第5話 チートはないのに異世界転生?

 テスラコイル、改め、真実の玉に恐る恐る手を乗せて、セレスタ達の質問攻めに耐えること一時間弱。出身地や職業、家族構成に始まり、果ては趣味や好きな食べ物まで聞かれた。でも。


「わっかんな~い。ホタルさん、あなたは何者なの?」

 

 最初に音を上げたのはセレスタだった。


「わかったのはこの子がどこから来たのかも、何者かも、わからないってことだけのようだね」


 マダムがさして興味もなさそうに言う。


「とりあえずホタルが領主様に害をなすことだけはないみたいだけどな」

 

 ジェードもため息をつく。


 でも、私だけは気づいてしまった。

 嘘でしょ? だって、アレって、ブラック企業で疲れた人が、目が覚めたら神様の前にいて、嘘みたいなご都合主義な能力貰うやつでしょ。

 私のいた会社は、そりゃ、やりがいがあるかって言われたら微妙だったけれど、真っ白なホワイト企業だし、神様からすごい能力も貰ってない……はず。

 えっ? もしかして何か貰ってたりする?


「開けステータス!」


 し~ん。


「いでよ。ドラゴン!」


 し~ん。


「集まれ、大地の精霊!」


 し~ん。

 何も起きない。

 

 でしょうね。って、あれ? なんかすごい視線を感じる!


「ホタル」

 

 気が付けばジェードの明るい緑色の目が憐れむように私を見ていた。


 「ごめん。ホタルさん、疲れたよね。今日は休もう」


 セレスタが優しく私の肩を叩く。

 あのマダムですら、灰色の目に若干優しさが浮かんでいるような。


「ちっ、違う! 違うから! 生暖かい目で見るな~」

「まぁ、とりあえず無害なことはわかったし」

「あとは明日からの生活だよねぇ」

 

 私の言葉は完全にスルーされた。

 気を取り直したように言うジェードに、セレスタは何事もなかったように返事をする。そして何故か二人はマダムをじっと見つめた。でもマダムは知らん顔。


「まさか警備隊に女性を連れ込むわけにもな」

「無理だよ。そんなの。あぁ、誰かいないかなぁ~」

 

 ジェードとセレスタが今度は私にチラチラと目配せをする。

 あっ、そういう事ね!


「私、なんでもやります! 体力もあります!」

「おっ、マダム、最近、腰痛いとか言ってなかったっけ?」

「それに、お店に可愛い売り子さんがいれば売り上げアップ間違いなしだよ!」

 

 マダムが少しだけこっちを見てくれる。あと一押し!

 そう言えば、さっき見たマダムのお店にアクセサリーが置いてあった!


「お願いします! 私、アクセサリー作りもできます!」

「えっ? そうなのか?」

「ホタルさん、宝飾師なの?」

 

 ジェードとセレスタが驚いたように私を見るけれど、宝飾師って何? でも、とりあえずアクセサリーは作れる。


「えっと、独学だけれど。前にいた場所では少しだけど自分で作って売ったりもしていたよ」

 

 うん。嘘はついていない。若干、心苦しい気はするけれど。


「独学で宝飾師になったの? すごいじゃん! マダム、よかったじゃん。そろそろ歳だし、この店も跡取りが……フゴッ!」

 

 再び、銀色の閃光が目の前を走る。そしてセレスタは部屋の隅まで吹っ飛んでいった。

 セレスタ、あんた、学びなさいよ。

 部屋の隅で転がるセレスタを冷たい灰色の目が一瞥する。そして、私をギロリと睨んだ。


 「馬鹿甥、私はまだまだ現役だよ。……まぁ仕方ない。でも、使えなければすぐに追い出すからね」

「は、はい」


 こうして、どうやら異世界にきてしまったらしい私の生活は始まったのだった。

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