入眠の旋律

「あはは、そうなんだ」



 ベッドの上に携帯電話を置きながら僕は携帯電話から聞こえてくる声に答えて笑う。今やっているのは、トークアプリでの通話。少し前に出来た彼女との夜の通話はもう僕達にとっての習慣となっていて、お互いにもう眠る準備が出来てからやるようになっていた。


 彼女曰く、普段はあまり睡眠が深くないけれど、この通話をした後だとぐっすり眠れるようで、通話が出来なかった日はたしかに度々目を覚ましているようだった。実際、僕もこの通話の習慣を始めてからというもの、翌朝もしっかりと起きる事が出来るようになっていて、最初は彼女の方から通話がしたいと言っていたのに、今では僕の方からせがむようになっていた。


 それくらい彼女とのこの通話の時間は楽しくて掛け替えの無いものであり、今後も大切にしていきたい物だと思っている。



「今日も通話に付き合ってくれてありがとう。なんだかごめんね、いつも時間をしっかりと作ってもらっちゃって」

『そんなことないよ。まあ、早く話そうってメッセージを送ってきたり始まった途端に嬉しそうな声でもしもしって言ってきたりするところは可愛いけどね』

「う……だって、この通話は本当に楽しいし、つい甘えたくなるから……」

『ふふ、ほんとにかーわいい』



 クスクス笑いながら彼女は言う。彼女は僕の事をからかったり何かにつけて可愛いって言ってきたりするが、僕個人としてはもっとカッコいいとか頼りになるとか言われたいのだ。


 ただ、彼女が色々受け入れてくれたり話を聞いてくれたりするのについ甘えてしまうし、実際に会ったりした際には何度も抱き締めてしまったり離れたくなくなってしまったりするなど彼女がいないと耐えられなくなっている。だからこそ、彼女に呆れられたり嫌われたりしないようにしたい。そんなことがあって別れるなんて事になったら、僕は一生塞ぎ込んでしまうだろうから。


 そんな事を考えていた時、僕の口から小さなあくびが漏れ、少しずつ眠気が強くなってきた。



「まだ……話が、したい……のに……」

『話なら明日も出来るでしょ? ほら、眠いならおとなしく寝た方がいいよ?』

「うぅ……いやだ……」



 眠ることで彼女と話す時間が無くなってしまうのが嫌で小さな子供のように駄々をこねてしまった。その瞬間にしまったと思ったが、彼女は電話の向こうで小さくため息をつく。嫌われたくないと思いながら怖くなっていると、電話の向こうからは綺麗な歌声が聞こえてきた。



「これ、って……子守りう、た……」



 彼女の綺麗な声はまるでそれだけでも一つの音楽のように僕の気持ちを落ち着けていき、ゆっくりと眠りへと誘う。



「なんだか……とても、安心する……」



 電話の向こうにいるはずなのに、まるで目の前にいて歌ってくれているかのような安心感で僕の中の恐怖は無くなり、強くなった眠気が歌声と一緒に僕を包み込んだ事で、僕の意識は少しずつ落ちていった。



「また……あし、た……」

『うん、また明日。大好きだよ』

「ぼく、も……」



 彼女からの大好きという言葉がより安心感を与えた事で、僕はそのまま目を瞑り、また聞こえてきた旋律に誘われてゆっくりと眠りに落ちていった。

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安眠話 九戸政景 @2012712

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