺さぶるとか美しいとか妖精のようだとか美辞麗句ばかりで手紙の意図が分からなかったわ。
王子殿下に婚約者いるでしょ?結婚前から人妻に浮気なんて……いえ何でも」
「シュナイダー殿下の婚約者は婚約破棄して、あ、その、訳あって今はいないのだ!」
「ふーん、そんなややこしいお方からの支援とかいらないわ。でも王様に留学許可は欲しいわねアカデミー(私立)でもカレッジ(王立)でもどっちでもいいから
手紙を2通お渡しするから王宮に届けて下さる?
それとすぐ帰すのも悪いから今日は泊まってらして?」
「え?」
「晩餐を用意するわ、使者の方を歓迎したって事実は大事ですもの。おもてなしさせて下さいませフフ」
「ああ、そうする」
ロドリゲスはゴクリと息を呑んだ
少し話しただけの年端もいかないマリーウェザーの色香にすっかり骨抜きになっていた
「部屋を用意させます、今しばらくこちらでお待ち下さいませ」
サラサラと手紙をその場で書いて渡す。
第二王子殿下には手紙を受け取った事と「私の民と領地」を肥えさせるのがのが使命だとしたためる。
失礼に当たらない断り文句が思いつかない
部屋から出てアニーやメイドに指示する
「アブドゥル様、どうせどこかで聞いてるのよね?使者を丁重にもてなす事になりました。アニー、メイドに部屋の準備をさせて、それからリタを呼んで」
「かしこまりました」
窓に張り付いてたアブドゥルが入ってきた
「マリーウェザー様がもてなすと言うならそうしますが…あの使者は何をしに来たのです!第二王子殿下が人妻に懸想してるのですか!グロステーレの王族は腐ってるのか!」
「はいどうぞ。アブドゥル様に恋文書いてみました。
恥ずかしいので夜一人で読んで下さいね?文通始まったばかりの文面です」
「本当に書いて下さったのですね!ふぉぉぉ!」
それからナタリーに諸々の準備を押し付けて
リタとカヤックを連れて西の塔の客間へ行く、牢から出したお嬢様を見に来たのだ
リタ「すっごい我儘なんですよぅ、ずっと自分がマリーウェザーだって言って聞かないんです!もう面倒見たくないですよ!」
「リタ…ご苦労さま。でもリタなら上手くやってくれると思ってたわ、ありがとう」
ドアを開けたら叫ばれた
「メアリー!私をよくも閉じ込めたわね…
キャァァ!そこの蛮族に私を襲わせるつもりね!最低!あんたがそんな女だったなんて!イヤー!犯されるぅ助けてぇ!」
「え?俺ですか?いやいや鏡見てくれよ、ってかもう他の女じゃたたねーよムリ!」
「んまあ!カヤック!お嬢様を誘惑しないでよ」
「えぇ~?まさかの俺が怒られるの?目の前に極上のステーキがあるのに腐った人参にかぶりつく馬鹿いねーッス」
「お嬢様が落ち着かないから、あなたは部屋の外ね」
「あ、助かった。相手させられるのかと肝が冷えました」
「当たり前ですけどアブドゥル様も入ってこないで下さいね」
バタンと扉を閉めた
「メアリー!あなたどういうつもり!」
「ふふっ…元気そうで安心しましたお嬢様」
以下カヤック視点――
閉まった扉をほんの少し開けてアブドゥルが中を覗いている…それに便乗する
「メアリー…この方がマリーウェザー様なのよ」
乳母がオロオロするばかりでまるで諌めてない
床には割れた食器が散乱してる
牢から出してもらって与えられた食事が気に入らないとぶちまけたのか?我儘がひど過ぎるだろ
「私がマリーウェザーよ!どうしてなのメアリー!」
「はい、あなたのメアリーです、私のマリーウェザーお嬢様…あなたがマリーウェザーですわ。…御髪が乱れてますよ、お肌も荒れてしまって、湯浴みなさいますか?」
「な、なんのつもりよ…」
「リタは落ちてる食器を片付けて」
「かしこまりました」
「2人がいなくなってから心配してたんですよ…お嬢様は市井で暮らすための家事スキルを身につけてなかったでしょう?お食事も満足に取れなかったんじゃないですか?」
「私のドレスと宝石をいくつか売ったのよ、それでしばらくは困らなかったわよ!ふん!ベッドは硬いし、部屋は散らかるし臭いし、不味いご飯だけでオヤツも無い、湯浴みも出来ないし、新しいドレスだってないのよ!」
「お嬢様は成長期ですものね。湯浴みの準備をしましょう…ここの食事もおいしくありませんでした?」
「いつも食べてたあの柔らかいパンが食べたいわ…好きなの。メリサ(乳母)は作れないって言うし…あれは」
乳母「あれはメア…マリーウェザー様が作っていたのよ。朝早く起きてパンをこねていたの…庭師のお婆さんが亡くなってからはマリーウェザー様が一人で洗濯も掃除もやっていたわ。あなたの好きなお菓子も料理も、マリーウェザー様が作っていたのよ」
マリーウェザーの足音が遠ざかる音がする
(※湯浴みの用意をしに向かった)
「…お菓子を作る所はたまに見てたから知ってたけど。
フハッ、じゃあ私は本物のお嬢様をこき使って、本物のお嬢様が着るはずだったドレスを着て、宝石も何もかも奪ってたって言うの?
