第7話 呪詛まみれのシオン
◇
一方そのころのカーアイ島。
サーフボードに乗り
海からやってきた!
オリオリポンポスの山からは、白く細い煙がまっすぐ天へ伸びていた。
エルザは、
そしてその後ろ。
天からはレンたちがログインしていた。
みんな
レンは俺の嫁に気づいて、手を降った。
ぐらりと揺れて、あわててサヤナとナギサが両サイドから角度を修正した。チワが大声でエルザを呼んだ。
「エル姉ーーー!!緊急事態よおーーー!!」
シオンからの手紙、
それからこの世界の変異を報せに行くのだ!
そして浜辺で合流し、
エルザは彼らの話を聞いたのだった。
それから南十字星に行った。
しかし居たのはゲストルームのお手伝いさんという名の老巫女さん三人だけだった。他の神殿や竜医院に行っても、みんな彼らは留守だと口を揃えた。
大陸のモノマネ番組に出ている、と言いはった。
「う、嘘だあ!それなら、俺を連れてくと思う!!」
レンが主張した。他の子たちもこくこくとうなづいた。
たしかにレンは、モーブくんのモノマネが上手だった。
そんなわけで、森の皇国神殿では、
鼻息荒く迫る彼らを、兄貴分の神父、ふとっちょの神父、巫女さんが宥めていた。
巫女さんがいつもの調子で、場を和ませようとした。
「ほら、新作。ぶどう杏仁豆腐よ。食べる?」
いかにも夏らしい、
美味しそうなぷるぷるが4つ。
わあっと、チワは喜んだ。
ナギサもあらっ、と明るい顔をした。
サヤナは、ええっと戸惑った。
「誤魔化すなあーーっ!!」
カウンター奥のテーブルに通されて、
銀の匙でぷるぷるを口に運ぶ三人をよそに、
レンはますます、ヒートアップしてしまった。
ふとっちょは、ホントだよぉ、と言うが、さっぱり信じてもらえなかった。
島の大人たちは隠し事ばっかり!!
というか、仮にホントだとしても涙目の理由は、
モノマネ番組に呼んでもらえなかったショックのほうに、変わりつつあった。
兄貴分は困り果てて天を仰いだ。
おーーい!シオン!!
早く帰ってこーーい!!
◇
一方その頃。
凩と杏は島への帰路につき、モーブくんはノーザンクロスの元へと戻った。
シオンやミルダ、アトラスとポーラ、シリウスは、第二船団に泊めてもらっていた。
シリウスは劇場さながらに、ガハガハ笑う金髪の美女たちも、ミステリアスな美女たちも、すっかり虜にしていた。彼女たちは眠るのも忘れていた。
シオン達はゲストルームに通され、ぐっすり眠った。シオンは朝早く目覚めたのでバルコニーへ出た。そして皇国大陸の美しい朝焼けを見ていた。
空は島と変わらなかった。
濃紫と橙が交じり薄い層になる。ただ海の色が違った。風の匂いも、そこに交じる花の香りも違った。
シオンは、カーアイ島に住み着いてからは、
ノーザンクロスの活動はあれど、こちらで朝を迎えるのは、初めてだった。
船団時代の朝のようで懐かしかった。ひとびとはしんと静まり返っているが、人の気配、竜の気配がする。船は船団のもので、自分の持ち物なんてほぼない。そのうち、体操も始まる。訓練の声が聞こえる。怒号と汗の匂い。ふと、空が飛びたくなって隣室のアトラスに会いたくなった。が、彼はバルコニーには出ていないようだった。ふうん、と思って牙を舐めた。
上唇からも下唇からも、血の味がした。
左手の親指は、ズキズキして噛みちぎった跡があった。
シオンははっとした。
ミルダ。ミルダは無事か?!
◇
ミルダはベッドでぐっすり眠っていた。不安で不安で、涙目になり彼女を揺り起こしてしまった。
「え、何…?」
銀の髪。紅玉の瞳。温かい羽のような身体。よく知ってる花と果実の香り。それを確認するともう一度抱きしめた。昨日のことが思い出されて情けなさで一杯になった。
昨日、
楽屋でシオンは、本当にカッとなってしまった。
緊張するミルダを抱いたときに、走ってしまったのだ。
そんなの当たり前だし、そもそも俺の
彼女は契約者で、
島の女神。元皇国姫巫女。現霊媒師。ドラゴンゾンビ狩りの紅いシスター。
しかし大人の女性で、生身の人間だ。
でも、駄目なんだ!!
厚いメッキの呪いを施した、瞳の下のブラックホールはぐんぐん大きくなり、金と銀と己のメッキが混じって渦になるのがわかった。まずいまずいまずい!!
これは、
そもそも、自分にだって背負うものはあった、
島の竜医師。みんなの仲間。しかしそんなことは、もうすっかり意識の外だ。
ミルダの恋人。キリスの契約者。
ただただこのことだけだった。例のごとく、ぷっつーーーんと、何かが切れてしまった。
よりによってあんな
ミルダの紅玉眼を晒させ、半ば縛り上げた。
呪詛で声を封じ、呪詛で意地悪く輪郭線を消した。
そう、彼女に酷いことをやったのは俺だ…。
アトラスは…、気づいてたと思う。
それでまあ、背後から悪党にあっさりと捕まってしまった。作戦通りではあるが、ミルダが捕まったのは、もちろん想定外だ。
さすがに、向こうも、これは罠だろ?思ったのか、警戒に警戒を重ねて、追手がないことを確認し尽くしてから、ノーザンクロスの楽屋のクローゼットにある天の回廊へと、くぐっていったのだった。
時間が稼げたおかけで、酷い目には遭わなかった。
しかしそれは、結果論でしかなかった。
◇
船団に長居して昔の自分に戻るのが、心底怖くなって、早朝だけどみんなを叩き起こした。
早くこの地を離れよう。
仕事にかこつけて、早く帰りたいとみんなには伝えた。それは、いかにもスーパードクターらしい振る舞いだったから、みんなにっこり微笑んだ。
第二船団も、シリウスだってニンマリした。
そして、シリウスの手配してくれたサンバトラー三兄弟も顔負けの特大の竜車に乗って、一行はカーアイ島へと帰っていったのだった。
◇
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