第4話 ノーザンクロス、素人そっくりさんモノマネ大会

俺が、

シリウスの不在に気づいてから、

数日後。


カーアイ島は今日も平和だ。

森の木々は美しく、ちび竜の声は、

そこらじゅうで聞こえた。


ただ、ちび白竜はがっかりしていた。

彼の大好きな、シリウスの番組は休止が続いていたからだ。

「あれは、俺の生きがいなんだ!」

と竜預かり所のソファテーブルで、頭を抱えて嘆き悲しんでいた。ちび竜たちもシッターさんもふふっと笑った。

むしろ、じゃあササッカーしようぜ!とちび竜は、色めきだった。白竜はスタミナこそないが、センス抜群、スポーツ万能キレキレなのだ。

近ごろはアトラスが忙しいから、彼が年長者としてリーダー格になっていた。みんな遊んでもらえる機会を伺っていた。

「仕方ねえなあ。」と、クチの悪い彼はしぶしぶ付き合い丘へ向ったのだった。



シリウス失踪の真相は、ファンにも謎だった。

それらしい匂わせは一切無し。

重病説や緊急入院の噂が飛び交ったし、旅行説や引退説もまことしやかに流れたが、いつしかぷっつりと報道されなくなった。そして、同僚、上司、先輩後輩が完璧とは言えないまでもすみやかにその穴を埋めていった。


「シオン、緊急案件!」

ミルダから声をかけられた。

急患かと思ったら、ノーザンクロスからの仕事の依頼だった。

ナント。


シリウスの抜けた穴は、アイドルミュージシャンにまで波及した。

しかも、報酬も飛び抜けて良いらしい。

リーダーのモーブくんからも、直々に参戦依頼があった。もはや人気ツートップなのだ。

プログラムの間を埋めるために、素人そっくりさんを呼ぶ企画も混ぜていくと言うことだった。

よほど人材不足なのだろう。

シオンは急ぎ、皇国大陸へと竜車を飛ばした。


そっくりさん募集!

丸坊主アトラスは色めきだった。シオンのモノマネなら完璧だった。いける!!と確信した。

ポーラと手を取り合って、ぴょんぴょんした。


そして、

ゲストルームの葡萄の部屋へ突撃した。

葡萄はいつものようにほどけかけた髪、ではなく、坊主頭にバスローブを羽織って、がちゃりと出てきた。

「お前、楽器隊な!」


えっ?!

か、髪がないぞ?と断ろうとする葡萄に、

「かぶればいいだろ!」とアトラスは迫った。

その後ろでポーラがニコニコ顔で、衣装を杏に渡した。杏の顔は、ぱあっと明るくなった。なにせ彼女の趣味ライフワークは観劇である。舞台ガチ勢なのだ。

そしてシオンが縫った舞台衣装が二着。ほどよくそっくりさん感のある絶妙さ。杏にはその意図が一瞬で理解できた。

一着は女性が着ることを想定した、男装の衣装だからだ。

メイドとしては、主のこがらしの許可を得る前提ではあるが、報酬をみたら彼も二つ返事に違いないだろう!快く承諾してくれた。

そうして、予想の斜め上の妨害?を受けた。


 杏を貸してほしかったら、

 俺もメンバーに入れろ


こがらしからの魔法封書だった…。

シオンはもう出立していたので、彼の分の衣装は見様見真似で、ポーラと杏が縫ったりまじないで補強したのだった。

モーブくん役は、杏から凩へチェンジ。

杏はプロのメイド。主より目立つわけには行かない、パチッと気持ちを切り替えていた。


そして留守を島のみんなに預けて、

一行は、大陸のモノマネ大会へと出陣したのだった。



そして、大陸の撮影スタジオにほど近い場所に、ホテルの予約を取った。

ホテルから歌番組を見ると、ほんとに緊急募集をかけていた。

「きゃーっ!」と、女たちは歓声を上げた。

ウオーっと男たちは歌とダンスと楽器隊の予行練習に励んだ。



そして本番!

意外や意外、大苦戦!!

大陸には、ガチファンがたくさんいたからだ。

ビジュアルを完全に寄せてくる、応募者が殺到した。魔法封緘も上手に使っていた。


そんな中、アトラスは、

体型も声も全く似てないのに、

さすが相棒。本人さながらだった。震えて揺れる声。甘い語尾。にっこりとした微笑み、流し目。細い指先。少しフェミニンで華奢でたおやかな動き。服の揺れ方から、目線の動かし方までソックリだった。

楽器隊もクールでキレキレ、演奏はエアーだが、ときどきおちゃらけてカメラに顔を向けたり、タイミングよく変顔するところなんか、そっくりだった。

葡萄と杏の息はぴったりだから、背中合わせでの演奏なんて、それはそれはバチッと決まった。

どうみても、凩がクオリティを下げていた。

胸を張り、にっこりとして、モーブくんの面影にかすりもしない。とんでもない大根役者だった。


「ま、負けたくねえ!シオンは俺の相棒だぞ!」

アトラスが、一般視聴者からしたら意味不明のイタいキレ方をした。

それが、どっ!!とウケて予選通過できた。

結果オーライ!★

シオンは口をV字にして、澄ました顔で笑った。

モーブくんは後ろを向いて、ぶふっと吹き出してしまった。


さて次はどうするか。

杏は葡萄に耳打ちした。

そしてまじないを使って、魔法封緘で顔を少し装飾することにした。面白いラインを超えない程度の細工だ。こがらしは嫌がるのでそのままにした。


そして決勝は、優勝!賞金ゲット!!

アトラスはじめ完璧なところに、凩の存在は味わいがあったようだ。

客席のポーラがアトラスに抱きついた。きっと家族や妻子に見えたのだろう。会場は温かい拍手に包まれた。



控室に戻り、ノーザンクロスのメンバーからも、「おめでとう!」とにっこりされた。

マネージャーはじめスタッフたちも「すごかった!また出てください。」と絶賛だった。

凩は胸を張り、アトラスはでれでれ笑った。


シオンの楽屋には、ミルダが居た。

「お疲れさま!」と、いつもの豆茶缶。

冷たいもの欲しいときは、冷たいものをくれる。

それから紙煙草とライター。

喫煙所の場所も教えてくれた。


「きょうはいい。」

そういって煙草をローテーブルに置き、ミルダに抱きついた。ホンの少しだけ施錠して、輪郭線が消えるくらいに、強く強くミルダをぎゅうむと抱きしめた。

元カレこがらしが居たからだろう。

ミルダは冷えてガチガチだ。俺のいる場所でそんなのは許せなかった!!コンドミニアムの温泉に連れて行って、星空を見せてあげたい気分だった。あるいは神殿のスパで、宝玉眼を晒してげらげら笑いたかった。

でもここは楽屋、こんなもんだ。



楽屋の小窓からは、北十字星が見えた。



そして、


シオンとミルダが忽然と消えた。





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