ふざけないで!アンタ達がやった事じゃない!
どうしてなの!どうして私がマリーウェザーじゃないのよ!ねえ!」
「ごめんなさいメアリー…私が悪いの、あなたは私が産んだメアリーなのよ」
「嫌よー!聞きたくない!」
バシンと何かを投げつけた音がする
アブドゥルがハァハァしながら中を覗いていて、緊張のせいか口が渇いて臭い息が漂ってくる…吐きそうで気持ち悪い
マリーウェザーが言ってたなんか臭いってコレのことか…おえっ
「隊長、息遣いちょっ変態みたいですって!」
「うるさいカヤック静かにしろ!」
※通りすがりのメイドに見られてる
「お嬢様、湯浴みの準備が整いましたよ
また洗って差し上げます…最後に入ったのいつですか?」
リタ「え?もう?準備終えるのが早すぎるわ」
「私は優秀なメイドなのよ。さあマリーウェザーお嬢様、湯浴みしましょう!私の可愛いお嬢様が薄汚れてるなんて嫌なのです。
今日はブローニュ子爵子息のロドリゲス様がいらしてますの。お嬢様も晩餐に参加して下さいませ」
リタ「え!?」
乳母「マリーウェザー様!?」
「どうしました?いつもみたいにマリーウェザーお嬢様の好きな花の湯でございます」
「あんた気持ち悪いのよ!なんでいつも通り普通でいられるのよ!
あんたなんて大っきらいよ!いつも何でもそつなくこなして!勉強もマナーもダンスも読み書き計算も何でも簡単に出来てズルいわ!
サラサラの白い髪も嫌い!大粒の宝石のような青い目も嫌い!白くてそばかす一つない肌も嫌いよ!
その細い手足も長い指も全部全部大っきらいよ!
あんたのもの全部奪ってやるわ!マリーウェザーは私なんだから!」
「ふふっ欲しいならあげますよ…お嬢様は私がいないと何も出来ないじゃないですか。ぶっちゃけお母さんも生活能力ないし。ザル勘定すぎて、もうお金尽きてませんか?
今まで私の髪を売って小遣いにしてたけど、それがない事に気付いたんじゃないですか?
あ、別に咎めてませんよ?食べ盛りの子ども2人いたらお金かかりますもんね」
「時々あんたの髪がバッサリ短くなるのってそう言う事だったの?子供の髪を売るなんて最低じゃない!あんた母親としても失格よ!乳母のくせに!」
「申し訳ございません!お許しを」
「いやだから責めてませんよ?怒ってもないし?髪くらい、いくらでも伸びるから、本当にもう全然気にしてませんよ?」
「あんたはもっと気にしなさいよ!自分の髪を勝手に売られたのよ!しかもそこの女はあんたがマリーウェザーだって知ってたのに!」
「お嬢様、お金無いと辛い思いするの私たちなのですよ?それなのに一度もひもじい思いしてないじゃない?
