第6話 邪神の神殿ダンジョン2

ちょっと迷子になったけど、ボス部屋らしき扉の前に来た


「準備はいいか…って!開けるの早いよっ!」


アブドゥルが何でもない風で扉を開けた

「え?マリーウェザー様は早く帰りたいのだと思いまして」


「うん…もういいよ入ろう」


神殿の小さな西の塔に入ったつもりが、中は広くて中央より奥に祭壇が組まれていた。沢山の頭蓋骨と肉片の供物が置かれていた


「な、何だこの部屋は!」カヤックが驚いて叫ぶような声を出す


そして祭壇の前にいた茶色いローブの男が振り返った

「来るのが遅いぞ侵入者どもめ!ハハハッ」


「む、邪教の教祖か!」


「アイシクルショット!」


驚いて固まってる2人をよそにマリーウェザーは先制攻撃をする、細長く固めた氷の塊を飛ばした


「グァァァァァ!」

ローブの男の心臓の辺りを氷が貫き叫び声をあげた


「やったかな?」


「聖女様が人を殺した…」カヤックが驚愕の表情で青くなった


「ちょっと!勘違いしないでよ!ヤツも呪いの土人形だよ?成功した個体だろうね」と言う事にしよう


ダンジョンのボス部屋にいるヤツはAIモンスターかNPCだね多分。ここダンジョンだし!

案の定心臓を貫かれてるはずなのにフラフラ歩いて祭壇へ向かう


「ゴハッ…グフゥ…おのれぇよくも…グァァァ!」


賢者の杖からファイアーボールを出して間髪入れずローブの男にぶつけた

ボォォと汚い茶色のローブはよく燃えて、氷がポタポタと血が混ざりながら溶けていく


「聖女なのに容赦ねぇ…普通の人間にしか見えないのに」


「人間だったとしても、そこの髑髏の分だけ被害者がいるんだよ、ヤバい儀式を見過ごせない」

多分、そこの骨も肉片も作り物のオブジェだろうけどね?

儀式はギミックがありそうだとファイアーボールを乱発する、祭壇ごと破壊しよう


だが、部屋に入った段階で時すでに遅しだった


「古に失われし魂よ、魔のものの力を借りて我が祈りを聞き届けよ…捧げるは我が魂、肉体は滅んでも願いを聞き届けよ!我が主の敵を!我が願いを聞き届けよぉぉ」


術者の男は初めから自らを生贄にして悪魔を召喚するつもりだったらしい


マリーウェザーの攻撃は供物がバラけただけで、祭壇の向こう側にある召喚陣は男の血肉で起動してしまったようだ


「ストーンバレット!地面をえぐれぇ!」


石の礫は召喚陣を削ることなく砕け散る

賢者の杖初級だと威力はこんなもん


男の体が魔法陣に溶けるように吸い込まれて消え、黒光りする魔法陣から受肉した山羊の角に黒い翼の金髪碧眼の美丈夫の堕天使あくまが出てきた


『ふん!くだらぬ、腐った魂など砕け散れ』


ローブの男の願いは叶わなかった…無念の魂が砕け散り、残ったのは召喚された堕天使のみ


マリーウェザーはファイアーボールを放つが、堕天使に届く前でぷしゅと消された


「ちっ…」

「今度は舌打ちした!俺の中の聖女のイメージ壊さないでくれよ」


『ふん!脆弱な人間め!俺は聖職者がこの世で最も嫌いなんだよ!この偽善者どもが、さっさと…』「アイシクルショット・からのスタン!」


帯電した氷を連発する、堕天使は翼を広げて氷から逃れた


「ファイアーボールは消されたけど氷の物理攻撃は効くようね、依代の人間が雑魚だったから?

