第7話 恐ろしき都会
「…………面目次第もない。全ては私の不徳の致すところだ。本当に……本当に、すまなかった」
僕はお姉さんから頭を下げられていた。
今のお姉さんにはキラーマシン時代の面影はない。それどころか落ち着いた貴人のような雰囲気があった。
「いえいえ、とんでもありません。お姉さんのおかげで僕たちも助かったんですから、むしろ貴方には感謝しかありませんよ」
「だが、しかし……」
お姉さんは深く反省しているようだが、僕の言葉に嘘は無い。本人にその気があったかどうかは別として、結果的にお姉さんのおかげで奴隷から解放されたのだ。
――――そう、僕たちは奴隷から解放された。もう僕と子供たちは忌まわしき場所を脱している。
お姉さんが狂戦士化から回帰した直後、僕は挨拶もそこそこに『捕まっている子供たちを解放してすぐに逃げましょう!』と提案した。細かい話は後回しにして、とりあえずは現場から逃亡すべきだと判断したのだ。
なにしろ奴隷商人グループは国との繋がりが予想される組織。そんな組織の人間を片っ端から殺害したのだから官憲が黙っているはずがない。……それでなくとも、数十人単位の大量殺人犯を見逃すとは思えなかった。
良心の
それからの行動は当初の脱走計画通り。夜闇に紛れて貧民街に逃げ込み、子供たちをそれぞれの家に送り届けていた。
「――――うちのソウカを助けていただいて本当にありがとうございます。狭い家ではありますが、いくらでもご自由にお使いください」
悩めるお姉さんに感謝を告げるのは、ソウカちゃんのお父さんだ。僕とお姉さんには帰るべき家が無かったので、僕たちはソウカちゃんの家にお邪魔していた。
「僕までお世話になってしまって申し訳ないです。――おっと、紹介が遅れましたね。僕はコール=ヤヴォールト。娘さんのソウカちゃんとはオリ友なんですよ。そう、檻友達ですね!」
自己紹介を忘れていた事を思い出したので改めて名乗っておいた。名前を名乗っていなかったどころか、自宅に帰ってきたような顔をして食事のお代わりまでしていたとは不覚だった。
「このお兄さんとはお友達になったんだよ」
流石は気の利くソウカちゃん。
困惑している親御さんに安心のお友達保証である。これで自称友達のタダ飯喰らいという疑惑も払拭されたので、僕も遠慮なく四杯目のお代わりを頂いてしまう。そんな平和なやり取りの中、お姉さんが思い出したように手を打った。
「……ああ、そうだった。私も名乗りを失念していた。私はカナデ、カナデ=テンシューラだ」
なるほど、カナデさんか。色々とありすぎて忘れていたが、言われてみればお姉さんの名前も聞いていなかった。
それにしても、このカナデさん……この国の基準で考えても浮世離れしている人のような気がする。
どこか高貴さを感じさせる整った顔立ち。国に仕える騎士を思わせる厳然とした口調。カナデさんが着ている着物にしてもそうだ。
これまでこの国の人間を何人か見掛けたが、誰一人としてカナデさんのような着物を着ている人はいなかったのだ。
「――――私は森の村落で暮らしていてな。人里に下りてきたばかりのところを連中に謀られたのだ」
お姉さんに事情を聞いてみると、なるほどと納得がいく答えが返ってきた。この国――ノルドミードの南には大森林が広がっていて、カナデさんは森の中にある村落で暮らしていたとの事だ。それならお姉さんが浮世離れしているのも無理はない。
「街で会った男に『仕事を紹介する』と誘われた事が切っ掛けだ。私が無警戒に付いていった先が、あの場所だった」
どうやらカナデさんは世間知らずなところをつけ込まれてしまったらしい。カナデさんは純真な人なので格好の獲物だったという訳だ。
しかし、幸いにもお姉さんは高い自衛能力を持っていた。魔封の腕輪を付けられた事でカナデさんは虚言に気付き、あまりの怒りに我を忘れてしまった――その結果が、あの虐殺劇だ。
ちなみに、僕と出会った時にはカナデさんは魔封の腕輪を付けていなかった。おそらくは自力で腕輪を破壊したと思われるが、それはつまりカナデさんには魔封の腕輪が通じなかったという事になる。
鬼精霊持ちにしても異常な力だとは思っていたが……もしかすると、このお姉さんは『大精霊持ち』なのかも知れない。魔封の腕輪でも大精霊は封じ切れないという事なら納得がいくのだ。
「それにしても人間を売買している者が存在するとは…………まったく、都会とは恐ろしい場所だ」
都会の恐ろしさをしみじみと語るカナデさん。本当に恐ろしいのは暴力の化身たるお姉さんの方だと思ったが、恩人である彼女にそんな指摘が出来るはずもない。僕は素直に頷きを返すのみだった。
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死にたがりの覇王譚~世界を制するリアルタイム放送~ 覚山覚 @kakusankaku0
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