そう言えば…農村からたまに無料で野菜貰ってましたね。おかげで飢えませんでした、私たちは恵まれてたんですよ、ジャンやビリーやフーゴだってお嬢様にいつも貢いでましたね…懐かしい」
「私は貢がれた事なんて一度もないわよ、みんなあんたに貢いでたのよ!
あんたは自分への貢ぎ物を私に渡してただけじゃない!馬鹿じゃないの!」
「え?でも"お嬢様どうしてる?"とかよく聞かれましたよ!」
「そんなのあんたと話したいから私の話題を出してただけでしょ!あんたがあたしの話しかしないからみんな乗ってくれてるだけよ!」
「知らなかった…農村は、安産型ぽっちゃり系がモテるのとか思ってました」
「私はね、自分が本当に可愛いってずっと思ってたのよ!だけど市井で現実を知ったの!あんた達が可愛い可愛いって言うから私は自分が可愛いって思い込んで育ったのよ馬鹿!」
「お嬢様は可愛いですよ?」
「あんたにだけは言われたくないわよ!何なの嫌味?はあ?馬鹿にしないでよ!細い娘がモテるのよ馬鹿!」
「馬鹿にしてませんよ、怒った顔もムチムチも可愛いですよ。私のお嬢様は本当に可愛いですよ?切れ長で一重のつぶらな昼空の雲のような瞳も、ふわふわの明るい髪もチャーミーなそばかすも…可愛くて可愛くて仕方ないです。
ふふっブーブー文句言ってないでホラ早く、ぬるくなる前に湯浴みしますよ?頭洗ってスッキリしましょうねー?
出たら果実水とオヤツありますから、夕食前だからあんまり食べちゃ駄目ですよー?さぁさぁちょっと臭いますから念入りに洗ってあげますねアハッ」
「何よー!馬鹿にしてぇー!馬鹿馬鹿!」
「ハイハイ続きは後で聞きますよー、ハイ、手を上げてドレス脱ぎましょうねー?ふふっ晩餐用の新しいドレスを用意しましたから着てくださいよ」
マリーウェザーとメアリーの声が遠くなる
そしてリタが皿を持って部屋から出てきた
「わっ!…お二人はずっとそこにいたのですか?」
「あー、マリーウェザー様の様子どうだった?」
「奥様はメアリーさんが好きなんですね…罵られてもずっとニコニコ嬉しそうでした。あんな我儘言われてるのに信じられません。
でも、なんかわかる気がします。
奥様は置いていかれて一人の所を無理やり連れてこられたんですよね?あの乳母とメアリーさんが奥様の心の平穏なのかもしれません。
奥様はまだ12歳ですよ、落ち着いて見えても心の中は捨てられた時のままだったのかも…。今ようやく奥様の時間が動き出したのかもしれませんよ。
急な変化は心に負担なんですよ。覚悟も時間も与えないで結婚して、本当は何かに縋りつきたかったんじゃないですか?
侍女長も執事頭も厳しい現実を突きつけるだけで奥様の心は置き去りでしたから」
「私の胸はいつでも空いてる、縋りつきたいならいくらでも来ていいのに…マリーウェザー様はあの母子の何が良いのだ?」
「旦那様は完璧超人ですから、奥様はあの抜けてるボンクラ母娘のお世話をする事で必要とされて満たされていたんじゃ?」
リタはあの母娘が嫌いだよな…
「何っ!?それでは私も不甲斐ない姿を晒したほうがいいのか!何をすれば分かってもらえるのだ」
「ひっ、それは私には分かりませんよ、お皿片付けてきます…失礼します」
「隊長、リタを怖がらせちゃ駄目ですよ」
「ふっ!カヤックが懐かれるのは、お前が至らない所だらけだったからだな!お前はあの母子の代わりに世話されていたにすぎない!あの母子が来たからお役御免だな?退職金は弾むぞハハハ」
ザワっとした、モヤモヤする、俺が好かれてるのって…不甲斐ないせいなのか?
確かに、ここにきて甲斐甲斐しく世話されてる気がする、護衛騎士にもしてもらって服も剣も与えられた。俺は施しを受けるばかりの…あの母子と同じ?