2人とも物理攻撃で行くわよアイシクルショット!」


『雑魚がぁ調子に乗るなぁ!』

堕天使が手を振ると、風を纏ったドリルのような暗黒炎の矢が具現化して飛んできた


「ホーリーシールド!マリーウェザー様!」


アブドゥルが聖なる盾を出してマリーウェザーを守った


離れた所にいたカヤックは降ってくる炎の矢をレイピアで防いで走る、がしかしレイピアが砕け散った

それと同時にシールド内へギリギリ転がり込んだ


「カヤック大丈夫?」

「はい、なんとか…ふぅ」

「なんて硬い盾なの!アブドゥル凄すぎるでしょ…ステータス引き継ぎとかどこの主人公?それなんて漫画?ズルくない?」


「マリーウェザー様、あの悪魔ヤバいです!どうするんです!」


「カヤック落ち着きなさい、相手はデーモン。

対するこっちは聖女と聖剣士だよ?イニシアチブはこっちが取ってるから!…悪は聖なるものに弱くて…、物語なんかでは聖女だけなら魔に堕ちるけどアブドゥル様いるしね!勝率は7:3でこっちが7割よ」多分


「え?は?え??」

「油断しなければ勝てる相手よ、せいぜい悪魔公爵アークデーモンでしょうアレ。作戦があるの!聞いて――…

(ヒソヒソ)

…――って事よ、頭に入った?相手の攻撃が終わったらバラけるわよ、いいわね?」


『オラオラオラ!手も足も出ないかぁ?おっぱいだけの雑魚聖女さんよぉ!紅一点とかサークルクラッシャーかよ、あぁん』


「む!私の聖女様を愚弄するなぁ!」


「凍てつく吹雪と氷の礫のハリケーンよ!おりゃ!」

マリーウェザーが賢者の杖に魔力を込めて派手に竜巻を起こした


『はっそんな攻撃なんか効かな』「陽動だ!ふん!」『ギャァァ!』


闘気を纏ったアブドゥルが氷の竜巻の中から出て来て、敵の太い腕を手刀で吹き飛ばした。

そのままズドンと回し蹴りを食らわして敵の巨体が吹っ飛び柱の1つを破壊してゴロンゴロンと派手に転がった


落ちて来た天井にカヤックが巻き込まれた


マリーウェザーは走り出す

「カヤック大丈夫?今助けるから」

「ぐっ…マリーウェザー様、俺足手まといですみません」

「そう言う無駄話いいから、折れてるところない?ヒールで治る?MP消費押さえたい、エクストラスキルは馬鹿みたいに魔力食うのよ。今生は私自身に加護のバフないから…はぁ私も加護欲しいわ!」

「ぐっ腕が痛っっ…」

「折れてるの?ヒビ程度ならミドルヒール!治った?」

「あっ治りました…どうもです」

「カヤックが無事ならいいのよ」

「うっす(照)」


それからマリーウェザーは錬金術で再錬成してレイピアを修理した

「ハイ、真横から受けちゃ駄目だよ」

「すいません、レイピアなんて使った事なくて…」

「大丈夫、カヤックまだ若いから何とかなるわ!ナタの方が良かった?錬成し直すわ…ハイどうぞ」

「あ、はい…凄い、さっきから魔法みたいだ」


マリーウェザーは柱に手を当てて錬金術を使う

太い柱がみるみるえぐれていき、先の尖った長い棒に形を変えた。ポキンと柱から取り外して構える


「密度は上げたけどそれでも脆い…私も接近戦で戦うわ!一緒にレベル上げましょう!カヤックなら強くなれるよ!男って筋肉あって羨ましいわ」


マリーウェザーは棒をグルングルン振り回して使い心地を確かめた。

カヤックは見たこともない構えと流れるような棒さばきに見惚れた、ブンブン音がして高速で動く棒が円舞のようだと思った


「行くわよ!あいつ、やられた振りしてるだけよ、モンスターはちゃんと頭か核を潰さなきゃ復活するわ!」


返り血を浴びて戦い終わったような顔をしてるアブドゥルに「油断するな死んでない!」と声をかけて通り過ぎトドメを刺しに走った


トドメを刺すのに声をかけてはいけない


マリーウェザーの動きに気づいた敵が巨体に似合わず機敏な動きで転がり、マリーウェザーの追撃から逃れた


マリーウェザーは棒を振り回して勢い付けて投げつけたが、それも躱された。バルルンと壁に刺さった棒を敵に取られてしまう


マリーウェザーは嫌な予感がして咄嗟に転がって回避した、目で見るより速く棒が飛んで来たからだ。

地面に刺さったが勢いありすぎてバキンと砕けた

カヤックは柱の陰にかくれてやり過ごす


マリーウェザーはガーターベルトに刺していた賢者の杖を取り出す(※そこしか入れる場所が無かった)


ファイアーボールをいくつも出して

「アブドゥルやれ!」サッと場所をあける

「ふん!」アブドゥルはマリーウェザーが錬金術でくりだした燃える鉄球ボールを素手で殴り飛ばした

キィーンと剛速球のファイアーボールが敵に向かった


『グァッ!』

杖から攻撃を飛ばすより速くて、敵のシールドが砕け散るようなエフェクトが目に見えて、避け切れず正面から受けた

手をクロスさせて防いだが当たるたびにゴシャッゴリッと骨が折れる音がして服が燃える


「スタン!」賢者の杖の電撃を飛ばしてバチンと感電させる『ギャッ!』


「アブドゥル闘気を纏え!」

「うぉぉぉぉ!」


アブドゥルが闘気を纏い気合いをいれる

でも、それは合図だった

カヤックがすぐ近くの柱の陰から飛び出して後ろから心臓を狙ってナタを突き立てた


『ギャッ!』


敵はアブドゥルの攻撃に構えていてカヤックの一撃を防げなかった。が、しかし硬い筋肉が致命傷を防いだ。


「カヤック離れて!」


そしてアブドゥルが跳躍してトドメの一撃を繰り出す、高いところから踵落としをかまして敵の頭を確実に潰した

ブチュドゥゥンと地面がえぐれて床が大破した

(※アブドゥルは素足)


「やったかな?宝箱が出るまで終わってない、油断大敵よ」


頭の砕けた死体から黒い霧のようなものが出てきた


「あれは……カヤック下がれ!呪詛かもしれない!逃げてー!」


黒い霧は近くにいたアブドゥルとは反対方向、カヤックの元へと向かった


「カヤック!ターンアンデッド!」マリーウェザーは走ったけど間に合わなかった


聖なる光が照らされるも、カヤックに出来た陰の中へ黒い煙が入ってしまった

頭のない死体は光に照らされてボロボロと崩れて消えていく


「ぐぅぁぁぁぁ!!」


「カヤック!」

「駄目だマリーウェザー様止まれ」


アブドゥルがマリーウェザーをガッシリ捕まえる

カヤックの陰が伸びて、その陰に山羊の角が生えた


「ぐぅぅっ」

カヤックがガリガリ頭を掻きむしると、髪がパラパラ落ちてメリメリと頭に小さな角が出てきた


身悶えて体をくねらせると、背中の服を突き破って黒い翼がはえてくる


「あぁぁぁ!」

目から血の涙を流して瞳孔が金色になって、目の白い部分がどんどん黒くなっていく


『マリ…マリーウェザー様…俺、どうなってるのぉ』


カヤックが血の涙を流しながら、ぼろぼろと剥がれていく自分の手の爪を見ていた

爪が剥がれ落ちた指先に黒く凶悪な爪が新しく生えていく


「カヤック!カヤック!アブドゥル離せ!カヤックが乗っ取られる!今なら解呪ディスペルが効くかもしれないから!離して!間に合わなくなる!」


「もう間に合いません、カヤックは乗っ取られました」


ジタバタ暴れるマリーウェザーをアブドゥルは押さえつけた


『うわぁぁマリーウェザー様あぁぁァアー……アヒャッヒャッ愉快、愉快。不細工な男だがまあいいだろう』


褐色肌のカヤックの姿をしたデーモンがニタリと笑った。口から見える歯は悪魔のように尖っていた


「カヤック!カヤックの体を返せこのアクマ!」


『アーハッハッハ!麗しの聖女様ァいい気味だ!

お前の彼氏は俺様が奪ってやったぞアヒャヒャ』


「え!?」


「何をほざく、愚かで馬鹿で阿呆で愚鈍悪魔め!マリーウェザー様は私の妻だ!!カヤックは何者でもないただの一般人だ!」


『何だと!そんなバカな!可愛い顔で泣き叫んでたのに、ただの一般人なはずがっ…』「ただの一般人だぁ!」

アブドゥルが波動弾を練って容赦なくカヤックだった堕天使あくまにぶつけた


『グァァァ!』吹き飛んで壁に激突する


「キャァァ!アブドゥルやめてー!カヤックが死んじゃう!」


「マリーウェザー様!あれはもうカヤックではない!邪教の教祖が呼び出したモンスターです!」


「悪魔を封じ込めればカヤックは助かるわ!…多分!漫画とかなら、なんかそんな感じで助かるはずよ!」


「目を覚まして下さい!カヤックは死にました!あれはカヤックの姿をしたおぞましいデーモンです!」


『おのぉれぇ!騙したのか!これだから美人は嫌いなんだ!』


「黙れ悪魔め!マリーウェザー様は私の妻だ!

