第7話 赤い呪詛使いの少女


罠だ!!


俺は、

すぐに輪郭線を消し、

外套に身を包み、素早く天井へと回避した。


しかし、遅かった。

間に合わない!!

少女の眼光は、鋭く輝いた。

呪詛の古いものと新しいものを自在に吹き込み、

こちらを撃ち抜いてきた。

ずどん。


俺の白衣は、鉤爪でずたずたになる。


その隙間に、

呪詛が吸い込まれるように入っていく。


全身の血が、

ぶわっと霧のように吹き出した。


苦しい!!

呪詛避けの、宝玉を施せばよかった!!


◆◆◆


見かけは、小柄な少女なんだ。

俺の、一番見たくない景色を見せる、

地獄の番犬ケルベロス女。


◆◆◆


数年に一度やってくる、

ストーカー女だ。


これがやってくるたびに、

いつもいつも、逃げ回っていた。

にやりと、鉤爪を引き抜かれ床にドタンと落ちた。


扉があいて、

アトラスと葡萄が、

血相変えて部屋に入ってきたが、

もう、間に合わない。


シオンおれはもう、

白い水たまりになって、

涙目で消えるところだった。

全ロスト。

金の歌姫マーリー人形を持つ、

手だけが残る。


さようなら。


ぽちゃん。


彼女には全く関係ない、

過去の経緯あれやこれやだが、

調べ上げ呪詛とともに引きずり出されたら、

もう、なすすべはなかった。

引き金トリガーは、

俺の罪悪感おきもち次第だからだ。



彼女は、

ケタケタと笑い、

赤い竜とともに窓から、飛び去り姿を消しかけた。



しかし。




この後、

予想外のことが起きた。


竜医院の見学に、

サプライズでやってきた、

ホームステイの子どもたちが、

ばーーーんと、

飛び込んできたのだ。


そして、

水たまりの中に、

金の歌姫マーリー人形を見つけた。


ポーラやエルザ、

サヤナが、

はっ!!として、

わんわん泣き、

乙女の涙が、水たまりに落ちた。


すると。

水たまりは再び立ち上がり、

するすると、

俺の姿に戻ったのだ!!



そして、

ナギサとチワが、

「待ちなさいよおーーー!!!」と、

赤い呪詛の少女を、

むんずと捕まえて、

どたん!!と、

床に押し付けた。


それから、

ぐるぐる巻きにした。


こんこんと、

レンが、

彼女に説教を始めた。

「カツ丼食うか?」


そうして椅子に座って、

朝にならったばかりの、

呪詛とはなんぞやを、語っていた。


チームエルフはぐるりと囲んで、

赤い竜を詰めた。 


たまげた。


ログイン勢のちび竜、

とても頑丈なボディなのだ。 

葡萄もアトラスも腕組みして、

その様子を眺めていた。

そして、軍人は一般人との戦闘はご法度だ。

老巫女さんも、森の神父たちも駆けつけた。


はあ。

俺は怯えるあまり、

よく見えてなかった。


なぜ、

彼女を第二船団の手先だと、

思いこんでいたんだろう?


やってる中身は、

闇の竜と変わらんのだ。

イモ畑の人さらい。

クローゼットの帳尻合わせ。


第二船団あっちの子は、

第二船団あっちで、

処分してもらったら良かったのだ…。





そして、

葡萄青年を伴い、

サンバトラー三兄弟の、

美しい竜車に連れられて、

呪詛使いの少女と、

その赤竜は、

上空に居る、第二船団へと引き渡されていった。





おそらく。

俺には、 

文様を損なう悪意が、

理解出来なさすぎて、ほとんど見えないのだろう。





怖かった。

手が震えた。


扉が空いて、

遅れてやってきたミルダに、

みっともなく泣きついた。

わんわん泣いた。



「せんせー!ダセえよお!!」

レンは、片手で顔を覆って、

きっぱりと言った。


みんなで、

どっ!!と、

笑った。



いつもならここで、

プライベートルームを借りるが、


今日は、

南十字星へ行くことにした。

手術の予定はなくなった。

ならば、

休暇オフだ。


みんなに会いたかった。

いつも、

君たちには、

助けられてばかりだ。

回廊の向こうのスーパーキッズたち。


俺は、

最強の男だけど、

仲間と力を合わせられる君たちには、


呪いも、

解呪も、


まったく、

敵わないのだ!!

キラキラした力だ。




葡萄に、

杏のことを尋ねて、呼び出したことを謝った。


葡萄は、

気まずそうだった。




凩と杏とで、


いい感じに、

なってしまったんだそうだ。

天性のオレサマ男。

天性のメイド。



なんだって!!??




そして、

三人まとめて、

ざっくりアトラス軍団に下ったそうだ。

そして、島に根付くという。


凩的に、

杏は、葡萄に貸し出してやってかまわない、

ということだった。

アトラスやシリウスサイドに、大きな貸しを作れるわけだ。

大人のお付き合い。


葡萄は、金銭的にも精神的にも、

プレッシャーから解放され、

杏は杏で、そんな状況が、

たまらなく幸せということだった。



杏林。

ちび白竜によると、

回廊の向こうでは、

患者に報酬代わりに杏の木を植えさせる、

無私無欲の、医者の功績を指すのだそうだ。



いかにも、

凩や、アトラスの好きそうなストーリー!!

あいつらは、利用できそうなやつが、

大好きだからな!!

島に残るということは、キリスの支配下。

ミルダの護衛ってわけだ。


つまり、

凩のピースをはめたことで、

きれいさっぱり、

元通り以上に収まったってコトだ。


もしかしたら、

幼き紅玉の欠片の分を、

杏が埋めたのかもしれなかった。


アトラスの横では、

ポーラがにっこり笑っていた。



文様の数だけ、矜持がある。

矜持の数だけ、幸せのかたちがある。




南十字星の店頭。

カウンターにある白竜の呼び鈴は、

ポーラレアスターの瞳を、

キラキラと輝かせていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る