第12話 予想外だったけれどまぁいいか
リシア君の道具屋から戻った私は、早速モルガさんのペンダントの修理に取り掛かった。と言っても、切れたチェーンをアジャスターに繋ぎ直すだけ。作業としてはものの数分だ。
ただ、予想していたとおり丸カンに切れ目がなかった。うん、爪切りを買っておいてよかった。元の世界だったら切れ目のない丸カンなんてありえない話なんだけれど、宝飾合成で創っているこの世界なら切れ目は必要ないし、もしかしたらって思ったんだよね。
「へぇ、見事なもんだね」
修理の間ずっと私の手元を見ていたマダムが、出来上がったペンダントを見て感心の声をあげる。
まぁ、そんなに驚かれるほどの作業じゃないんだけれどね。でも、よかった。形見のペンダントだもん。モルガさん、喜んでくれるといいな。
「この時間ならモルガのパン屋も、手が空いているだろうよ。届けに行っておいで」
「えっ? いいんですか? 店番は?」
聞き返す私にマダムが面倒くさそうにこたえる。
「さっきから、モルガのペンダントを見て、ずっとにやにやしているじゃないか。気持ち悪いんだよ。さっさと行っといで。ほら、地図だよ」
「はい! ありがとうございます!」
マダムの言葉に甘えて、私はモルガさんのパン屋へと早速向かったのだった。
***
「ありがとう! 嘘みたい! ホタルさんが直してくれたの?」
ペンダントを見た瞬間、モルガさんは目に涙を浮かべて喜んでくれた。
「えっ、まぁ」
予想以上に喜んでもらえてなんだか照れてしまう。切れたチェーンを修理しただけなんだけれどね。
「ありがとうございました」
と、店の奥から出てきた男性の声にびっくりする。
「あっ! ゴシェ君、こちらはホタルさん。マダムのお弟子さんなんだけど、ほら、ペンダント直してくださったの!」
モルガさんの言葉に微笑みながら、よかったですね、と答える男性。どう見ても幽霊には見えない。
えっ? ゴシェ君って言ったよね? どういう事? 形見なんだよね?
「え~っと、ゴシェさんって亡くなったんじゃ」
「えぇっ? ゴシェ君、死んじゃったの?」
「はい?」
私の言葉にびっくりするモルガさんとゴシェさん。
ん? これはどういう状況?
「いや、ゴシェさんがいないくてもこのペンダントがあれば一緒にいる気がする、と、モルガさんが言っていたとお聞きしたのですが」
困惑したまま言う私にモルガさんが赤面する。
「やだっ。マダムったら」
「モルガさん、マダムにそんなこと言っていたの?」
「やだ! ゴシェ君まで。揶揄わないでよぉ」
くねくねと恥ずかしがるモルガさんとそれを揶揄うゴシェさん。
あの、私は何を見せられているんですかね?
その後、改めて話を聞いたけれど、当然ゴシェさんは死んでなんかいなかった。
ただ、お二人の店のパンはとても評判が良く、王都のいくつかのレストランでも使われているそうだ。その関係でゴシェさんはお店を空けることが多く(といっても王都とタキの町は日帰りの距離だそうだ)、その間、モルガさんはペンダントをゴシェさんと思って留守を預かっている、と。
「ソレハ、ナオッテヨカッタデスネェ」
とりあえず言ったものの、私の目は死んだ魚のようになっているに違いない。
「ねぇ、ところでお代は?」
「へっ?」
そんな私はモルガさんに聞かれて、素っ頓狂な声がでてしまった。
お代って? あぁ、修理代か。って、しまった。
「聞いてきませんでした」
早く届けようって、それしか考えてなかった。形見だと思っていたから。
お代は後で改めて伝えることにして、とりあえずモルガさんのパン屋を後にした。
マダムの宝飾店への帰り道。私は少し浮足だっていた。
ゴシェさんが生きていたのは予想外だったけれど、モルガさんに喜んでもらえてよかった。
この世界にきてから誰かのお世話になってばかりだったから、役に立ててよかった。
そんなことを思いながら、私は一人にやにやとしていたのだった。
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