第10話 満天はいと輝けり
さて。
そうやって一行は、
二泊三日の最後に、
天文台へと向かったのだった。
子どもたちを、
天文台のシリウス博士、
それからアトラスのご両親でもある、
二人の博士に預けて、
びしょ濡れのアトラスと葡萄は、
小学校の寮へと移動した。
夏とはいえ、
びしょ濡れのまま天文台に入るのもためらわれたし、
そちらならば、
職員たちに頼んで、
着替えも、用意してもらえると思ったからだ。
みんなで、
プラネタリウムを眺め、
カーアイの星を教わり、
夜になったときの、
今夜の星の様子を教わった。
星は回廊のあっち側も、
こっち側も、
同じなのだった。
北十字星があり、南十字星があり、
織姫と彦星があった。
レンは、
まるで俺とエルザみたいだ、と思って、
彼女の手を握りたかったけど、
隣に居るのは、サヤナだった。
だけど、
ホンのちょっとだけ。
手を触れてみた。
なぜだろう。
悪いことをしているようで、
すごくすごく、
どきどきした。
胸が楽器みたいに鳴り出した。
サヤナは、
そんなことまるで気づいてないみたいだった。
宙空を見ていた。
いつの間にか、前髪を切り揃えていた。
日が落ちてからは、
大きな天体望遠鏡を覗かせてくれた。
遥か遠くの惑星を、順番に見せてくれた。
◇
竜医院では、
シオンが三軒目の外科手術を終えていた。
うち二件は急患だった。
ミルダも、トレッキングには参加せず、
カジノを終えて早々に、
こちらへ移動してきていた。
ついっと糸を引き、
鮮やかに縛り、ぷちんと切る。
紫水晶の瞳が燃えていた。
サンバトラーたちも、
圧倒的な手技の美しさとスピードに見惚れていた。
手術を終え手を洗う。
部屋に戻ると、
皇国新聞が取材に来ていた。
島に現れたスーパードクター。
早くも噂を聞きつけて彼らはやってきたのだった。
彼らは、
シオンの話を聞きたがった。
ミルダは彼が昔から、
仕事について説明するのを、
ひどく好まないことを知っていた。
だから、間に入ることにした。
言葉にすれば、メッキが混じる。
メッキは、職人の腕を鈍らせる。
そして、市場を疲弊させこなごなにしてしまう。
彼にはそれが、辛く苦しいことなのだ。
だからこそ、
彼の矜持は、
一、いんちきしない。
なのだ。
悪気なんてなかった。
◇
簡単に言うとこういうことだ。
一、
手術に集中できるのは、仲間たちの診断が的確だからだ。
一、
灯火を繋ぎ予後を見守るのは、
本人の努力であり、
ご家族やたくさんの仲間たちの努力だ。
一、
何でも教える。医者を増やし、
全ての人々の文様を輝かせ、俺自身も末永く輝く。
それが俺の目標だ。
あなたにとって、医者とは?
はるうらら ボタンとれたら おれにまかせろ。
でしょ?
ミルダは、にっこり笑った。
シオンは、
目を見開いた。長い睫毛をぱっちりさせた。
すごくすごく幸せだった。
ぎゅうむっと、彼女を抱きしめた。
人目があるから、
彼の中では、かなり控えめだった。
記者たちが、わあっと笑った。
そして、
シリウスから、
ねぎらいのフルーツ、
例によってとんでもなく美味しい、が大量に届いていたので、
彼らにも配った。
◇
さて。
天文台に戻ってきた、アトラスと葡萄。
二人を見て、
一行は度肝を抜かれた!!
うええええええーーー?!?!
ふたりとも、
きれいさっぱりと、丸坊主になっていたのだ。
そして、
竜委員の眼鏡のピエロも、
丸坊主になっていた。
◇
シリウスから届いたフルーツは、
シャインマスカット、だった。
◇
そうして、
再び、子どもたちは、
回廊の向こうへと帰っていったのだった。
カーアイの空には、
南十字星が輝いていた。
(終)
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