勘違いするな粘着悪魔!浅ましく図々しい一方的な気持ち悪い懸想はやめろ!私のマリーウェザー様が汚れる!見るな想うな考えるなクズめ!」


アブドゥルは落ちていた瓦礫を手に取るとブンと投げつけた。そこら辺のゴリラよりも剛腕で瓦礫がキイーンと飛んでいき、カヤックの体にガンッ!とぶつかって砕け散る


カヤックの腕がボロボロになり肉がえぐれて骨が見えていた、ボタボタと血が滴り落ちる


「やめてー!カヤックを傷つけないで!」


「マリーウェザー様…くっ!」


堕天使の自己再生でみるみる傷が塞がっていく

アブドゥルは走り出した


「お前は確実に殺す!慈悲深いマリーウェザー様を惑わすな悪魔め!」


『グッおのれぇー!糞ゴリラが!』

血だらけの手をブンブン回して血を周りに飛び散らせた

その血が炎を生み出し、そのまま炎の壁となった


アブドゥルは闘気を鎧のように全身に纏い炎の中に突っ込んでいく

マリーウェザーも走り出した


敵が翼をはためかせて飛び上がろうとした所で、アブドゥルがガシッと足を掴んで大理石の床に力いっぱい叩きつけた

『ガァッ!』


「お前はここで殺す」アブドゥルの顔が悪魔もビビる修羅の鬼のようだった『ひっ!』


アブドゥルが肉弾戦を始めた、一方的にボッコボコに殴る蹴るの暴行を加える

自己再生が追いつかないのか、どんどん周りに血が飛び散り、アブドゥルも返り血を浴びるが気にも止めない


敵の飛び散った血液から湯気が出るが、アブドゥルの闘気で蒸発して炎にならない

手に闘気を込めて手刀のようにして、躊躇なく心臓を貫いた


『ゴハァ!…よ゙ぐも゙…ゴポッ…良いのか、ハァハァ…コイツが本当に、死ぬぞ』


「迷わず成仏しろカヤック」さらっ


そして頭を吹き飛ばす勢いで回し蹴りを食らわし、敵はそのまま吹っ飛んで壁に激突する…はずだった


壁にぶつかる前にカヤックの体は大きな水球にボチャンと包まれた


「カヤックは返してもらうわ!」


「マリーウェザー様!?」


「ゴーレムども足止めをして!ゴリラを近づけさせないで!」


瓦礫をつなぎ合わせたようなゴーレムが数十体も現れてアブドゥルの前に立ち塞がった


『ガボッゴホッ…女、いったい、何のつもりだ』


バチャバチャと水の中からカヤックを連れ出す

アブドゥルに殴られてボッコボコのグチャグチャに腫れ上がったカヤックの顔面を両手で優しく包み込む。無詠唱でハイヒールをしてカヤックの体を癒した


「動かないで!骨を繋いで傷を塞いだだけよ、流れた血と失った心臓は戻らないわ……

カヤック助けに来たよ、目を覚まして!お願い起きて、あくまなんかに負けないで!」


『はっ…バカめ、こいつの魂はとっくに食ったさ!ハハハ、やはり好いた男だったんだな…聖女のくせに!この淫乱浮気女め!』


褐色肌の手がガシッとマリーウェザーの白い顎を掴んだ


「っ…貴族の政略結婚に愛があると思ってるの?私は領地ごと略奪された戦利品よ」


『なっ!?…それが何だ』


マリーウェザーは目に涙を浮かべ、よくある話よと前置きしてぽつりぽつりと心中を吐露する


「母は私を産んで死んだの、領主の父に恨まれて殺されそうな所を乳母に助けられて田舎に逃げたわ。小さな幸せの日々も、ある日、残虐戦鬼の嫁にするために全てを奪われたの…母のように慕ってた乳母に最後に会ったのは冷たい牢の中で…。

カヤックは、そんな私に始めて出来た友達だったの…全てを失った私のかけがえのない大切な友達として好きだった……だけど、失ってから本当の気持ちに気付くなんて…うぅぅ、カヤックを返してよ、あくま」


涙がポタリと堕天使の手に落ちた


『……馬鹿な女だ…泣くな』


堕天使は想い合ってる2人を引き裂いた喜びと、ほんの少しの同情と、美しい聖女の涙に目が離せなくなった

顎から手を外して、禍々しい手からは想像もつかないほど優しい手付きで涙を拭う。涙で濡れる聖女の綺麗な瞳と視線が交差する、ぷるんとした唇は赤く色付いていた


あくまは最初から聖女を堕とすつもりだった、だから好いた男の姿で憐れな聖女を騙して唇と心を奪ってやろうとほくそ笑んでいた


嫌がる女を無理やり組み伏せてもいいが、細い腰に手を回して優しく抱き寄せるだけで…

ホラな?おぼこい聖女なんてチョロい!あ、この娘の胸すごっ!くぅノーブラじゃないか!俺の女にしたらたっぷりと揉みしだいてやるぜウヒヒ


仕上げに口付けをしようと、優しく頬を撫でてあごクイすると聖女がめちゃくちゃ可愛い顔で微笑んだ


こいつ俺に惚れたな?勝った!


「ふっバカはお前だベリアル!カヤックを返してもらう」


『何っ!?…何故俺の名を…その指輪は?!グゥゥゥ…』


マリーウェザーから魔法陣と錬成陣が複雑に展開される


「錬金術と死霊術の合せ技で人体錬成よ!カヤックの体を人間に戻すわ!エクストラヒール!蘇れ心臓!カヤックの魂よ私の声に応えなさい!

助けに来たよカヤック!お願い目を覚まして!

速く目を覚まさないとアブドゥルに人工呼吸させるわよ!

序列68柱のベリアルよ、私に下るがいい!従え堕天使あくまめ!」


マリーウェザーの指には【ソロモンの指輪】がハマっていた



――数分前

マリーウェザーは、アブドゥルに邪魔されないように遠回りして、回り込んだ祭壇のあった場所で隠し宝箱を見つけた。隠し宝箱はダンジョンあるあるだよね


開けたら中から、赤い石のついたゴツい金の指輪が出てくる

手にはめてダンジョンボードを開くと【ソロモンの指輪】装着 と表示される


ついでにダンジョンボードの死霊術をONにする

これで錬金術のレベルをあげても賢者を目指せなくなった

錬金術のレベルを上げると職業ジョブの進化先が賢者か狂科学者マッドサイエンティストに分かれる

死霊術師ネクロマンサーはマッドサイエンティスト一択

※魔法使いも童貞ならいずれ大賢者に至る



後は堕天使じゃなくてアブドゥルの隙を見て、カヤックを奪い返す事を考えていた


アブドゥルがカヤックの心臓を貫いた時は思わず叫びそうになったけど、エクストラヒールで心臓も再生可能なら生き返るかな?人体錬成すればなんとか…と焦る気持ちを押さえて堪える


祭壇の周りにゴロゴロ落ちてたドクロに死霊術ネクロマンスをかけ人工知能の代わりにして、更にそれを核にして錬金術で瓦礫ゴーレムを作り出した

頭文字のeを消さないと何度でも瓦礫を集めて復活するゴーレムは、ゴリラの足止めくらいにはなるかな?


後は油断させて堕天使あくまの名前を引き出してソロモンリングで縛るだけ

お涙頂戴の小話しして、盛ったけどほとんど真実だし、堕天使は小娘の涙に隙を見せると思った

こいつ童貞か?ニヤニヤしながら顔と胸ばっか見てるキモッ!


