笹栗さんは時々入れ替わるっ!~学校一の超無口な爆乳美少女ちゃんとその双子の妹で国民的アイドルグループのセンターちゃんが順番に俺を口説いてくるんだけど、控えめに言って最高です~

新田竜

第1話 笹栗璃々花との遭遇!

 高校二年生になったばかりの俺、野滝のたき 真平太しんぺいたには気になる子がいた。


 ――笹栗ささぐり 璃々花りりか


 今日もこの教室のちょうど中心に位置する自分の席に座っている彼女は、クラスの陽キャたちに囲まれている。


「笹栗さん、見たよ、昨日のミュージックショット! お姉さんで出たよね!」


「あたし、笹栗さんが出てるのかと思っちゃった!」


「私も! だって顔がほんとそっくりなんだもん!」


「いや、笹栗の方がかわいいだろ! 絶対!」


「それはそう! 俺たちは笹栗 璃々菜りりなより断然、笹栗 璃々花派だから! 安心して!」


「なんでそんなことあんたに言われて笹栗さんが安心しなきゃいけないのよ! 何様!」


「いや、そういう意味じゃなくて、やっぱ国民的アイドルよりもクラスメイトの方が大事だろ? そ、そういうことだよ!」


「きも!」


「ほんと、マジで男子ってキモいよね、笹栗さん!」


 そうやって常に自分の話題が話されているっていうのに、笹栗 璃々花は全く言葉を発っさない。

 それどころか完全なる無表情。

 あれじゃ、せっかくの国民的アイドルグループのセンターの双子の妹、笹栗 璃々菜と瓜二つの超絶美少女フェイスが台無しだ。


 そう。

 笹栗 璃々花は信じられないくらい超無口で、信じられないくらい超無愛想な女の子なのである。


 普通だったらそんな子、俺みたいに誰にも相手にされないはずなのに、彼女のまわりにはいつも人だかりができている。


 そして、みんな彼女に気に入られたくて、手を変え品を変え猛アタックを毎日のようにしているのだが、笹栗 璃々花が陥落かんらくした(心を開いた)という知らせはまだ俺の耳には届いていない。


 きっとこの分じゃ、この高校を卒業するまでその知らせは俺の耳には届きはしないのだろう。


 ――てっきり、俺はそう思っていたのだ。


 が訪れるまでは。






         ◇






「・・・・・・野滝くん、ちょっといいかな?」


 俺は突然、そう笹栗 璃々花に声を掛けられたのだ。

 

 その時、教室にはなぜか俺と笹栗 璃々花しかいなかった。


 それは神様が俺に与えてくれた奇跡だったのかもしれない。


「・・・・・いいけど」


 と、俺が恐る恐る答えると、


「ありがとう!」


 とで言って、笹栗 璃々花は俺の前の席に腰を下ろした。


 一体これから何が起こるのだろう?


 もしかしてドッキリか何かなのだろうか?


 いや、いや、笹栗 璃々花がそんな浮わついたことをするはずがない!


 てか、なんでこんなに表情豊かなんだ? 


 こんな、これじゃあ、まるであの超プロフェッショナルアイドルの彼女の妹、笹栗 璃々菜みたいじゃないか!


 そんなふうに俺が半ばパニックになりながら思考を巡らせていると、笹栗 璃々花は俺の机に両肘を載せて、その超絶美少女フェイスを自分の両手で支えながら、俺の顔をじっと上目遣いで見つめてこう言ったのだ。


「この顔がずっと思い出せなくてさ。昨日の夜困っちゃって、危うく君に電話して助けを求めちゃうところだったよ。でも、だんだん思い出せるようになったら、安心してぐっすり眠れたの! 君の顔はわたしの安眠剤なんだ! 眠れない時にさ、君の名前を何度も唱えてるとだんだん安心してきて、それで君の顔をはっきり思い浮かべられたらもう安眠確定! でも、昨日はちょっと苦戦しちゃったからさ、今日はちゃんと君の顔を間近で見ておこうと思ってね。だから、気持ち悪いかもしれないけど、もうちょっと見つめさせてね!」


