第4話 オーク、女騎士の扱いに困る

「魔物が居ると聞いたが、どこだああああっ!?」

 村の中央広場にけたたましい女性の声が響き渡った。

 その時、俺は村の老人の家を直すのにレンガの山を運んでいる途中だった。

 あれから十日、何も無く過ぎていくと思っていた最中のことだった。

「ナンダ? 騒ガシイ?」

 俺はレンガを置いて見に行くかどうか迷った。

「良いっすよ。僕が見てきますんで」

 若者の一人が様子を察して言ってくれたので、俺は運搬作業に戻った。

「あちゃ~。ちょっとまずいですね」

 しばらくすると、若者が戻ってきた。

「マズイ?」

「どうにも、王国がとうとう騎士を派遣してきたようです。ショータ様を出せって叫んでます」

 俺には「騎士」という物がよく分からなかった。それに気付いた若者が説明をする。

 騎士というのは、領主や国王と直接主従関係を結び、その階級を得た者のことで、単なる兵士よりもかなり上らしい。特に今来ているのは、鎧の紋章から国王直属の精鋭部隊「王国騎士」に間違いないそうだ。

「ダガ、無視スル訳ニモイカナイ」

「それはそうですが……お気をつけて」

 俺は荷物を置くと声のする広場に向かって歩き出した。

 精鋭部隊……できれば戦いたくないが、この村を守るためならやむを得ない。

 広場に着くと、井戸の前に鎧姿の大柄な女性が居た。叫んでいたせいか、村の者たちも集まってきた。

「お前か!? 辺境の村を脅して支配している魔物というのは!?」

 ――支配? はて?

 俺には全く心当たりがなかった。俺は皆と仲良くしているだけだ。支配した覚えなどない。

「沈黙は肯定と見なす。我が名はリアリー……無力な村人たちに仇なす邪悪な魔物よ! 滅するがいい!」

 女騎士リアリーは剣を抜いた。

 どうにもこの女騎士は、根本的に勘違いしているようだ。騙されているのかもしれないと思うと、気が引ける。

「待ってください! ショータ様は悪いオークではないんです!」

 ティアが割って入った。

「少女よ……そこを退け!」

「嫌です! だからショータ様は悪い魔物ではないんです!」

 その時、女騎士は何かを察したように冷たい目になった。

「くっ! 貴様、この少女を魔法で魅了して……なんと卑劣な!」

 いえいえ、魔法なんて一つも使えません。

「私は魔法なんてかけられていません!」

「少女よ、記憶までいじられたか……哀れな。そして卑劣極まりない魔物め!」

 なんか勝手に一人で盛り上がっているんですが、こんな場合どうすれば……。

「この聖剣エクスカリバーンの錆にしてやる! 覚悟!」

 女騎士はティアを押しのけると、俺に斬りかかった。

 すんでのところで、俺は白刃取りして防ぐ。流石にこの前の兵士の槍のような防ぎ方では駄目だと思ったからだ。だが、見かけ以上の腕力だ。じわじわと押し切られそうになる。

「無駄だ! 私は強化魔法で腕力を強化している! いくらオークとはいえ、素手では防ぎきれん!」

 強化魔法……そんなのもある世界なのか。手には微かな痛みがはしり、血が流れだす。まずい。このままでは――


 パキ……パリィン!


 え!? 折れた? 聖剣って折れるのか?

 俺は動揺したが、相手の方がはるかに動揺していた。

「そんな馬鹿な!? 伝説の聖剣エクスカリバーンが折れるなどありえん!」

 女騎士は呆然と折れた剣を見つめている。そのままへたり込む。

「サテ、ドウスル?」

 俺は折れた剣の先を投げ捨てると、一歩前に出た。

「く、来るなあ! 私に乱暴する気でしょ? 王立図書館の本みたいに!」

 女騎士は折れた剣を投げ出して後ずさりした。

 いや、この国の図書館はなんて本を置いてるんだ!? ――そう思ったが言わなかった。

「アイン、チョット……」

「はい、なんでしょうか?」

 俺は見ている村人たちの中に鍛冶屋のアインを見つけると剣を見せた。

「ドウダ? 本物カ?」

「いや~これ完全に偽物ですよ。表面だけ本物と同じ合金で包んだやつ。よく知っている人なら手にした時に重さで分かるんですがね。……お姉さん、これどこで買ったの?」

「いや……エンドラーに観光に行った時に、秘蔵の品があるから買わないかと……」

 ……って、お土産みやげかい!

「あ、そういう観光客騙して売りつけるのはよくある詐欺だから、まともに聞かない方が良いよ。本当の秘蔵のやつは、余程のお得意さんにしか売らないから」

「そ、そんなあ……高かったのに……」

 この後、女騎士は村人たちに慰められ、励まされて帰っていった。どうやら俺のことは、あの役人からあることないこと吹き込まれていたようだった。


「あの人、騒がしかったですけど悪い人ではなかったみたいですね」

 ティアが俺の小屋まで付いてきて言った。

「アア、ダガコレデ終ワリトハ思エン」

 俺はそれが心配だった。あの女騎士、相当強かった。もし武器が本物だったら俺は負けていただろう。このままで、村を守り続けられるのか――

「ううん、きっと大丈夫です」

「ナゼ、ソウ思ウ?」

「この村には、ショータ様が居ますから」

 そう言って笑う彼女の顔を見て、本気で守りたいと思った。

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辺境の村のオークに転生したので善良に生きることにしました 異端者 @itansya

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