剣さえ持たぬ剣士は歩法だけで無双する

@funya3

第1話 刀剣所持許可がおりねえ

 俺は焔剣士(ホムラケンシ)しがない50代後半独身。アラカンだ。自慢じゃないが女の裸も見せて貰ったことはない(笑い)

 

 30過ぎから鬱になり、それでも会社勤めは2ヵ所目と思ったよりは、ひとつところに長く勤めている。

 元気は人一倍無いと自負しており、子供の頃は原因不明で呼吸がとまり、乳児突然死症候群になりかけた。あの時は死ぬかと思った。


 ああ、生まれたときから記憶があるよ。出生時の記憶と母子手帳に書いてある分娩の体位が一致しているから妄想ではない。


 剣士と言う名前は、習い事をさせて貰えなかった父親が、子供には剣道を習わせたいと付けた名前だ。

 小学生で近くの道場に通い、冬の板張りの冷たい感触、小さい体格でたいして強くもなかったことが思い起こされる。

 良くあるあるで、剣道の防具が臭いとか言うが、小さい子供の頃はそうでも無いんだ。

 軽い竹刀には、お世話になった。レギュレーションで、長さや重さが決まっているんで、手元に重心がある竹刀を壊れないように、軽打で打ち合わない剣道を心掛けていた。ガラスのカケラで竹のバリを取るのは、相手への配慮でもあるが軽くならないかなと工夫したなあ。 

 小さいこともあり、相手の脇に避けること出足の早さで勝負する事を鍛えた。小手狙いで相手は小手が来ると分かっていても避けにくい。

 有効打になりにくく勝てない、負けが多かったが軽い小手でも何回も喰らうとアザになり、道場の選手は俺との模擬戦を嫌がった。

 

 会社では、性格に合わない営業職だったが、真面目な性格が評価され、長く勤められた。あと8年で定年退職だが今から継続雇用を打診されている。フットワークが早いのが評価されており、県外でも150cc のバイクで高速を使って営業、メンテを行った。

 

 唯一の悩みは、刀剣所持許可がおりないこと、鬱で通院数年前は入院、リワークリハビリをしたため、趣味の居合いの居合い刀(真剣でなくても)を持てないのだ。

 そのため居心地が悪くて、居合い道場も足が遠のいている。人の刀なんて借りれないよ。

 会社の宴会でおもちゃの刀で剣舞を見せる位が関の山、部長はじめみんなは「オオーっ」と形ばかりの歓声をあげてくれる。でも知ってるんだ。みんなアラカンの鬱持ちの俺に気を遣ってくれているってことを。

 

 「ああ、現代刀でいいから真剣が持ちてえ」

「真剣で居合いがしてえ」今日も叶わぬ願いと知りながらため息を付く俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る