第9話 俺、なんかやったのか?

「チビ。何か言えよ」


 髪の毛のない、大柄の男、アガドが俺を睨んでいた。


 絡んでくるやつなんて久しぶりだな。

 そういえば地球でまだ戦闘をしていない。

 試験で何をするかもわからないし、こいつで肩慣らししておくか?


「やめてください」


 するとなんと俺の前に魔王エヴァが立ちふさがった。

 何の真似だ……?


「はっ、なんだこいつ女に守られてやがるぜ。しけたしけた、行こうぜお前ら」

「ぷぷ、ダサイですねえ」

「いきましょうアガト様!」


 しかし男たちはエヴァの姿で溜飲が下がったのか引いていく。

 それより――。


「エヴァ、なんで俺を助けた?」

「これから試験があります。知らないでしょうが、日本で揉め事は大ごとになりやすいんですよ」

「……いや、そうじゃなくて、なんでを助けようと思ったんだ」


 魔王らしかぬ行動だ。勇者の俺の前に立つだなんて。


「……わかりません。危ないと思ったら身体が動いていたんですよ」


 まるで、正義の味方みたいなことを言いやがる。

 まったく、本当に角に悪意が詰まってたのかよ。


「ま、とりあえずありがとな。確かにここで揉めて試験が受けられなかったら面倒だった」

 

 俺の言葉に、エヴァがなぜか笑い出す。


「どうした?」

「いや、こんな会話をしているのが面白かっただけです。魔王と勇者とは思えないなと」

 

 エルルはよく未来はわからないといっていた。まさにそれが現実になっている。

 案外、今の状態も面白いが。


 さて、試験はどんなやつが相手かな。


  ◇


「こちらにお名前をお願いします。“能力”がありましたらそちらを。その横に証明写真がございますので書類を作成後撮影してください。――どうしました?」

「え、いや、は、はい!」


 中に入ると執事服スーツを着こんだ男女に案内されてデカイ会場に案内された。

 てっきり魔物と戦えと言われるのかと思っていたら書類を死ぬほど書かされる。


 なるほど、これが日本か。


 ……戦うよりも大変だな。


 人はさっきの大柄の男たちを含めて20人ほど。

 これが多いのか少ないのかはわからない。


「クロト、住所は私と同じにしておいてください」

「え? あ、ああ、助かるよ」

「そこの欄は空けていて大丈夫です」

「はい」


 後、エヴァがいてくれてよかった。まるでお母さんだ。

 魔王は全知全能だと聞いていたが、ここまで日本に馴染んでいるのを見ると確かに頭もよさそうだ。


 提出を終えて控室というところで待っているとメガネをかけたお姉さんが現れた。

 両手に何やら書類を持っている。


 知能テストなんてないだろうな? 自慢じゃないが俺は戦うこと意外苦手だぞ……。


「それではこれから戦闘試験を行います。また、既にあなた達の魔力は測定器で測らせていただきました。この控室にいらっしゃる方々は、テストをパスしておりますので」


 その言葉に「おお、やった」と歓声が上がる。そういえばちょっと人が減ってるな。

 なるほど、エルルたちはこの時点で失格だったのだろう。

 魔力がない人間はオルトプラスにも存在していた。その中にも冒険者になりたい奴らはいたし、夢をあきらめきれずに魔物にやられて死んでいくやつらも。


 その点、日本ってのはかなりしっかりした制度でやってるんだな。


 元の世界に戻ることしか考えていなかったが、色々と学ぶべきところも多そうだ。


 そこからエレベーターに載せられ地下まで降りていく。


 到着した先、目に飛び込んできたのはガラス張りの部屋だった。


 かなり大きい。しかし中は何もない。虚無の部屋だ。

 しかしそこに突然、ゴブリンが出現した。

 

 なつけー。


「安心してください。こちらはホログラムです。本物ではありません」


 ホログラム……?


「魔法で作りだした幻覚、みたいなものですよ」


 こっそり耳打ちしてくれるエヴァ。優しいなおい。


 なるほど、幻覚か。でも、どうやって戦うんだ?


