第8話 第二船団のカジノ


ほどなくして、

第二船団から、

謝罪とお礼の連絡が来たそうだ。

アトラスからの連絡だった。



翌朝。

俺は、夜明けを待たずに竜医院の私室に居た。


久しぶりに、

吸い始めてしまった紙煙草が、

ガラスの灰皿に、

山のように積まれていた。


結局ミルダが、

カートンを寄越したからだ。ふふ。


これを、

吸い尽くしたら、

また禁煙するだろう。

我慢強くもないが、

依存症になるタイプでもない。

ただの娯楽だ。



皇国新聞を読み、

豆茶缶をすする。


最新の医療情報に目を通す。

手技の動画を見る。


俺の部屋だ。

俺の自由。


歯を磨き、

シャワーを浴びた。





ときどき、

ギタールを弾き語りしたりもする。

何も決めずに、

適当にコードを弾くと、

思いも寄らない本音が、

口をついて、歌詞として出てきたりした。

天気や湿度や、

体調や時間で、

それらは変わった。


だから、

さらさらとメモをして、

また弾いて。


そうして、

音楽の原石のようなものを、

こつこつと貯めて行った。


ゲストルームの子どもたちと話したあとは、

キラキラとして、

溌剌として、

美しい語彙が、

飛び出てくる。

今朝のペンはよく走った。



帳尻合わせ。


とくに、

あえてミルダを通していない分は、

注意深くならなきゃいけない。

経験則。


そっちを任せられる人材が欲しいな。

シリウスからも、

通知が来た。


葡萄と杏は再開。

二人仲良く猶予モラトリアム期間。 

仲良く南十字星のゲストルームへとのことだ。

ははっ。

結構結構。

ありがとう、爺さんシリウス


まあ、

ただの親切じゃないよな。

結局のところ、

国の諜報予算が、

孫娘に渡る。

そういうことだ。

〈混じってる〉。



今のミルダの護衛は、

屈強なピエロのお兄さん二人組だ。

久しぶりだ。

マーケットの懸垂大会を主催していた、

たぬきさんのようなメガネの男性と、

スピカを思わせる細い青年。

今回は、院内のナースのテイで潜入するそうだ。

巫女の男バージョン案もあったが、

ナース。


俺の方を叩いて、

「巫女さん男はここにいるもんな!」

はっはっは、と笑った。


兄貴分の神父とか、

大型新人くんのところへの、

支払いやお礼なんかを、

頼めるのか?聞いてみると、


彼らの方で代筆すると言ってくれた。

助かる。

そのようにお願いした。


シリウスが毎月のようにくれる、

孫娘の婿への小遣い金があったから、

そこから、出してもらうことにした。


転生後は、

数字も読めるが、

外科手術に比べたら、

まあったく興味が持てなかった。





今日も雨で、

レクリエーションが中止になってしまったので、

第二船団から、

子どもたちに、中を案内してくれるとの連絡が来たそうだ。


今日のミルダは、

休暇だったから、

みんなで遊びに行ってくるそうだ。

ぎゅっとして、昼飯代わりのパンと豆茶缶を置いて、

彼女は出かけていった。

ポーラやエルザも同行する。

女だらけの船なんだ。きっと楽しいだろう。


カジノもあったかな??

ははーん。


シリウスのお膝元、

島の住民を、

カモる気でやってきたのかもしれないな。


まあ、

ミルダやアトラスは、

カモにされるようなタイプでもないだろう。

アトラスなんて、賭けに勝ち続けて、

ふつうじゃない利益を引っ張り続けている。


ポーラも強そうだが、

十四だから、出入りは出来ないか。







子どもたちが取られて、

ドーラが、

ヤキモチで怒るかもしれないな。



ピエロの二人に、

うまくやるようにお願いした。

二人はにっこり笑った。





そうして。


俺の部屋は、

研修医という名の、

闇の竜の美女だらけになった。


露出が凄い。

水着超えて、

裸みたいなやつがちらほら混じってる。


ど、

ど、

どんなセンスだ!!

ミルダとは、帳尻の合わせ方が全然違った。


俺はこういうのは、

好かーーーん!!

半泣きだ。

頭が痛い。

視界がくるくるした。

ミルダがいかに優秀かを痛感する。

俺のことを知り尽くしているのだ。



俺は、

人を呼ぶのは好きじゃないんだよお。



しかし、

来てしまった以上は、

うーん。


文様巡りのド天才なりに、

やれるだけ、

がんばってみるしかない。


メッキを光らせ、

ラト毛の外套を羽織り、

呪い紙の紙束を掴んだ。

部屋を片付けて、パーティの装飾をした。



直感インスピレーション!!



そして、

美しい彼女たちの文様を読み取り、

宙空に描いてみせた。



そして外套は、

ぜーーーったいに脱がないように、

ガチガチに縫合の呪いをかけた。


汗だくになっても、

仕方ない!!


どーにかこーにか、

やり過ごす他なかった。


ここは、

早めに満足してもらって、

さっさとお引き取り願おう!!



きゃあきゃあと、

美女たちの歓声があがった。

服着ろーーー!!

葡萄や杏のように、

呪いの大きな魔法封緘で、

彼女たちに大判のショールを与えた。

暖かくはないが、見た目はかなりましになった。



ピエロども!!

あとで、説教だからな!!!

ミルダにも帳簿を見てもらおう。





いっぽう、

第二船団。


子どもたちは、上から眺める島の風景に夢中になっていた。

オリオリポンポス山をはじめ、

島のマーケットや、浜辺の神殿、

丘の邸宅や、森の皇国神殿。

島一番の神殿。南十字星。


小さく見えるそれらを、夢中になって眺めた。

行き交う竜車や、鳥や、封書を楽しげに指さした。

そんな彼らを、ポーラやエルザは眩しそうに眺めた。葡萄もだ。

彼は今日も、

例のリボンタイがくるくると巻かれた、

芝居のような服を着ていた。



そして。

カジノ場。

っしゃあー!!!

とんでもない嗅覚で、

ルーレットを無双するアトラスの姿。


持ち前の腕前で、

ポーカーを勝ちまくるミルダがいた。


二人は勝ちを確定し、早々に場を離れた。

第二船団の女たちは、

カモろうとしたがアテが、

はずれたんだろう。

明らかにイラついていた。


杏は、メイド服のまま、

にこにこそれを見ていた。

魔法封緘ではない。

本物の上質な服だった。


さっそく凩が買い与えたのだろう。

ふっくらとした温かい服に、

杏の顔色は、

以前のようなツルツル感はないものの、

ずっと自然で、健康的に見えたのだった。










































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