第4話 真実のテスラコイル

 ジェードの言葉どおりマダムの店は宝飾店だった。品数は少ないものの、陳列棚に並ぶアクセサリーはマダムの印象とは裏腹にどれも繊細で可愛らしい。


「適当に座っとくれ」

 

 その言葉にしたがって店の2階にあがるとダイニングがあった。木目の美しいテーブルにティーカップが三脚置かれ、ティーカップと同じ柄の大皿に盛られたクッキーも置かれる。

 

「ちょっと取ってくるから、お茶でも飲んで待ってな」

 

 ティーポットをテーブルに置きながらマダムはそう言うと、ダイニングから姿を消してしまった。


「さっきはごめんね。話が急すぎたね」

 

 お茶を汲みながら申し訳なさそうな顔をするセレスタに私は首を振る。

 

「私も急に大きな声を出してごめんなさい」

「よければお茶どうぞ。クッキーも。変なものじゃないし、おいしいよ」

 

 そう言ってセレスタが大皿のクッキーに手を伸ばす。

 果たして口にして大丈夫なものかと一瞬悩んだけれど、ジェードがお茶を飲んでいるのを見て、私もティーカップに口をつける。中身は紅茶だった。ふわりと香るそれにほぅっと思わずため息がもれる。大皿のクッキーにも手を伸ばし、ナッツがたっぷり入ったそれを一口齧る。ナッツの香ばしさとクッキー生地のさっくりとした甘さが絶妙だ。


「お気に召したみたいで良かった」

 

 どうやらかなり険しい顔をしていたみたい。セレスタが私に向かってにっこりと笑った。


「少しは落ち着いたみたいだし、話を聞いてもらっていいか?」

 

 ジェードがティーカップを置いて私を見る。

 

「はい」

 

 私もティーカップを置いてジェードを見つめ返した。


「ここはあるシラーデン王国にあるタキという町で、セレスタと俺はここの領主様に雇われている警備隊だ」

「シラーデン? タキ? それって、どこ?」


 嘘でしょ。シラーデン王国って何? 日本じゃないってこと?

 のっけからとんでもないことを言われて、思わず口を挟む。でもジェードから、とりあえず最後まで話を聞いて欲しい、と言われて私はうなずいた。


「俺たちが領主様の土地の見回りをしていたら、お庭の真ん中にホタルが立っていたんだ。周りには他に誰もいなかったし、馬もなかった。正直、戸惑っている。領主様を狙った刺客とも思えないが、だからと言ってお前を不審者ではないとも言えない」


 なるほど。とはいえ、私が不審者ではないって証明できるものなんて持ってないし。


「で、これの出番というわけさ」

 

 そう言いながら階段を下りてきたマダムの手に、丸いガラス玉のようなものが抱えられていた。

 大きさはバスケットボールくらい。透明な玉の中で稲妻のような紫の光が四方八方に走っている。

 ん? これって、あれだよね? 小学生の時に科学館とかでよく見かけたやつ。


「テスラコイル?」

 

 思わず呟いた私にセレスタが不思議そうな顔をする。

 

「テスラコイル? 何それ? これは真実の玉だよ」

「真実の玉?」


 セレスタの言葉に今度は私が不思議そうな顔をする。マダムの手にある玉はどう見てもテスラコイルだけれど、どうやら違うものらしい。


「そう、真実の玉。この玉に手をあてて、質問に答えてもらう」

「えっ? 嘘つくと電撃が走って死んじゃうとかそう言うやつ?」

 

 嫌な予感に私は慄く。

 嫌だよ。そんな物騒な物に手を置くの。もちろん嘘をつくつもりはないけれど、嘘をつかなくても電撃が走らない保障なんてどこにもないじゃないか。


「そんな物騒なものなわけないだろ」

 

 怯える私にジェードが呆れた声をあげる。


「本当なら青、嘘なら赤に玉の中の稲妻が光るんだよ。それだけで人体に影響はないから大丈夫」


 セレスタの言葉にホッとしたのも束の間。続く言葉に私は顔色を失った。


「ただ、結果次第ではどうなるか。だから嘘はつかないでね」

 

 にっこり笑うセレスタに私は全力で頷いた。

 この子、やっぱり怖い。

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