第4話 依頼表から裏を読め
冒険者ギルドにやってきた俺は依頼表が貼られている掲示板の前で考え事をしていた。するとそこに怒鳴り声が聞こえてきた。なんだろうと思って振り返ると、俺を追放した幼馴染にして元親友が居た。
「だから! お前がやればいいだろ!」
「何で俺がやらなきゃいけないんだよ!」
しばらく怒鳴り声を聞いていたら、どうやら依頼を誰が選んで取ってくるかで争っているらしい。
「あほくさ」
以前は俺が幾つか候補を選んで、その中から皆が選ぶ形だった。そのためにはギルドに定期的に顔を出して新しい依頼がないか常に物色。時には依頼主の情報収集をして問題があるなら弾いていた。そうやって少しでも割の良い仕事を探し出していたのだ。
ただの雑用だけど、誰かがやらなきゃいけない。地味だけど重要な仕事だ。
この調子だと、依頼先でも問題を起こしそうだな。
「まぁ俺にはもう関係ないけど」
俺は依頼表の中から一枚を抜き出した。
「ヤネバンダイソウの採取か」
薬草だな。男性の精力増進に良いとされている。健康な男性が食べると精力に火が着いたようになり、老齢でも生殖能力が復活するという、ちょっと危ない薬だ。ただし女性の不妊は解決されないという代物だ。
依頼主がこの国にある大きな街の全てに店を構えるゼクレスタ商会の長だ。しかも個人名義での依頼。確かゼクレスタ商会の長は三十半ばで、結婚して六年目。三人の子供にも恵まれ順風満帆のはずだ。
それがヤネバンダイソウを求めるということは、夜の営みになにか問題を抱えている可能性がある?
「でも、そういう話は聞いたことがないな……」
夫婦仲は良好だと聞いたことがある。
よほどうまく隠しているのか。それとも…… 後ろに誰か別の依頼主が居る可能性がある。この街で依頼を出したということは、この街の関係者の可能性が高い。しかも大きな商会に頼めるほどの地位がある人物。
「……領主か?」
確か、この街の領主は先ごろ結婚したばかりだが、あまりいい噂を聞かない人物だ。俺がその可能性に思い至り、依頼を元に戻そうとしたところで、それを、ひったくった人物がいた。幼馴染の元親友だ。
「この依頼。悪いが貰うぞ?」
質問の形だが、有無を言わさぬ様子だ。俺は大きな溜め息をついて「どうぞ」と言って譲ったのだった。
追放された弓術士と忘れ去られた精霊 新川キナ @arakawa-kina
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