第2話 カツジン歩法
世の中がキラキラしたイルミネーションで浮わついてくる年末、全く浮わついた話のカケラもない俺、焔剣士(ホムラケンシ)アラカン。
今日も営業と、日頃のご愛顧のお礼に寒空の下150ccのルーフ付きスクーターを走らせている。カーナビ、ETCver .2.0など付けている。バイクが駐輪できる場所は、頭に入っている。
「あー、今日19:00(イチキューマルマル)から忘年会だった。このままだと間に合っちゃうな」
鬱で飲めなくなって久しい俺にとって、飲み会は苦行でしかないが、メンタル不全な俺を雇ってくれるソコソコ大手のわが社に、まあまあな恩義を感じているし参加するか。
会社の個人ロッカーには、宴会芸用のオモチャの刀が灰色の布にくるまれている。演舞できるような宴会場を年末に予約できるってスゴいことだが、そこのオーナーさんがうちの創業者に恩義を感じているらしく、送迎バスとちっちゃな舞台まで付いた大広間を通常料金で用意してくれる。数年前は一晩泊まった若手社員もいたらしい。布団を出してくれたって、本当に気が利くよね。
「ホムラさんは、送迎バスには乗らないんでしょう」幹事の一人が訊いてくる。
幹事も複数人必要なんだね。
「うん、首都圏だったら、体調に合わせてバイクで帰れるからね」
それに集団行動はちょっと苦手なんだ。バイクの暑さ寒さには慣れるが、バスや満員電車の混雑は無理だ。痴漢と間違われたらパニックに陥ってしまうだろう。
「今年もお疲れ様でした。来年も世のため人のため会社のため、頑張ろう。じゃ乾杯」
企画部の部長の音頭で、三々五々飲み始める。
料理もまあまあウマイ。
「香織くぅん、僕は君のことを高く評価しとるんだよ」
健康管理室の産業医、原田室長(50代医師)である。彼は妻子持ちだが、リクルート看護師の佐々木香織さん推定25歳にご執心である。
「今度、僕の8シリーズでゴルフに行こうよ。初心者?手取り足取り腰とりレッスンしてあげるよぉ」イヤらしい目でスタイルの良い彼女の身体をジロジロとみまわしている。
これはダメだ。俺が休職、復職の時お世話になった先生だが、これはいただけない。明らかなセクハラだが、誰かが注意すれば場の雰囲気が悪くなる。
こんな時は俺の出番だ。
「はーい、営業部のホムラケンシでーす。つたないながら幸運を呼ぶと言われている居合いの剣舞をばひとつ演じさせていただきます」
心を込めて演じる。すぐに上気し汗がにじむ。皆の幸せを念じつつ、仮想の敵に対処していく。願わくば我が敵にも幸せを!悪人にも往生を!
数分後、シーンとした宴会場に拍手と「オオーっ」という声がこだまする。残心をとり、正面にお辞儀をして、舞台からこそこそと下りる。
「ホムラくーん。今日の演舞もよかったよ。心が洗われるようだった。感動した!」
「いえいえ、先生には大変お世話になってますから、これくらいのことは大したことじゃありません」
原田医師は、すっかり劣情は何処かにわすれてきたようにいい顔をしていた。佐々木看護師はと見回すと、人事課のお局様が遠くに避難させていた。
その時、誰にも聞こえないナレーションが人知れず流れていたが、ホムラにも誰にも認識できなかった。
『活人歩法(カツジンホホウ)怪(カイ)』
そして同じく誰にも見ることの出来ない文字列が、人知れず見ることの出来ない空間に写し出されていた。
プレイヤー名:ホムラケンシ
年齢:57歳
職業:剣士lv 1
スキル:活人歩法(カツジンホホウ)lv 1
ステータス:
LUC:+1
徳ポイント:10
剣さえ持たぬ剣士は歩法だけで無双する @funya3
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