第15話 カイヤナイトのイヤリング【後編】
「うわぁ」
「これはすごいな」
セレスタとジェードに今日の話をしたら、見てみたいと言うからランのイヤリングを見せたのだけれど、案の定、2人が目を丸くする。
ちなみに2人はちょくちょくマダムの宝飾店に顔をだしてくれている。町の見回りのついでとか、今日みたいに夜ごはんを食べにとか。
セレスタはマダムの甥だし、ジェードのこともマダムは昔から知っているそうなんだけれど、いままではそこまで頻繁にくることはなかったそうだ。どうやら私を心配してくれているらしい。2人とも忙しいだろうに、ありがたい話だ。
今夜はマダム特製の鶏肉のトマト煮とモルガさんのパン屋の白パン、私も一応サラダを作った。
暖かくなってきたとは言え夜はまだ肌寒いから、温かなトマト煮がおいしい。何よりマダムのトマト煮は鶏肉も野菜もホロホロになるまで煮込まれていて、これにモルガさんの店のフワフワの白パンが合わさると本当にしあわせ~って味になるんだよね。
セレスタとジェードもマダムのトマト煮は好きみたい。
「で、どうするんだい?」
「考えたんですけれど、同じ材料で宝飾合成してもらえませんか?」
私の言葉にマダムは首を横に振る。
「言っただろ。同じ材料を使っても、同じアクセサリーはできないよ」
そう、宝飾合成で創られるアクセサリーは完全に一点モノ。でも。
「同じ材料を使って作れば、同じ宝石はできませんか? 同じとはいかなくても似たような形でできれば、石だけ外して修理に使えると思うんです」
「いや、ホタルさん。それはちょっと」
マダムより先にセレスタが困ったような顔で私を見る。
「おい、いくらなんでも、それは」
ジェードも険しい顔で声をあげる。
あれ? 何? 私、なんかまずいこと言った?
アクセサリーを修理するという概念がなかったこの世界では思いつかない方法だっただろうけれど、セレスタとジェードの反応はどう見てもそれだけじゃない。マダムを見れば、こちらも眉間に皺を寄せて渋い顔をしている。
「ホタル、私が創るアクセサリーは植物から創る。しかも一点モノだ」
眉間に皺を寄せたままそう言うマダムに私はうなずく。
もちろん、わかっている。だから同じものができるとは思っていない。同じ石さえできればいい。多少の形の違いは修理する中で調整できるし。
そんな私を見てマダムが更に眉間の皺を深くする。隣からジェードが口を挟む。
「ホタル、お前は自分がせっかく創るアクセサリーを他のアクセサリーの修理の材料にしたいなんて言われたらどう思う?」
険しい顔のまま告げられたジェードの言葉にハッとする。そして、セレスタが更に追い打ちをかける。
「しかも、それは世界に1つしかなくて、同じものは二度と創れないとしたら?」
その意味に気が付いた私は言葉を失う。
私、マダムになんて失礼なことを言ってしまったんだ。
「あの、私、そんなつもりじゃ」
「ホタル」
私の言葉をマダムが遮る。
「セレスタたちの言うこともあるけれど、何よりも私の場合は植物を材料にするんだ。命をもらって創っているんだよ。どれ1つ、おろそかにはできないんだ」
そうか。この世界のアクセサリーはそう言うものだった。
今までいた世界の大量生産されたものとは違う。思いや命の籠ったものなんだ。
自分の考えのなさに情けなくなる。
「マダム、ごめんなさい」
項垂れる私にマダムが、しょうがない子だね、と笑う。
「わかってくれりゃいいんだよ。今後、気を付けな。とはいえ、今回はランのパーティーのためだ。仕方がない。特別だ。宝飾合成してやるよ」
「マダム、でも」
戸惑う私にマダムが続ける。
「あのアクセサリーはご両親の思いも籠った特別なものだ。できることがあるなら、しようじゃないか」
「ありがとうございます」
そんなマダムに私は深々と頭を下げた。
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