それから湯浴みを終わらせた声が聞こえてきて、化粧したり着替えたり…
部屋から出てきたマリーウェザーは晴れ渡る笑顔でスッキリしていた
「あ、アブドゥル様まだいたの?…マリーウェザーお嬢様に挨拶しますか?
お嬢様ーっ、マリーウェザー・ハインツが王命で結婚させられた相手のアブドゥル・アルラフマーン伯爵ですよ。お嬢様がお望みなら全て差し上げます…異国の英雄ですよ?物語の王子様と似たようなものです。白馬の王子様と結婚したいって言ってましたよね?」
アブドゥル「なっ?!」
「ですがカヤックだけは返してもらいます、私の大切な友達で私の護衛騎士ですから」
あっヤバい泣きそう嬉しい…俺ちゃんとマリーウェザーの特別で、お嬢様よりも大事にされてた
「はあ?カヤックって誰よ?あんたの一番はあたしでしょ!あんたはア・タ・シに媚びてればいいのよ!馬鹿じゃないの!世間知らずの箱入り娘なんて騙されて犯されて捨てられるのがオチよ!頭と股が私よりゆるそうな阿呆女は黙ってあたしに従いなさい!
いっちょ前に色気づいてんじゃないわよ!」
「マリーウェザー様は私の妻だ!これ以上の侮辱は聞き捨てならない!」
ドアを大きく開けて姿を晒した
「は?……ギャァァァ!モンスターよぉ!犯されるぅ!」
「メアリー!娘に手出しさせません」
「私はマリーウェザー様の他に誰も嫁はいらない!」
「イヤーッ!私はマリーウェザーじゃないわぁ!こんな蛮族の嫁は嫌よぉ!わぁーん!そんなの酷すぎるわ!助けて誰かぁ!」
「大丈夫よメアリー!あなたはメアリーだから」
バカ母娘が抱き合って馬鹿みたいだ
「マリーウェザーお嬢様、遠慮しなくていいですよ?お望み通り地位も立場もお返し致しますわ、全部自分の物って言ってたし私もいらないから」
「嫌よぅ!蛮族の嫁になるくらいなら死んだほうがマシよー、メアリーの馬鹿馬鹿!もう知らない!あんたなんか大嫌いよ!うぇーん」
「お嬢様を泣かせてしまったわ…」
「泣きたい時もありますよ、好きなだけ泣かせてあげればいいんですって」
「カヤックは優しいのね…ちょっと妬けちゃう」
「うっす…」
初めて見るマリーウェザーの複雑な表情
それを台無しにするアブドゥルの殺意の籠もった視線
「隊長…顔が怖ぇ」
数時間後の晩餐――…
「――それでシュナイダー殿下の婚約者は種違いの兄妹であった事が判明して婚約が破棄されたのだ!この事は国中を震撼させた大事件なのに、ハインツは田舎だから情報が滞ってるのだな?」
「んまあ!そんな事がありましたの?事実は小説より奇なりですわね。
ささ、もう一杯どうぞ…それでシュナイダー殿下と王太子殿下の派閥は今どうなってますの?」
「王太子殿下の派閥は――」
べらべらよく喋る使者だな…
マリーウェザー様が上手く相槌ちをして話を聞き出してるのか。
子爵子息も満更でもなさそうにニヤニヤ気持ち悪い視線を向けてる
アブドゥル隊長は恨みがましく睨んでるけど、完全に話から取り残されてるし
「ねぇ、ロドリゲス様は婚約者がいませんの?」
「私は兄が死んだら後を継ぐ予定なのだ…今の兄の婚約者をスライドするか新たに有力貴族から得るか…なのだよメアリー嬢」
「兄の婚約者?…貴方様のような素敵なお方に兄君のお下がりは似合わなくてよ?新しい出会いを求めればよろしいのに」
マリーウェザー様が何をどうやったのか、メアリー嬢が別人のようになっていた
(※特殊メイクと錬金術で着痩せ服)
多少見られるようになったメアリーは、ロドリゲスに色目を使って取り入ろうとしている。
そしてマリーウェザーの腹違いの姉だと主張している
メアリーは自身をハインツ辺境伯がメイドに産ませた娘だと言い出した。マリーウェザーはメアリーが姉で納得してるようだ