前前世はゲーマーではあったけど72柱の名前なんてほぼ知らない。有名どころが来てるはずとダンジョンコアの趣味を予想する。

堕天使で角があって美丈夫で炎使ってて有名どころ?アシュタロスは牛っぽい角だし、ベルゼブブはハエだし、序盤でルシファーみたいな大物は多分来ないな。

消去法で適当にカマかけて名前を言うと当たった


ダンジョンボードの【ソロモンの指輪】の欄に序列が表示され縛り完了


…のはずだった


ダンジョンボードにMP不足が表示される

エクストラヒール燃費悪すぎ!心臓は再生されたけど、動かせるだけのエネルギーは残ってなかった


MP回復を待つとカヤックが死ぬ

死んだ後で死霊術で魂を体に繋ぎ止めても体温のないアンデットにさせてしまう、体は腐らないように加工は出来ても成長しない


詰みだ……


「カヤック巻き込んでごめんなさい」カヤックを膝に抱えて泣いた


『女、俺の魔力を使え』


指輪から声がしてダンジョンボードに

契約従魔からの魔力供給を受け入れますか?

YES/NO


と表示され迷わずYESを押した

だけど堕天使の魔力とか、なんか気持ち悪かったから自分を経由せずにそのままカヤックに流れるようにソロモンの指輪に願い

「カヤックを助けて」とカヤックの指にはめる


奇跡はおきて、願った通りベリアルから魔力がカヤックに流れていく。気の所為じゃなければベリアルの気配ごと溶けてカヤックに流れていったような?


カヤックの心臓が動き出して、顔に赤みが戻ってきたからとりあえずホッとした


「目が覚めた?カヤック?」だよね?


「ヒュー、ヒュー…マリーウェザーさ…」

「1日に何度も死にかけないでよ!カヤックおかえりなさい」

「俺…あくまになってそれで…」

「うん、助かったのよ」多分

「マリーウェザーさ、ま」

「マリーでいいよ。なぁにカヤック?」


「もう、会えないと思って後悔しました…俺、あんたの事、本気で好きになったのに…身分とか立場とか考えたら、怖くなって諦めようとしたけど…」


「うん」


「暗闇の中で、あんたの声が聞こえたんだ」

「いっぱい呼んだもん」

「俺、諦めなくていいのか?あんたのこと好きでもいいか?」

「いいんじゃないかな?3年後には白い結婚で別れる予定だから」


カヤックが「マジで?」とガバッと起き上がった


「カヤック急に起き上がって大丈夫なの?」


「暖かくて柔らかいのって膝枕だったのか……3年後に…その、俺が迎えに行ってもいいのか?」

「正確には2年と1ヶ月だよ(ハート)」

(※12歳で結婚してから15歳まで一度も致してませんと言い張るつもり)


「俄然やる気出てきたぜ!」


ぐっと握りしめた拳

カヤックが自分の手を見て涙を流した


「汚いけど俺の手だ…」

「カヤックの手は汚くないよ?働き者の綺麗な手だよ」


マリーウェザーがカヤックの手を取って恋人繋ぎをする。

カヤックが自分の指にソロモンの指輪がある事に気付いた


「契約の証だよ…カヤックの中の眠れるオオカミを沈めてくれるはず。カヤック無茶しないでね約束よ?」


「契約?オオカミって…心配しなくても手を出したりしねぇよ、お前の事遊びじゃないから、俺さ、見た目こんなんでもちゃんと大事にするよ?

これ…もしかして、婚約指輪なのか?良いのか?こんな高価そうなもの俺が貰っても」


「うん、私が使うには見た目がゴツすぎるでしょ?多分アンティークの一点物よ。カヤックがしっかり持っててね。高価なものだから外すと盗まれそうだわ」


「絶対に外さねぇ!…なあ、俺も何か贈った方がいいよな?こんなもののお返しなんて…」


「じゃあ2人の時はマリーって呼んでよ、どんな宝石よりもカヤックにそう呼ばれた方が嬉しいから」


「お、おう」

マリーウェザーの輝くような笑顔にカヤックの胸がキュンキュン締め付けられた。

思わずキスを迫ろうとした所で…


ドゴドゴドゴォーン!と後ろで瓦礫の山が吹き飛んだ


「マリーウェザー様ァ!」


アブドゥルの攻撃で頭文字どころかゴーレムが木っ端微塵に砕け散った


カヤックが警戒してマリーウェザーを背中に庇って前に出た


「む!まだ死んでなかったのかカヤック!しぶとい奴め!マリーウェザー様から離れろこの悪魔め!」


「お生憎様!この通りピンピンしてるから!

マリーウェザー様の愛の力で地獄の縁から蘇って来たぜ!」


「何だと!マリーウェザー様の愛は私だけのものだ!愛する夫婦の間に入る邪魔者め、ゆるさん!」


「ちょっとアブドゥル様、落ち着きましょう?ね?邪悪なあくまは封印しました!カヤックは助かったのよ…

あぁーー!宝箱が出てるぅ!

アブドゥル様開けて来て下さる?ミミックに気をつけて!早く早くー!宝箱の為に頑張ったのに!!」


アブドゥルが渋々といったように宝箱に向かった

その間カヤックを睨んでいた


ガバッと宝箱を開けたアブドゥル


ミミックじゃないのを確認してマリーウェザーも見に行くと、華奢なデザインの宝石付きの金の指輪が2つ入っていた。手に取ると


「アイテム収納の指輪だぁぁ!やったー!ダンジョン・コア様ありがとうございまーす!」


「え?なんですかそれ?」


「亜空間に荷物を入れておける指輪だよ…なんで2つあるんだろう…あ!1つは時間停止機能が付いてる!容量少ないけど。……アブドゥル様、両方私に下さいな?」


「なんて強欲なんだよ…それでも聖女ッスか?1つ隊長にあげないの?」


「マリーウェザー様、この青い石の方を私に下さい」


「…その青い石のヤツは時間停止付きのヤツだよ?まあアブドゥル様が欲しがるのも分かるわ。絶対に私も欲しいけどね?じゃんけんする?」


「いえ、マリーウェザー様の瞳の色に似てるので…その赤い石が付いてる方は……は?なぜカヤックが金の指輪をしてるのだ!」


※ソロモンの指輪には大きな赤い石が付いてる


「カヤックの指輪は私があげました!それはお守りです!アブドゥル様でもカヤックから取り上げる事は許しません!カヤックの指輪ですから!」


「ぐぬぬ…」

アブドゥルは悩んだ。自分が青い石の指輪を選ぶと

赤い石同士で、カヤックとマリーウェザーがペアリングに見える

しかし、青い石の指輪は欲しい、なぜならマリーウェザーの色だから


マリーウェザーはピンときた


「アブドゥル様、私が街で一番の宝石店であなたに似合う指輪を選んで差し上げましょう。

何だったら、デザインも考えて私が作ります!世界に1つしかない青い石のついたホワイトシルバーの指輪を!お好きな文字も彫りましょう!

だからそのゴールドの指輪は2つとも私に下さいな」



こうしてマリーウェザーはアイテムボックスを手に入れた。

指輪はぴったり重なり1つになる優れものだった。

「なんだ、こうやって使うのね」初めから1つにすればいいのにね、賢者の杖をアイテムボックスにいれるのも忘れない!


帰還の扉が出現していてドアを開ける


そこはハインツとの国境付近の洞窟に繋がっていた

ドアをくぐった瞬間、アバターがボシュっと消えて12歳に戻った。

見た目少し幼くなったのと胸がDカップになり全体的に体が軽くなって、服が元のドレスに戻る


夜が明けて洞窟が朝日に照らされる


「ここから歩いて帰れるかしら?」

朝日に輝くマリーウェザーはとにかく美しかった


15歳のムチッとした感じではなく、子供特有の丸みと普通の大きさの胸と幼さの残る眼差しの儚い美しさがあった


「俺、マリーウェザー様は大人に見えてたんだけどさ、さっきの姿(15歳)から比べると、まだ全然子どもじゃん。今は、いっぱい食って沢山遊んで大きくなれよ」

「筋力つけるわ!走るの遅くなるからあんまり太りたくないし…カヤック一緒に剣の練習しましょう」


「カヤックではなく私が教えましょう!マリーウェザー様に手取り足取り、付きっきりで教えます!疲れたらいつでも抱き運んで差し上げます!2人っきりでやりましょう!他の人間に見られたら勿体ない!」


「隊長、なんかキモいッスよ。同じレベル同士で集まってやったほうが競い合って伸びるって言ってませんでした?」


「言ってない!」(※言ってた)


「やる事たくさんあるわね…領地経営は私がやるからアブドゥル様は兵士をまとめて領内の治安を回復させて下さる?」


「そうだった…乳母とその娘は処刑しますか?」


「もう死んだけど、庭師の老夫婦がやってたのって優しい虐待なのよ。お嬢様がいなかったら私がああなってたわ、ゾッとするわよね?…お嬢様には感謝してもしきれないわよ、処刑なんてしないで!

