第9話 オリオリポンポスのトレッキング

二泊三日、

カーアイ島、

ホームステイの最終日。


突如、

ご縁のできた、

女傑揃いの赤い船団、

皇国軍第二船団に連れられて、

彼らは、オリオリポンポス山の、

トレッキングコースへと送迎してもらえることとなった。


もはや、

カーアイ島のステイではなくなっていたが、

そんなことはまあ、良かった。

主催は、丘の邸宅なのだ。

主のシリウスが呑み込んでいさえすれば、

オールオッケーなのである。


そして、

今のシリウスは、

天文台の博士の姿に身をやつしていたのであった。


狙い通りカジノで、

カモにすることこそできなかったが、

レンは、

アイドルのようにかわいらしく、

アトラスのような遊び人も、

葡萄のようなシャイな男も、

楽しんでいたから、

船団の女傑たちも、わりと気分を良くしていた。


ほとんどがスタイルのいい、

ガハガハ笑う、金髪の美女たちだった。

そこに、ゆっくりと喋るミステリアスな美女が、

数人混ざっていた。


女の子の膝に女の子が座ってたり、

やたら頬や首筋をくっつけたり、髪を弄りあったり、ドレスアップしてるのもちらほらいた。


仕上げに、

アトラスとレンとで、

またノーザンクロスのモノマネをして、

女の子たちの爆笑をさらっていた。


後ろで、

葡萄は、楽器隊をやった。

案外とお道化のイケるタイプだった。



ポーラは、

「わあっ!!」と声を上げた。

天文台には併設された、小学校がある。

寮もある。


今は、噴火の爪痕により休校中だが、

再開の日を、心待ちにしてきた。


すでに入学しているアトラスとともに、

二年生になり通う日を思うと、

胸が高鳴った。


アトラスは今は、

年齢設定のグミを使っているが、

元に戻れば、

八歳の紫のチビ竜だ。


ポーラだってガワは、十四歳だが、

元にもどれば、

八歳の少女なのだった。


もう、

制服だって誂えてあった。


夏の終わりまでには、

復旧ができそうだった。


だから、

今回の旅が、南十字星の看板娘として、

集大成になる予感があった。


ミルダには、それでいいんだよ!と、

はっきり、きっぱり、

背中を押してもらった。


シオンは、

ぶちぶち文句を言っていたが、

ミル姉に説得されて、

しぶしぶ了承はしていた。

それもまだ、濃紫の瑠璃色の青年の頃だ。


スーパードクターの今は、

シオンはすっごく勉強家。


家も、

竜医院の私室も、

本が山積みだったから、

もう学費については、

惜しみなく出してくれるんじゃないかな?って思う。


そう思って、

アッ!!と思い返した。


もう、

娘じゃないんだった!!、と。


友人に関係が変わった以上、

彼に財布を開かせるのは、

間違っている気がしてきた。


南十字星だって、

彼の持ち物だ。

青ざめた。

ミル姉にきちんと相談しよう。


そして、

トレッキングコースの入口。時短のコース。

アトラスが代表で礼を言って、船をあとにした。

引率の大人と、チームⅠ〜Ⅲみんなで、

船が小さくなるまで手を降った。


とことこと、

みんなで蒸気の吹き出す山肌を歩いた。

どろどろとした、マグマがちらりと光ったりした。

みんなで、おお!!っとか、

わあ!!とか、声を上げた。



アトラスとポーラ、レンとエルザやサッカー乙女たちを見ていると、

葡萄は、

胸がチクチク、チクチクした。


赤い呪詛の少女は、

杏だが、彼女本体ではなかった。

独り歩きした呪詛だった。

彼女だけではなく、

世の女の復讐の物語が、

たまたま彼女の呪詛を拠り所にして、

形作られたのだろう、とのことだった。


シオンは、

その物語の中で、

敵役に選ばれてしまったのだと言う。


恩寵持ちには、

しばしば訪れる厄災なのだそうだ。


彼は怯えてはいたが、慣れてもいた。

アトラスも、またかというリアクションだった。


スーパードクターになってもおかまいなしとは、

誠に気の毒な話だった。



山肌を抜けると、

小さな森があり、そこそこに大きな滝に行きついた。


先程の雨で推量を増して、

ザアザア、ドオドオと流れる滝。

下をくぐるための桟橋も敷設されていた。



葡萄は、まるで吸い寄せられるように、

滝の下へふらふら、と向かっていった。

そして、有料の滝行ゾーンへと突入した!!


みんな、どよめいた!!


アトラスが腕まくりして、ポーラに上着を渡し、

参戦した!!

滝に打たれる二人の男。

一行は、大爆笑だった。


「いいぞー!!がんばれー!!」

チワとレンが、応援した。

みんなも続いて応援した。

サヤナは、ひえっと目を背けた。

ナギサは、クールに見ていた。

ポーラは、二人の並びがおかしくて笑った。

そして、やる気になってぽかぽかになっていた、

隣のエルザを、あわてて止めた。

ただでさえ、ゴタゴタが多いのに、

老巫女さんへの説明が大変になってしまう。


でも、

はっとして二人で写真を取ることにした。

そして、

シオンやミルダ、老巫女さんたち、

森の神殿や、金竜ビルたちへ、

連盟の魔法封書を飛ばしたのだった。

青い蝶と白竜。


元気にやってるよ!

言わなくても、

見れば、わかってもらえると思ったからだ。

アトラスのマネ。



すぐに、シオンから返信がきた。


 最高だ まるで兄弟 みたいだな

 俺からシリウスちちに 転送しておく


五七五の次に、

得意げに入れられていた、

七七のところ。


南十字星の店主からの手紙に、

看板娘ポーラは、涙が出るほど笑ってしまった。
























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