第8話 勇者舐めんなよ
ダンジョンへ入場するにはまず探索協会へ行き、免許証の発行をしてもらう必要がある。
いわゆる通行手形のことだろう。
昔は誰でも入場可能だったらしいが、そのときは死者があまりにも多すぎたとのこと。
これはマズイと政府機関と呼ばれる地球人の組織が管理することなり、今の体制となったらしい。
名前や年齢といった基本的な項目もあるが、一番重要なのはダンジョンに入場して戻ってこれるのか。
つまり、戦闘能力が試される。
試験は毎年違うとのことだ。エルルは魔力適正があるのかどうかを試す、無生物ダンジョンへ行ったらしく、そこでも耐えきれなかったので試験は受けていないという。
オルトプラスでは聞いたことがない話だが、個人的にはいい事だと思う。
無謀な奴らはそれこそ死ぬほど見てきたからな。
俺は一旦エルルの家から魔王城――“しっとり壮”に戻ってきていた。
Vtuber会社から注意されたらしい。男性がいると炎上するので気を付けてほしいと。
エルルは申し訳なさそうにしていたが、またライン? で連絡が取れるらしい。
リーファとウルトスとも会えるらしいので、再会が楽しみだ。
慣れない事ばかりで疲れていたのか帰宅したらうとうとした。
エルルには悪いが、エヴァの家のほうが落ち着く。
目を覚ますとエヴァがまた朝食を作ってくれていた。
結婚生活みたいだなと言いそうになったがギリギリ思い止まった。
白米、卵焼き、みそ汁、魚の煮つけ。
……マジで料理絶品だな。地球が凄いのか、エヴァの料理が上手なのかはまだわからないが。
「試験日は夕方からなのでそれまではのんびりしておきましょうか。内容は直前まで明かされないとのことなので対策のしようもないですし」
「そうか。じゃあ俺はこの“テレビ”を見ながら地球の勉強しておくわ」
不思議な箱。でも、色んな人が映っていておもしろい。
一時間ほど眺めたあと、エヴァが手書きのノートを手渡してくれた。
そこには、オルトプラス語と地球語の違いと相違点が書かれている。
ショクジ⇒食事
オイシ⇒美味しい
と、似たような単語もあってわかりやすかった。
ふむふむと眺めてまた一時間。
エヴァが何やら大きな箱を取り出してきた。
小さなおもちゃみたいなものを取り出し、ねじを巻きはじめる。
「エヴァ」
「なんでしょうか?」
「何だ、それ?」
「仕事ですよ。私の」
「……それが? いや別にバカにしているわけじゃない。動物の背中のネジを巻く仕事があるのか?」
「はい。内職といって家でできるんですよ。エルルさんたちは地球に順応していますが、私はまだ人と話すのはその……苦手で……一人が楽なんです」
ネジを巻き巻きすると動物のおもちゃが動く。地球には変わった仕事があるんだな。
動作テスト、だそうだ。
魔法をぶっぱなして山とか吹き飛ばしてた女とは思えない。ほんとしおらしくなったな。
「稼ぎは少ないのですが、一つ一つが子供の手に渡ることを想像すると幸せな気持ちになるんですよ」
言動までこうだ。
「そうか。――俺にも手伝わせてくれよ。ネジを巻けばいいのか?」
「え? あ、いや大丈夫ですよ――」
ひょいと手に取りネジを巻き巻き。
おもちゃを地面に置くと前に進み、一定のところでピタリと止まる。
テストを終えると一つ1円だそうだ。
一定個数を超えれば追加でボーナス。
「飯代分ぐらい働かせてくれ。いや、宿代もか」
「……わかりました。ありがとうございます」
そのうち魔王だってこと忘れそうだがそこまでお人よしじゃない。
こいつは、あのエヴァ・エリアスだ。
といっても今のがいいとは思うけどな。
夕方までネジを死ぬほど巻き、探索協会へ行くために準備して外に出た。
子供たち、喜んでくれっかな。
試験日は年に数回。で、今日はたまたまその日だとか。すげえ運がいい。
電車を乗り継ぎ景色を見ながらビル街と呼ばれる場所へ。
渋谷と違って人は少ないがすげえデカイ建物が並んでいる。
「中には沢山の人がいますよ。あ、あそこですね探索協会」
エヴァが指さしたのはひときわ目立つ建物だった。
空までまっすぐ伸びている。横も縦もデカイ。
もはやこれがダンジョンみたいだ。
試験があるとのことだが、緊張はしていなかった。冒険者のときもあったし、竜とも戦ったことあるのに今さらそんなのでビビらない。
「ひぉぉっ! ついにオレ様が“アガト”が歴史に名を残すときがきたぜえ!」
「ボス、俺たちもついでに頼みますよ」
「全員ぶっ飛ばしちゃいましょう!」
そのとき、俺の横からヌッ大柄の男たちが出てきた。
探索協会のビルを見上げて興奮しているらしい。
ちなみに髪の毛がない。
俺に顔を向け、突然ハハッと笑いだす。
「おいおい、いつから探索協会はカップルのデートスポットになったんだ?」
「ボス、かわいそうですぜ。男がぶるっちまってやがる」
「はは、それもそうだな!」
いるんだよなーこういう輩。
エヴァは知らんが、俺は割と幼く見えるらしい。
よくこうやって絡まれたもんだ。
大体そういう奴らは地面に叩き潰してきたけどな。
勘違いされていることも多いが、勇者って称号はついても俺は聖人じゃない。
殺されそうになったら殺すし、舐められたら叩き潰す。
それぐらい当たり前だ。
とはいえ無視無視。オルトプラスと違って勝手もわからんしな。
ぶん殴ってそれで試験が出来なくなったら困る。
「おいおい、何か言えよお前!」
構わずに進もうとしたら、遮るように前に立ち、俺を見下ろした。
「お前たちも試験受けるんだろ? いいから消えろよ。試験が何するかわからねえが人が多いと無駄な時間を食うからな」
横目でちらりとエヴァをみたが微動だにしていない。
どちらかというと目がすわっている。昔のままならアガトはもう肉片になってるだろうな。
「チビ。何か言えよ」
するとアガトは何を思ったのか俺の頭を掴んできやがった。
――やっぱ殺すかァ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます