第10話 リシアの道具屋【中編】

「いらっしゃいませ。……って、セレスタさんにジェードさんじゃん。珍しいっすね。何かお探しっすか? ってか、そちらはどなた? 町の人じゃないっすよね? 俺、リシアっす。あなたは? はっ、まさか、お二人のどちらかの彼女っすか? あっ、新居のための道具探しっすか? だったらこっちに新生活セットが」

 

 道具屋に入った瞬間、怒涛のように話かけられた。

 今、リシアって名乗っていたけれど、まさかこの子がリシアさん?

 ふわふわツンツンの黄緑色の髪と深緑色の目、まだあどけなさの残る顔はどう見ても十代にしか見えない。


「相変わらずうるせぇな」

 

 隣でぼそりとジェードが呟く。確かにどこから口を挟んでいいのか、全くわからない。


 ボスッ。


 さて、どうやって本題を切り出そうかと悩んでいたら、目の前を銀色の閃光が走った。そして気が付くと、鈍い音と共にリシアさんがカウンターに沈んでいる。

 まさかマダムがどこかに? 慌てて辺りを見回していたら。

 

「リシア、少し落ち着こうか。彼女はホタルさん。マダムの宝飾店で働くことになったんだ」

 

 何事もなかったかのようにセレスタが笑顔で話しかけている。右手をぐるぐると回しながら。

 

 嘘でしょ。今のってセレスタがやったの? というか、銀色の閃光ってセレスタもできるのね。まさか銀髪特有の特技なの? やだ、恐ろしいことこの上ないじゃないか。


「いてて。セレスタさん、加減してくださいよ。いつも言ってるでしょ」


 あっ、いつも、なんだ。なんだか面倒くさそうな子かも。

 

 結構な音をたてていたけれど、リシアさんは大したダメージも受けてなさそうな様子で立ち上がる。もしかして、このためにセレスタとジェードはついてきてくれたとか?

 

「ついて来てよかっただろ?」


 あぁ、やっぱりそうなのね。

 ジェードの言葉に無言でうなずく。


「始めまして。ホタルです。今日からマダムの宝飾店で働くことになりました。よろしくお願いします」

 

 とりあえず話を聞く態勢にはなってくれたようなので、改めて自己紹介をする。と、リシアさんも慌てて頭を下げる。

 

「リシアっす。道具屋をやってます。ってか、敬語じゃなくていいよ。タメくらいっしょ?」

「……」

「そうだな。ちょっとおしゃべりだが悪い奴じゃない。ホタルも同世代の知り合いがいた方が気が楽だろ」

「……」

 

 リシアさんとジェードの言葉に思わず固まる。

 日本人って海外に行くと年下にみられるって良く聞くけれど、それか? それなのか?


「何言ってんの? ホタルさん、俺たちより年上だよ」

 

 なんと答えたものかと悩んでいたら、セレスタが何を言ってるんだといった顔でリシアさんとジェードへつっこみをいれる。

 

「はぁ? セレスタさん、何言ってるんすか?」

「セレスタ、どうした?」

 

 セレスタの言葉に驚く二人。

 ここは言うしかない流れよね。まぁ、隠すつもりもないんだけれど。


「あのさ、2人とも何歳?」

「俺? 18。あっ、意外と上とか思ったっしょ? 年下にみられること多いんだよなぁ」

 

 ちょっと不貞腐れた顔で答えるリシアさん そういう所が年下にみられる理由では? 確かにもう少し下かと思ったし。でも、まぁ、想定内かな。

 

「俺とセレスタは23歳だ。セレスタはともかく、俺は年より上に見られることの方が多いんだが」

 

 続いて答えるジェード。こちらはまさに想像どおり。

 

「だよね。3人とも年相応だよ。……私、30歳だよ」

「「はぁ?」」

「やっぱり。モルガさんと同じくらいかな~って思ってたんだよね」

 

 驚く2人と納得顔の1人。


「噓でしょ? どう見ても同世代だって」

「ホタルが年上? 冗談だろ」

「何言ってるの。確かにホタルさんは童顔だけど、肌のつやとかみれば……ゴフッ」

 

 あっ、しまった。つい手がでてしまった。


「本当なのか?」

 

 店の端までふっとんだセレスタを無視して、ジェードが驚愕の表情で私を見つめる。

 

「さすがに年上にはサバ読まないよ」

 

 私もセレスタは無視。女性にむかってなんて失礼なことをいうんだ。全く。


「マジっすか? すんません。俺、タメ口なんてきいちゃって」

「いえいえ、気にしないで」

「俺も。いや、私も失礼いたしました。年上とは」

「やめてよ。ジェード、今更、気持ち悪いよ」

 

 急に丁寧に話し出すジェードを慌てて止める。

 

「そうか。それにしても年上かよ。驚いたな。セレスタも気づいていたら言ってくれればいいのに」

「いつ気付くかな~と思ってさ」

 

 シレッと復活してニヤニヤと笑うセレスタ。

 もう一度どついたろうか。


「ところで、ホタルさん、何しにきたんすか?」

 

 そうそう、本来の目的をすっかり忘れていたわ。

 私は改めて本題を話し始めたのだった。

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