□ エピローグ2 シリウスと十歳の白竜プロキオン


真実が明るみになるにつれ、

シリウスは再び英雄として、返り咲いた。


宝玉眼と白竜たちの、

鮮やかな救出劇!!


彼はおちゃらけて、

なあんにも語らなかった。


しかし、

ファンたち、そして白竜の考察はおおむねこうだ。


彼は、きっと彼らに名を与えたのだ。


名前を持たぬ、

あるいは奪われた彼らに、

直感で次々と名前を授けたのだ。

シオンの文様の扱いと、ほぼ同じだ。 

シオンは竜鎧やパーティーの装飾でそれを表現した。


シリウスはトークで、それが実現できるのだ。

【名の扉】の文様、その美しいステンドグラスの埃を払い、丁寧に拭き上げ、ひとつひとつの輝きを、

巧みなトークで、相手に伝えることが出来るのだ。

深く付き合わなくても、出会ったその瞬間に。

直感インスピレーション。そして初対面にしてそれをすんなりと受け入れさせる、恩寵。

シオンと少し違うのは、彼のそれは、深い悲しみから沸き立つ影のある色気と、どんな寒空の下でも尽きることのない無限の手の温かさなのだ。

だから、命の灯火を再び燃やすことができるのだ。



あとは、幾重にも囲われた塀の一部の輪郭線を消し、天の竜の口を封じ、竜車を授けたのだろう。

それで、彼らのほとんどは、彼らの心の欲するままに、おのおのの世界へと帰っていったのだ。



白竜はまことしやかな考察としてファンレターを書いた。


ファンが聴く限定の一日限りの魔法電波器ラジオプログラム宛にだ。


シリウスのプログラムは、いつもの調子だった。

陽気な音楽。笑い屋さんとのおしゃべり。

小中高生、大学生、社会人やお年寄り。

みんなのお悩み相談を、

軽妙なお喋りに乗せて届けた。自慢話には意地悪くして、自虐は慰めて、

最期は自分のことを話した。

白竜との喧嘩のくだりも、近頃はお約束だった。美人と噂される彼女にめろめろになりながら、ぷりぷり怒って、

旅行やら入院を匂わせたりしてた。


そして、

ファンの間でももはや愛弟子でお馴染み、

子犬のプロキオンからのお便りを、シリウスが読み上げた!!例の考察。


そして、

「そんなわけない。お前はいつも考えすぎっ。はい次!」

と言った。

「今は、みんなが宝玉眼で、みんなが白竜。近頃のコスモス、君、ますますお目々キラッキラだね。どうしたの。」

秘密!と、べしっと叩かれる音がした。

わはは、と笑われて曲紹介へ移った。流されたのは勧善懲悪の時代劇のテーマソングだった。立て続けに、名探偵もののアニメソングが流れた。

ファンは、それはそれは大喜びだった!


だって、なんのお便りを読み上げるのかはスタッフではなく、すべてシリウスが決めていると、

言及せずとも、みーんなうっすら知っていたからだ。曲も彼が選んでいた。

ファンの解釈では、ほぼ答え合わせだった。


最期に孫の歌が流れた。



十歳の白竜、プロキオンは私室の寝床でばたばたした。

最っ高に幸せな夜だった!

だから、シオンの真似をした。 

もう一人の大恩人。偉大なる竜医師スーパードクターへ、

オロッポロッポのグラスを掲げた。

おめでとう、俺!!

おめでとう、先生!!


乾杯チアーズ!!


小窓には、

南十字星が輝いていた。

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