お嬢様がマリーウェザーになりたいなら改名してマリーウェザーやらせてあげればいいのよ。珍しい名前じゃないし。あの時は強がってたけど、お嬢様も根っから腐ってるわけじゃないのよ。

信じてた現実が崩れて、自分が貴族のお嬢様じゃないって相当ショックよね、平民スキル一切ないから市井で苦労したはずよ、老夫婦がそうやって育てたから…お母さんが厳しくすると、お婆さんがものすごく甘やかすのよ。お母さんや私を下げてお嬢様を上げるみたいな褒め方するし」


「なんか、あの強烈なお嬢さんも可哀想だったんだな…」


「マリーウェザー様がそう言うなら…相変わらず無礼を働いたものに甘いですね、形見の宝石を盗んだのですよ?」


「形見の宝石を盗んだのは…本当はお母さんなのよ。でもいらないからあげるわ」


「形見なのにいいんスか?」


「宝石にあんま興味ないし、取り返しても引き出しに入れっぱなしよ。それにもっと可愛いの自分で作るわ、錬金術のレベル上げて。

あ、そうだアブドゥル様、私、学校に行きたいです。飛び級制度で半年ほどで卒業しますから春から通わせて下さい」


「は?学校?何故ですか!」


「アカデミーの敷地内にルーンダンジョンがあるの、あそこは年齢指定はないからルーン文字が普通に使えるのよ。学生じゃないと中に入れないわ」


「その、ルーンダンジョン?の為に学校行くのかよ」


「まあ後は社交のため?半年もいれば顔見知りくらい出来るでしょ?城でやる春の宴には出たくないけど、学校なら手っ取り早く次代の貴族達と顔見知りになれるわ」


「マリーウェザー様、あんた自覚ないよな?年頃の貴族の男がわんさか寄ってくるに違いない…半年もいたら求婚されて囲われそうだ」


「そうです!駄目です!学校なんて行かせません!有象無象の下品なチ〇コなど捻り潰してやります!誰も見るな話しかけるな思い浮かべるな妄想するな!学生同士の楽しそうな和気あいあいなどさせてたまるか!うぉぉ…」


「隊長の方が下品だから!心が狭い!」


「じゃあカヤックが護衛として付いて来てよ?リタならカヤックを邪険にしないでしょ?

王様に手紙書いて許可貰わなきゃ!戦鬼の生贄にしたから少しは罪悪感あるかな?申し訳ないと思って半年だけ入学許可してくれたら良いのだけど…下手に出るとつけ上がるかしら?」


「なんですと!マリーウェザー様を戦鬼の生贄になどさせません!私がその戦鬼を討ち取りましょう!」

「は?戦鬼って隊長の事ですよね?」

「私は戦鬼などではない!」


「そうだ、カヤックに爵位をあげるから留学生になって一緒に勉強しようよ!その方が護衛しやすいでしょ?領地経営の他にも農学とか経営学も面白いと思うわ。今はどんな勉強してるのかしら?カヤックと学校行くの楽しみだわ」


「え!いいんすか?俺が貴族ですか!しかも学生?マジッスか!」


「マリーウェザー様!許可できません!駄目です!貧乏カヤックが学生やるなら私がします!私も貴族の端くれです!マリーウェザー様と学校でバラ色のキャンパスライフで青春のドキドキを手に入れます!」


「隊長のその顔で学生は無理でしょ」


「爵位はお金で買えるのよ?私が払うわよ。カヤック準男爵ね!家名を何か考えなきゃ!学生になるから売名も手っ取り早いし。さあ、やる事いっぱいよ!早く帰りましょう」


「危ないそっちは川です!マリーウェザー様!」

「落ち着けって!また川に落ちるつもりですか!」

「今度は落ちないわよ、賢者の杖で浮いてみせるわ」

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