第7話 呪詛まみれのシオン


一方そのころのカーアイ島。


サーフボードに乗りエルザかのじょは、

海からやってきた!


オリオリポンポスの山からは、白く細い煙がまっすぐ天へ伸びていた。


エルザは、休暇オフになったので、サーフィンを教わりたいという魔法封書をくれた、ポーラの下へやってきたのだ。文様は海を渡る青い蝶。アサギマダラだ。被っているのは、レンに贈られた帽子だった。


そしてその後ろ。

天からはレンたちがログインしていた。

みんな魔法滑空翼グライダーに乗っている。

レンは俺の嫁に気づいて、手を降った。

ぐらりと揺れて、あわててサヤナとナギサが両サイドから角度を修正した。チワが大声でエルザを呼んだ。


「エル姉ーーー!!緊急事態よおーーー!!」



シオンからの手紙、

それからこの世界の変異を報せに行くのだ!


そして浜辺で合流し、

エルザは彼らの話を聞いたのだった。

それから南十字星に行った。

しかし居たのはゲストルームのお手伝いさんという名の老巫女さん三人だけだった。他の神殿や竜医院に行っても、みんな彼らは留守だと口を揃えた。

大陸のモノマネ番組に出ている、と言いはった。


「う、嘘だあ!それなら、俺を連れてくと思う!!」

レンが主張した。他の子たちもこくこくとうなづいた。

たしかにレンは、モーブくんのモノマネが上手だった。こがらしの大根役者ぷりは、モノマネの枠からははみ出した笑いだった。


そんなわけで、森の皇国神殿では、

鼻息荒く迫る彼らを、兄貴分の神父、ふとっちょの神父、巫女さんが宥めていた。

巫女さんがいつもの調子で、場を和ませようとした。

「ほら、新作。ぶどう杏仁豆腐よ。食べる?」

いかにも夏らしい、

美味しそうなぷるぷるが4つ。

わあっと、チワは喜んだ。

ナギサもあらっ、と明るい顔をした。

サヤナは、ええっと戸惑った。


「誤魔化すなあーーっ!!」


カウンター奥のテーブルに通されて、

銀の匙でぷるぷるを口に運ぶ三人をよそに、

レンはますます、ヒートアップしてしまった。

ふとっちょは、ホントだよぉ、と言うが、さっぱり信じてもらえなかった。

島の大人たちは隠し事ばっかり!!

というか、仮にホントだとしても涙目の理由は、

モノマネ番組に呼んでもらえなかったショックのほうに、変わりつつあった。

兄貴分は困り果てて天を仰いだ。


おーーい!シオン!!

早く帰ってこーーい!!



一方その頃。

凩と杏は島への帰路につき、モーブくんはノーザンクロスの元へと戻った。

シオンやミルダ、アトラスとポーラ、シリウスは、第二船団に泊めてもらっていた。

シリウスは劇場さながらに、ガハガハ笑う金髪の美女たちも、ミステリアスな美女たちも、すっかり虜にしていた。彼女たちは眠るのも忘れていた。


シオン達はゲストルームに通され、ぐっすり眠った。シオンは朝早く目覚めたのでバルコニーへ出た。そして皇国大陸の美しい朝焼けを見ていた。

空は島と変わらなかった。

濃紫と橙が交じり薄い層になる。ただ海の色が違った。風の匂いも、そこに交じる花の香りも違った。

シオンは、カーアイ島に住み着いてからは、

ノーザンクロスの活動はあれど、こちらで朝を迎えるのは、初めてだった。

船団時代の朝のようで懐かしかった。ひとびとはしんと静まり返っているが、人の気配、竜の気配がする。船は船団のもので、自分の持ち物なんてほぼない。そのうち、体操も始まる。訓練の声が聞こえる。怒号と汗の匂い。ふと、空が飛びたくなって隣室のアトラスに会いたくなった。が、彼はバルコニーには出ていないようだった。ふうん、と思って牙を舐めた。

上唇からも下唇からも、血の味がした。

左手の親指は、ズキズキして噛みちぎった跡があった。

シオンははっとした。


ミルダ。ミルダは無事か?!



ミルダはベッドでぐっすり眠っていた。不安で不安で、涙目になり彼女を揺り起こしてしまった。

「え、何…?」

銀の髪。紅玉の瞳。温かい羽のような身体。よく知ってる花と果実の香り。それを確認するともう一度抱きしめた。昨日のことが思い出されて情けなさで一杯になった。


昨日、仕事プログラムが一通り終わったあと。

楽屋でシオンは、本当にカッとなってしまった。

緊張するミルダを抱いたときに、走ってしまったのだ。


直感インスピレーション


ノーザンクロスアイドルかつどうの楽屋、モーブくんおしのアイドルが交じる。

こがらしからくすねた紙煙草と同じ銘柄、もとかれが交じる。

そんなの当たり前だし、そもそも俺の仕事ビジネスが招き寄せた事態だ。

彼女は契約者で、仕事仲間ビジネスパートナーで、友人で、恋人。

島の女神。元皇国姫巫女。現霊媒師。ドラゴンゾンビ狩りの紅いシスター。

しかし大人の女性で、生身の人間だ。


でも、駄目なんだ!!


厚いメッキの呪いを施した、瞳の下のブラックホールはぐんぐん大きくなり、金と銀と己のメッキが混じって渦になるのがわかった。まずいまずいまずい!!

これは、嫉妬やきもち


そもそも、自分にだって背負うものはあった、

島の竜医師。みんなの仲間。しかしそんなことは、もうすっかり意識の外だ。

ミルダの恋人。キリスの契約者。

ただただこのことだけだった。例のごとく、ぷっつーーーんと、何かが切れてしまった。


よりによってあんな危険な場所アウェイで、

ミルダの紅玉眼を晒させ、半ば縛り上げた。

呪詛で声を封じ、呪詛で意地悪く輪郭線を消した。

そう、彼女に酷いことをやったのは俺だ…。


アトラスは…、気づいてたと思う。捕縛術ぐるぐるまきは昔から得意だし、個性があるんだ。俺のは手品というか芸術品?…なんでもない。

それでまあ、背後から悪党にあっさりと捕まってしまった。作戦通りではあるが、ミルダが捕まったのは、もちろん想定外だ。

さすがに、向こうも、これは罠だろ?思ったのか、警戒に警戒を重ねて、追手がないことを確認し尽くしてから、ノーザンクロスの楽屋のクローゼットにある天の回廊へと、くぐっていったのだった。

時間が稼げたおかけで、酷い目には遭わなかった。

シオンも、捕まっても仕方ないような間抜けな小物感が演出できた。

しかしそれは、結果論でしかなかった。



船団に長居して昔の自分に戻るのが、心底怖くなって、早朝だけどみんなを叩き起こした。

早くこの地を離れよう。

仕事にかこつけて、早く帰りたいとみんなには伝えた。それは、いかにもスーパードクターらしい振る舞いだったから、みんなにっこり微笑んだ。

第二船団も、シリウスだってニンマリした。

そして、シリウスの手配してくれたサンバトラー三兄弟も顔負けの特大の竜車に乗って、一行はカーアイ島へと帰っていったのだった。











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