第6話 天の竜と、赤い第二船団
◇
金の糸束はスタジオを飛び出て、外へと繋がっていた。
ポーラは都度パシャリと写真を取り、シオンの作戦を伝えている島のみんなへ魔法封緘を飛ばした。
空を通る回廊。それは新鮮な光景だった。
葡萄は竜へ姿を変えて、みんなを背中に乗せた。
全員の輪郭線を
皇国大陸は、白い石造りの住まいがびっしりと並んでいた。目下のそれらは夕陽に照らされ屋根は橙色に染まり、ガラス面は反射でキラキラと光った。
一行は嫌な予感がした。
この金の糸の高さは、
それらの建物より、はるかに高かった。
こんなに上空にある建物と言えば。
…。
目の先には、
大陸一の皇国神殿の大きな鐘があった。
はあ…。
アトラスはなんとなく、そうではないかと思っていた。
昔見た囚われの白竜たち。
宝玉眼を集めるだなんて、彼らと似通った趣味嗜好としか思えなかったからだ。どうしたものかな?
◇
シオンとの
天の竜(おためごかし)、
天の竜(対立煽り)、
あるいはその両方の仕業。
ほとんどの天の竜は、
彼らのルールの中でまっとうに暮らしている。
おためごかし、対立煽りに気をつけろ。
闇の竜と同じ。
女王ドーラやその夫ゴンゾーは、身勝手で恐ろしいが仲間思い、子ども好き、交渉可能で報酬は飛び抜けて大きかった。
闇の竜(人さらい)や、闇の竜(帳尻合わせ)は、悪びれず、まったく始末に終えなかった。
さっさと
天の
天の
回廊の向こうは表と闇が混在していた。
一、瞳にメッキ
一、ラト毛の上着
一、呪詛よけの
◇
思った矢先に、とてもいいものが見えた。
先日、カーアイ島にやってきていた、
女傑揃いのカジノ併設、赤き皇国軍第二船団。
彼らが寄港していた。輪郭線は消えていたが、ゴーグルの効果でクッキリ見えた。
皇国神殿の鐘のところへ居て、ご祈祷姿の神父が何人か出入りしているのが見えた。
ははーん。
よしよし。
プランが凡そ見えてきた。島ならともかくここは出先。出来るだけ
ポーラは、証拠写真を撮っては、カーアイ島への魔法封筒を飛ばし続けた。
皇国大陸も、天の回廊が吹き出していた。
備えを厚くしよう。
みんなの服は、ラト毛の裏地はもうついていたので、
◇
追っ手が来るかもしれないので、杏とポーラは見張り役だ、鐘で待機。
アトラスと葡萄が潜入することにした。すでに輪郭線を消していたので、鐘のある塔から神殿の中へ滑り込んだ。
見張り役を置いてきたのは…、嫌な予感がしたからだ。
幾重にも重なる扉を開けると、それはそれは酷い光景だった。
札束風呂に天の竜らしき人型の影二体。神父らしき影二体。
きゃあきゃあと侍るお姉さまたち。雑誌広告でしか見たことのないアレが
…。
やっぱり。ぶちのめそうかと思ったが、目的は宝石眼の救出だ。ウロウロしていると、
「おう!!」と彼らに声をかけられた。
「こっち来いよ!」
?!
どう考えても、アトラスと葡萄に声をかけていた。
葡萄は、はっ!!とした。大失態を犯したことに気づいた。
天の竜のお膝元ということは、
◇◇◇
彼らに
闇の竜に
◇◇◇
葡萄は厚い厚いメッキの顔の下で、冷や汗がタラタラ出てきた。
その点アトラスは凄い。動揺を見せなかった。
精悍な横顔。メッキの瞳の下の青白いプラチナが光った。厚手のメイクはシオンそっくりだ。長い睫毛の下葡萄に横目で指示を出した。
やれ。
葡萄はハッとした。
葡萄は目線を合わせないままつかつかと彼らに近づいた。見えないようガリっと親指を噛み切り投げキッス。場がきゃあっと沸いた。花びらが見えたからだ。そうして札束の中の手招きの男の首筋に、黒い葡萄の花の呪詛を飛ばした。スッパリと首筋を切り、その男の輪郭線を消した。声も封じた。
みんな、あれ?!となった。残りの三人にも同じ事をした。四体の悪党を消した。
天の竜対策。
札束はもごもご動いていたが、中に潜ってふざけているんだろうと、女たちは思った。女たちにはアトラスも葡萄も見えていなかった。アトラスは、グラスをおもむろに出し、たっぷりと注いで、酒をぐびぐび飲んでみせた。彼女たちには、誰もいないのに浮いたグラスに酒が注がれて、飲み干されたように見えたに違いなかった。それで、きゃあっ!と笑った。男がお
葡萄はその隙に、男たちをぐるぐるまきにした。
アトラスは先に進み、扉を幾重にも幾重にもくぐった金の糸束の先に、その部屋を見つけた。
プライベートルームという名の幽閉室だった。
シリウスは、…まさかのご機嫌だった。寂しかったのだろう。
シオンとミルダが、ぐるぐるまきのまま彼のおしゃべりを聞かされてぐったりしていた。しかしシオンは、救出に来た二人にすぐ気がついてにっこりした。糸束の感触から、助けが来るのは察していたのだろう。アトラスはミルダの縄を、呪い紙で焼き切り素早く解いた。
そしてシオンの縄を解いて、頭をべっしん!!とぶっ叩いた。
もう一人のぐるぐるまきは…、なんとコスモスだった!金の鎖状の糸束は彼女のものだった。
…何で?宝石眼なんて持ってないよな?
というか、モーブくんは何処へ??
彼は、後ろから涼しい顔でひょいっと出てきた。
ぱちぱちと拍手していた。
「すごいすごい。よく見つけたね。」
そして、にっこりした。
「彼女が自分から志願したんだ。」
「シオンの力になりたいっていうからね。俺たちが、呪いで協力してあげたんだよ。」
「何その顔。もしかして、勝手なことした彼女に怒ってる?」
天の竜。
おためごかし。
対立煽り。
お、
お前、
主犯じゃないだろうな?
アトラスは頭がくらくらした。
葡萄は、もうぶん殴る寸前だった。が、首をナナメに振ったアトラスに、肩をぽんとされて、ハッとした。
そして、モーブくんにもフッと黒い葡萄を飛ばし、その口を封じ輪郭線を消した。ぐるぐるまきにしてやりたかったが、ぐっとこらえた。
解放されたシオンとミルダが、静かに言った。
「それが。」
「天の竜なのよ。」
ミルダはちょっと楽しそうだった。天の竜だろうと竜が好きなのだ。
ぷぷっ。なにあのキョトン顔。ホントは視えてるけど、私もシカトしちゃおーっと。
ホラ、涙目になってふるふるしてる。
きゃあ、かわいいーー!!!
皇国フェスのときのオリオリポンポス山が噴火したときの彼の尻もちを思い出していた。
ぷぷぷーー!!
◇
あとは、簡単なものだった。
第二船団に、悪さした
そして
カジノ遊びなんて目くじら立てるほどのことでもない。娯楽だ。シリウスも見てたし、身なりも良かったから彼らも神父の中じゃおえらいさんだろう。彼らは対処を約束してくれた。
◇
シリウスのそれは、潜入捜査だった。
すでに捜査のほとんどを終えていた。
宝玉眼と白竜たちは、各々の居住区へと帰り家族と抱き合っていた。
それは、後日知ることになった事実である。
◇
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