「中には疑似魔力が充満しています。それによってホログラムでありながら実際の魔物と同じフィードバックが得られます。多少の怪我もする可能性はありますので、辞退したい人はここで申し上げてください」


 デモンストレーションを見せたほうがいいですね、と言ってお姉さんは実際に中に入っていく。

 ゴブリンはこんぼうを持っていて、興奮しながら殴りかかった。


 しかし姉さんはヒラリとかわし、手に持っていた書類をまとめている板で頭部を叩く。ゴブリンはのたうち回りながら消えていった。

 すげえな。これが幻覚なのか。


「と、このような形です。あなたたちは既に探索者としての資格はありますが、ランク付けが必要です。さて、アガトさんから行きましょう」


 ヌッと、さっき俺に絡んできていた男が前に出た。こいつも魔力はパスしていたらしい。


「武器はねえのかい?」

「お好きなものを」


 姉さんの声と同時に地面から武器が飛び出してきた。

 斧、剣、弓、なんでもござれだ。


 男は斧を掴むと中に入る。


「それでは、スタートです」


 最初はまずゴブリンだった。

 オルトプラスではただの雑魚だが、日本においてはそこそこ強いらしく倒した瞬間歓声が上がる。


「すげえな、初めてでゴブリンを一撃か」

「あの人、体格もいいもんね」


「どんどんこい!」


 アガトも勢いに乗ったのか次に狼の魔物が現れた。

 驚いたのはオルトプラスと同じ魔物だ。

 何か繋がりがあるのだろうか。


 しかし四体目、オークの攻撃を回避できなかったアガトは倒れこんで試験は終了した。ダメージはないらしく、外に出て嬉しそうに叫ぶ。


「どうだあ!?」


「Dランクの資格ですね。後で用意いたしますので、お待ちを」


「ハハッ、お、さっきのカップルじゃねえか? 見てたか、おい?」


 見てたよ。オークにやられる無様な姿をな。


 しかしアガトは日本の中ではかなり強いほうに入るらしく、次々と呼ばれた人たちはゴブリンですらギリギリだった。それでもFランクの資格をもらえるらしい。


 ……大丈夫か?


「では次、クロトさん」


 ようやく俺の番がきた。


 武器は聖剣が良かったが、わがままはいえないので細身の剣を選ぶ。


「ハハッ、ゴブリンに勝てるといいなあ!」

「そうだな」


 エルルから聞いていた話によるとランクが高ければ高いほど待遇が良くなるらしい。

 これからの事を考えると上を目指すほうがいいだろう。冒険者のランクも同じような制度だったのでわかりやすい。


「それではスタ――!? これは、レベル8!? クロトさん、難易度の設定を間違えていました。早く外に出てください!」


 敵はゴブリンじゃなかった。一つ目の巨人、サイクロプスだ。

 オルトプラスでは中級レベルの冒険者がパーティーで狩る魔物。


「クロトさん! レベル8は上級者専用なんです! だから、急いで――」


 次の瞬間、身体が勝手に動いていた。


 日本に来てから今が一番落ち着く――。


「グガアアッアアアア!!」


「久しぶりだなサイクロプス。――ほんで、さよならだ」


 疑似でも魔力が充満しているってのは本当らしい。身体がすげえ軽い。

 そうか、ダンジョンなら俺もオルトプラスみたいに動けるのかもな。


 ――ヒュン。


 サイクロプスの首を落として着地する。後ろで轟音が響いた。


 そして次の瞬間――。


「す、すげえええええええ、いまのなんだ!!」

「サイクロプスって、ボス級だろ!?」

「今のみたか!? いや、見えなかったけど!?」


 後ろからなぜか歓声が響く。

 メガネの姉さんは口を大きく開けて、デカイ大柄の男は鼻水を垂れていた。


「お疲れ様です」


 唯一、エヴァだけは微笑みながら拍手していた。


 俺、なんかやったのか?



 ――――――――

 インフルエンザで死んでいました。


 復活しました。


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異世界勇者は人間界でも無双する。逃げた魔王を追いかけて地球にきたら、なんかしおらしくなってました。 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei

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