 高校二年で同じクラスになってからほとんど声すら聞いたことのない超無口で超無愛想なはずの、双子の妹が国民的アイドルである超絶美少女、笹栗 璃々花に満面の笑みの上目遣いでそう言われて、俺の頭の中はますますパニックになってしまっていた。


「ほんと、君の両親には感謝してるんだよ! いつか直接会ってお礼を言いたいくらい! だって、野滝のたき 真平太しんぺいたって最高の名前じゃない! のたきしんぺいた、のたきしんぺいたって繰り返し唱えてるとほんと幸せな気分になってくるんだよね! それに、君の顔ってほんと野滝 真平太 顔だよね! わたしの部屋に持って帰りたいくらいだよ! ・・・・・・そうだ! わたしの家においでよ! 日頃のお礼に国民的アイドルに会わせてあげるから! それに、うちのママも会いたがってるし。・・・・・・でも、気をつけてね! うちのママ、美魔女コンテストで日本一になった美貌とJカップのブリンブリンおっぱいで年下くんをすぐに落としちゃう悪女だから! じゃあ、今日の夜、7時にこの地図の場所に来てくれる? しっかりおもてなしするから!」


 本来、超無口なはずの笹栗 璃々花のマシンガントークがそこで終わると、それを待っていたかのように教室にクラスメイトたちがどっと入ってきた。


 すると、笹栗 璃々花は何事もなかったように自分の席に戻り、またいつもの仏頂面ぶっちょうずらの無口な美少女に戻って、クラスの陽キャたちに囲まれていた。


 それで、あれは夢か俺の妄想だったのかと一瞬思ってしまったのだが、机の上には確かに笹栗 璃々花の家の場所が書かれた手書きの地図が残されていたのだった。


 そして、そのピンクの小さな便箋には最後に女の子らしいかわいらしい字でこう書いてあったのだ。



 ――わたしを真夜中の絶望から救ってくれた王子さまへ♡



 俺があの笹栗 璃々花の王子さま!?


 そんなバカな話があるか!


 俺は根っからのぼっちの陰キャだぞ!



 まあ、それはそうと、ここで笹栗 璃々花という超絶美少女のスペックをはっきりさせておきたいのだが、彼女の髪型はツヤツヤの天然栗色のポニーテールで、肌は雪のように白く、父親が日本とイギリスとのハーフであるため宝石のような美しい碧眼へきがんを持っており、しかし、典型的なハーフ(正確にはクウォーター)美女というよりは日本人が一番かわいいと思ういわゆるちょいロリ風味の入った美少女で、その上なんと(推定Hカップ――きっと美魔女の母親から引き継いだのだろう)で知られていた。


 つまり、全日本男児全員の夢の集合体のような女の子なのである(実際、双子の妹の笹栗 璃々菜はまさに全日本男児に公式認定されたそんな存在だった)!


 えっ? その双子の妹もこの家にいるのか?


 そう思うと、その笹栗 璃々花からもらったピンク色の小さな便箋がとても貴重なもののように思われ、クラス中の男子から狙われているような気がしてきた。


 実際は誰もこの便箋の存在に気づいてさえいないのだけど。


 まあ、ぼっちの俺には予定などないに等しいのだから、とにかく、この地図に書いてある場所に行ってみるか。


 そう決めてからは授業中も、笹栗 璃々花のことがいつも以上に気になって仕方なかった。





         ◇





 地図に書いてある場所についてみて、俺は驚いてしまった。

 それは高台にある超大豪邸だったからだ。

 笹栗 璃々花の父親が一代であの有名な笹栗ホールディングスを立ち上げた実業家だということは知っていたのだが、こんな超大豪邸を実際に見るとやはり人間驚いてしまうものらしい。


 重厚な黒い門扉は固く閉ざされていて、自分は全く歓迎されていないように感じられた。


 それでも、俺は決死の思いでその超大豪邸のインターホンを鳴らして、こう言ったのである。


「わたくし、野滝 真平太と申します! 約束の7時の少し前ですが、チャイムを鳴らさせていただきました! ご都合よろしいでしょうか?」


 すると、その超大豪邸のインターフォンからこんな声が聞こえてきたのである。


「のっ、野滝くん? ほっ、本当に野滝くんなんですか? なっ、なんで野滝くんがウチに?」

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