第6話 外来患者と、第二船団の来訪
◇
竜医院のミルダの部屋。
白衣は、椅子にかけておいた。
俺は半分竜になって、
カーテンの裏の仮眠のベッドに転がりながら、
葡萄と杏の顛末を、
ミルダから聞いていた。
ミルダの身体は、羽のように暖かかった。
杏は異動だそうだ。
葡萄は休職で、
俺は、えっと思った。
あいつは、
きっと勘違いしてるに、
違いないと思った。
だから、
反射的にがばっと立ち上がってしまった。
ミルダは目が点になった。
はっとして、
布団をかけてぎゅうむっとした。
「ごめん。」
そして、
今回はあえて、
昔のような、一筆箋を送ることにした。
そして、
彗星に変えて、
シウッと小窓から飛ばした。
大きな弧を描いて、封書は飛んでいった。
外には昼の月が、白く浮かんでいた。
これきり。
もう、口は挟むまいと思った。
居所なんて、本気を出せば探せるんだ。
金を積めばいい。
彼女は消されたわけでもないし、
諜報員は、シリウスだけじゃない。
第七船団所属なのだから、
あいつはあいつのツテが、
いくらでもあるだろう。
もう、二択なんだ。
▶何もせず、他の男に取られる。
▶きっちり、フラレる。
それだけ。
たぶんそう。
まあ、
他の女の子とそれとなーく遊びながら、
彼女の幻想をそれとなーく抱えるっていうのも、
あるはあるが。
俺は、シュミじゃないし、
おすすめしかねる。
最初期の文様を、
損ないかねないからだ。
文様巡りのド変態的な意味で、
まーったく支持できなかった。
【名の扉】そして文様の美しさ、
内側から激しく輝く玄関灯。
浮かび上がる汚れなく美しき文様たち。
あれを上回る瞬間なんて、
この世にないのだ。
だから、
金をかけて、
しっかりフラれてこい。
骨は拾ってやるぞ!
そして。
共に、
キリスの鍵束に刺さる、
ドラゴンゾンビになろうではないか。
はははははー。
親切じゃない。
俺はたぶん、シリウスより酷い。
君は、むしろアトラスに似てる。
俺は彗星。
アトラスは紫陽花。
君は葡萄棚だ。
消えゆく運命ではない、
どこかのタイミングで力強く大地に根ざすはずだ。
だったら、
末永くキリスのそばにいて欲しかった。
素晴らしい従者だからだ。
そう思って、
無意識に紙煙草をくわえ、火をつけて吸った。
「院内禁煙っ!!」
むっとしたミルダに叱られて、
どっきーーーん!!っとした。
すぐに火を消した。
ホンの少し。
凩から、くすねた分があったのだ。
半目になるミルダに、
えへへ、と、
笑って誤魔化した。
が、
手のひらが、
ずいっと迫ってきた。
…。
はい。
俺は、
ポケットの紙煙草の箱を彼女に渡した。
だがなあ。
「あんなに、
差し入れがあったんだから、
一つくらい良くないか??」
カマをかけてみた。
凩の差し入れは、
サロッポビール、茶葉があったんだ。
紙煙草があったって、
不思議じゃない。
…。
ミルダは、
びくっとして、
「みんなの分よ!!」
とだけ、
言った。
ほらなー。
◇
そうして、
俺はオペ室へと戻った。
患者の資料に目を通さなきゃならなかった。
葡萄への、
魔法封書の内容はこうだ。
◆◆◆
「急げバカ 男はお前 だけじゃない」
◆◆◆
このときの俺は、
はっきり言って、
葡萄のことを見くびっていた。
あいつは、
アトラス軍団なのだ。
俺の予想の斜め上をゆく結論が、
このあと待っていた。
俺は、
まだまだまーーーだ、
世間知らずのボケナス小僧なのだ。
◇
そして、
竜医院の俺の部屋。
外来患者の資料を見て、
ドキッとした。
こんな情報、前に載ってたか?
皇国軍第二船団所属。
たぶん載ってなかったと思う。
女傑揃いの赤い船団。
プライベートでは一切か関わらないようしている。
そんな船だからだ。
まあ、
新米竜医師が、
選り好みできるわけではないしな。
仕方ないよな。
うーん。
なぜ、
カーアイ島に来たのだ?
ここを寄港地にするなんて、
ううん。
◆
考えすぎだとは、思う。
まさか、
俺を追って、
船団ごとやって来たりはしないよな??
うーん。
怖くなったので、
俺は、アトラスにも封書を飛ばした。
葡萄にも二通目を送った。
老巫女さんにも飛ばした。
森の神殿にもだ。
抽斗の、
呪い紙の紙束を出し、
ラト毛の裏地つき、
特製白衣を縫った。
メッキの呪いをかけたうえで、
金のコンタクトレンズもかけた。
すごーーーく悩んで、
天文台のシリウスにすら飛ばした。
柄にもなく、
世間話を装って、
クッキーや茶葉、煙草といっしょに、
第二船団の来訪を書き記したのだ。
何故か?
俺は、
アトラスと同様に、
【竜撃全無効化】持ちだが、
それと引き換えのように、
【乙女を傷つけたら即死】の、
特異体質持ちだからだ。
だから、
そこを悪用するような輩とは、
関わりを持たないと俺たちは決めていた。
人間の女の軍人。
それは、
一番怖い相手なのだ。
彼女たちの竜と関わるということは、
その契約者との会話は避けて通れないだろう。
輪郭線を、
呪いで消してしまいたかった。
しかし、
仕事だ。
腹をくくるしかない。
いざとなったら、
サンバトラー三兄弟と交代したらいいだろう。
◇
患者は、
細身で綺麗な赤い竜だった。
とても軍所属には見えない。
白竜と同じ病の二十歳だった。
◇
そして、時間になった。
かちゃり、と扉が開いて、
赤い竜と、
その契約者である、
小柄な女性が、
入ってきたのだった。
◇
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