「既に嫁いだ実妹が2人いるみたいですけど、結婚式にも来ないならあちらも縁を切ってるのでしょう。会ったこともない実姉よりお嬢様の方が大事です。ふふっ私のお姉様になって下さるのね。姉妹ごっこが本当になるなんて嬉しいですわ」と言っていて好きにさせるようだ
そして、その晩事件が起きた
妙な胸騒ぎがして寝付けなく、厠へ行こうと部屋を出た
そこでカヤックは見た、夜中にアブドゥルが音もなくスルリとマリーウェザーの部屋へ入って行くところを
夫婦だから同じ部屋で寝ても問題ないがカヤックの胸中は穏やかではなかった、意を決して部屋に飛び込むと
アブドゥルがハァハァしながらマリーウェザーの足の指をねぶっていた。マリーウェザーは爆睡してて起きていない
「ちょっ隊長!何してるんスか!」
「む!カヤック何しに来た!夫婦の寝室にお前が入っていい訳がなかろう出て行け!」
「ひっ!股がギンギンすぎて引く引く!足舐めキンモー!隊長やってる事が変態すぎて気持ち悪いですよ!」
「ふん!夫婦の営みだ!静かにしろ騒ぐな!」
「絶対に違いますよね!マリーウェザー様、全然起きないし…まさか薬?」
「ふん、私がマリーウェザー様を害するはずが無いだろう(前世で)足なら舐めても良いと許可を得ている!邪魔するな!せっかく良い所だったのに!私の、夫婦の楽しみの最中だった、このやり場のない情熱どうしてくれる」
(※前世でもそんな許可してない)
「んぅ…」
マリーウェザーが寝返りをうった
ササッと2人はベッドの脇に隠れた、アブドゥルが足を舐めるために膝まであげていた毛布が更にめくれて、艶めかしい白い太ももが露出する
「ゴクリ」――2人の喉がなった
「ハッ!…カヤック、今すぐ目を潰されるのと記憶がなくなるまで殴られるのと選ばせてやる」
「はぁ?…ひっ!本気の闘気をまとうのやめて下さいよ!ダンジョン討伐より燃えてるんですけど!ちょっ」
――ガタン、ガタ
その時、外から声が聞こえてきて馬車が動いてるような音もする。2人が窓から覗くと、メアリーがロドリゲスと馬車に乗っている所だった
アブドゥルとカヤックはあえて逃がした、止める必要もないから
その後、メアリーやロドリゲスのいた部屋を捜索するとチョコの包みと手紙が落ちていた
ロドリゲスがマリーウェザーにお土産のチョコを渡した、マリーウェザーがいつもの習慣で貰ったチョコをメアリーに渡す
ここまではカヤックも知ってる事だった
それは媚薬入りのチョコで手紙も挟まっていた、夜中に部屋から抜け出したメアリーがロドリゲスの馬車に乗って逃げた
マリーウェザーは夕飯の後は倒れるように寝て翌日の昼近くまで起きてこなかった――
「カヤック……お嬢様がいなくなってしまったわ」
「メアリー嬢は自分の意思で出て行ったんです、彼女らしく自由に生きて行くんで放っておけば?…元気出せよマリー」
(※東屋で2人きりだからマリー呼び)
「言ってくれれば路銀や金目の物を渡したのに…お嬢様はマリーウェザーになりたかったんじゃないの?私のお嬢様…うぅ私はお嬢様のメイドのメアリーでいられないのね」
「あいつは贅沢がしたかっただけじゃないか?あの子爵子息が金持ってそうだと思って付いて行ったんだ。マリーウェザーはあんただろ?あんなアバズレのどこがいいんだよ…全く」
「ふっ…私がメアリーなら平民のカヤックとも普通に友達になって、もっと仲良くなれたかしら?」
"今抱きしめちゃえよ"
そんな悪魔の囁きが聞こえた気がした…
涙に濡れるマリーウェザーの頭をポンと撫でて振り向いて貰うだけに留まった
ヤンデレ拗らせ戦鬼と白い結婚 ワシュウ @kazokuno-uta
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