第17話 初めての材料採取【後編】
セレスタと2人、毛布にくるまって(もちろん別々の毛布ね)領主様のお庭で待っていると、東の空が白み始めてきた。だんだんと明るくなってくるにつれて、目の前に広がる一面の露草に私は息を飲んだ。
「綺麗」
「本当だ。こんな時間にくることないから知らなかった」
セレスタも驚いた顔で露草畑を見つめている。朝露を纏ってキラキラと朝日に光る露草はそれだけで宝石みたいだ。
しばらく目の前の景色に茫然と見とれていたけれど、ハッとする。
「見とれている場合じゃない! 一等綺麗な露草を探さなくちゃ」
私の言葉にセレスタもそうだったと我に返る。早速、セレスタと手分けして露草畑を探し始める。
「これはどう?」
セレスタの指さす露草を見て、私は唸り声をあげる。
「う~ん、もう少し花の大きい物の方がいいかも」
マダムの宝飾合成を何度も隣で見てきた限り、花の大きさと宝石の大きさは必ずしも比例しない。でも今回みたいに複数の宝石ができるときは、元の植物のバランスが出来上がりに影響を与えることが多いみたいだった。
ランのイヤリングについていたカイヤナイトの大きさを考えると、今回は花が大振りのものを選んだ方がそさそうだ。そう思いつつ、露草を踏んでしまわないようにも気を付けながら、1つずつ丁寧に見て回ること小一時間。そろそろ決めないと朝露が散ってしまうと焦り始めたころ、足元にひときわ大きな花の露草を発見。
「これだ!」
早く摘まなければと私は露草に手を伸ばた。
「えっ? ホタルさん!」
「痛っ!」
セレスタの驚いた声と、露草に伸ばした私の手に何か固い物がぶつかったのは、ほぼ同時だった。
「痛っ! 何? 石? 嘘でしょ?」
思わず露草から手を引っ込めたものの、どこからか飛んでくる小石は勢いが止まらない。小石は私だけではなく、セレスタにもどんどん飛んでくる1つは小さいけれど、当たれば地味に痛いし、何よりも数が多い。
「うわ! ごめん! ごめんって! 僕だよ! セレスタ! じいちゃん、話を聞いて!」
器用に小石を避けながらセレスタが叫ぶと、ようやく小石の襲撃が静まった。
「なんじゃ、オパール様の甥御殿じゃないか。なぜこのような不届き者とそなたが一緒におるんじゃ?」
「えっ? 誰?」
突然聞こえてきたしゃがれ声に私は辺りを見回す。でも、声の主の姿は見当たらない。ここにいるのはセレスタと私だけ。あとは一面の露草しか見当たらない。
「ホタルさん、そこだよ」
キョロキョロと周りを見回す私にセレスタが少し先を指さす。
「えっ? 何?」
セレスタの指さす先に目を向けるけれどやっぱり誰もいない。
「愚か者め。ここじゃ。我が見えぬか」
「えっ? だから、どこ? 誰なの?」
声はするんだけれど、やっぱり誰もいない。しかも、なんだか怒っているっぽい。
「ホタルさん、ちょっとしゃがんでみて。そこの露草の間をよく見てごらん」
セレスタに手を引かれてしゃがみ込み、言われたとおりの場所に目を凝らす。
「うえっ?」
思わず変な声がもれる。
そりゃ、もれるよ。だって、だって、目の前には。
「なんじゃこれ! ちっちゃいおじいちゃんがいる!」
バチンッ!
叫んだ瞬間、眉間に小石がクリーンヒットする。
「痛っ!」
「愚か者! 小さいとは失礼な!」
嘘でしょ? これ、絶対血がでてる! 何すんじゃ、ちっちゃいおじいちゃん!
眉間を押さえて、思わず文句を言おうとした私の口をセレスタが慌てて塞ぐ。
「ホタルさん、ごめん。ちょっと黙っていて。……じいちゃん、ごめん。彼女はホタルさん。マダムのところで最近働きだしたんだけど、この町に来たばかりで知らないことが多いんだ」
「我を知らんじゃと? そいつが持っているのは保存瓶じゃろ。我を知らぬ宝飾師など、どういうことじゃ?」
セレスタの言葉にちっちゃいおじいちゃんは顔を真っ赤にして言い返す。
背の高さは隣の露草と同じくらいだから30センチメートルくらい。緑の帽子からのぞく髪は真っ白。ひげも真っ白。左手にパチンコらしきものを持っているけれど、多分あれで小石を飛ばしていたのね。
これってもしかしなくても小人ってやつ? 魔法に続いて小人。ファンタジーすぎる展開に若干ついていけない。でも、そんな私をよそに、セレスタはちっちゃいおじいちゃんと話してる。普通に。
「ちょっと待って! なんとなく予想はつくけど事情を説明して。それは何? 小人? 小人なの? 何? この世界、モンスターとかもでてきたりするの?」
このままでは話に置いて行かれると思った私は、口を塞いだままのセレスタの手を押しのけて声をあげる。
「うるさい小娘! 失礼な! 我は小人ではない!」
「嘘つけ! そのサイズ感で何言うのさ! セレスタ、何なの! これ! モンスターはどこ?」
「モンスター? 何を寝ぼけたことを! そうさな。モンスターと言うなら小娘、お主こそモンスターじゃ! この不届きものめ!」
「なんじゃそりゃ! あんたこそ、危ないでしょ! 小石とは言え痛いんだからね! ほら、血、でてるでしょ!」
「なんじゃと! 自業自得じゃ! だいたい」
「う~る~さ~い~」
「「フゴッ」」
一斉に叫びだした私たちにセレスタの鉄拳が繰り出され、私は目の前が真っ白になった。多分、ちっちゃいおじいちゃんも。
やっぱり、銀髪って恐ろしいわ。
薄れゆく意識のなかで、私はそんなことをぼんやりと考えていた。
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