第5話 天の竜モーブくん
◇
忽然と居なくなった、シオンとミルダ。
ふふっと、ポーラと杏は笑った。
ノーザンクロスの仕事はもう終わっていたが、いつもは、こんな急に居なくなることはないらしい。
ぱたぱたしていた。
シオンはともかく、ミルダが居るときは丁寧に挨拶していくのだと、マネージャーたちは不思議がっているようだった。
「デートかな?」
モーブくんがにっこりすると、スタッフはどっと笑っていた。彼らの態度から、ただの
ポーラたちも、先にホテルに帰って帰り支度だけしよう、ということになった。
ポーラはあれ?と思った。 凩が仕切るのをほっておくなんて、アトラスらしくないなあ。
そして坊主頭の二人の男の顔を覗き込んで、ぎょっとした。
アトラスと葡萄は、ものすごーーーく青ざめていた。
そして、杏と顔を見合わせて、あっ!!という顔をした。
◇
アトラスと葡萄は、頭がくらくらした。
シリウスの不在、シオンとミルダの失踪。
どう考えても、宝玉眼狙いが動いている、よな?
しかも常駐してるカーアイ島でなく、
スポット的にやってきた大陸のほうで捕まるとは!
よりによって、
司令塔のシリウスが真っ先に居なくなってしまった。どうする??
まずは、二人で痕跡を辿るほかないと結論づけた。
楽屋へ向かった。
「お客さん、出口はこっちじゃないですよっ。」
「関係者以外、立入禁止です!!」
警備員の男二人に、止められてしまった。
二人ははっとした。自分たちは素人さんとして撮影スタジオに潜入しているのだった。どうしたものか。
悩んでいると、杏がすたすたやってきた。
「主は寝かせました。行きましょう。」
そう言って、葡萄の腕をぐんと引っ張った。そして、ポーラも後をついてきて、アトラスの腕をぐんと引っ張った。
「えっ??!!」
二人の女の背中は汗が霧になって、靄がかかっていた。二人の背中はこう語っていた。
お み と お し 。
杏は二人の警備員の耳にふっ、ふっ、と息を吹きかけた。彼らの目はハートになって、くるり!!と踵を返して敬礼をし、もっと先まで案内するといった風情だ。杏は顎で、ついっと指示して彼らをその場に待機させた。
しゅごい。
アトラスもポーラもあっけにとられた。
葡萄は杏に掴まれたままだったが、手には金色の糸束を持っていた。シオンの縫ったすべての衣装には痕跡が辿れるように細工がしてあった。シオンは情報が漏れるのを恐れ、誰にも話していなかった。が、ポーラと杏は先ほど、
金色の糸束の
衣装にアレンジするとは。やっぱりお前は天才だ。
敵わない!!と一瞬思いかけたが、ぶんぶんと首振って思い直した。
アイツは俺がいないと駄目なんだ!!
◇
糸束は、シオンの楽屋から出て、ぐるぐると撮影スタジオを彷徨ったが、最終的には思いがけない場所へ辿り着いた。ノーザンクロスの楽屋だった。
◇
そこにはモーブくんが居た。
まさか彼が犯人?!
アトラスが飛びかかろうとしたが、モーブくんはシュッとかわした。
葡萄とアトラスの二人がかりで捕まえようとするが、モーブくんは、
「えっ、えっ、やっ、違っ!!」
と言いながら、目も瞑らずスイスイと躱すのだ。
とうとう杏とポーラも加わり、四人がかりになって、モーブくんの尻を杏がひっかいた。
「いてえ!!」
モーブくんは涙目でごろんごろん転がった。弱っ!!
そして、彼も金色の糸束を持っていた。しかしよく見ると刺繍ではなく、チェーン状だった。
話を聞くと、なんと!!
まったく別の子が、攫われたというのだ。
ええ?モーブくんも捜査員?
どこかの船団員?白いふうせん?
モーブくんは、そして髪がアンテナのようにぴょこん!と立った。まるで魔法電波器のようだった。
目がぱっちりして、遠くを見た。何かを受信したようだった。
そして、ふっと目線が戻りにっこりした。
「僕は、天の竜だ。」
◇
「天の竜の人型。」
「ドラゴンゾンビ人型みたいな。シオンの類友だよ。」
なんと!そして宝玉眼持ちは、天の竜にも居るのだそうだ。
「シオンが宝玉眼もちになったときは、ビックリしたよね。
普通とは違う手順を、踏んだのかなあ?」
人差し指で顎を押しながら、
うーん、とモーブくんは考えていた。
「まあいいや。俺たち、協力しようよ。」
金の刺繍も鎖も、
ノーザンクロスの楽屋のクローゼットから、モーブくん曰く天の回廊へと繋がっていた。
◇
「待て待て!」と、
アトラスは、呪い紙の紙束から金色のゴーグルを出した。ポーラと葡萄と杏の分も出した。
モーブくんは??という顔をしたので、モーブくんの分も出した。
「これがあれば、回廊に入らなくても辿れるんだ。」
「罠に飛び込むようなモンだぞ。」
葡萄とアトラスが話した。
モーブくんは、へえっ!という顔をした。
天の竜だからといって、何もかもお見通しというわけでは、まったくなさそうだった。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます