第5話 ドーラと浜辺の神殿

竜車はこの後、

マーケットを出たあと、

少し時間をかけて移動した。


これから隣町の、

浜辺の神殿へ行くんだって。

エルザは、

すっごくニコニコしてた!

えへへ。


さっきの、

集合写真がみんなに配られて、

俺は、すごく上機嫌だった。


だって、

俺のプレゼントした帽子を被っているんだもの!

公認って感じじゃん?

ふふ。

隣りにいる窓辺の彼女の横顔を、

まじまじと眺めた。

俺、すっごく幸せだった。

少し空いた窓からの潮風が、

エルザの青い髪をなびかせるんだ。


背景には、キラキラ光る海岸線。

思わずぎゅうって抱きしめたかったけど、

そんなわけにもいかない。

バスだもん。ここは。

はーあ、

早く大人になりたいな。

ドライブデートとかしてみたいぜっ!



ポーラも、テンションが上っていた。

餅まきをしたり、

みんなでダンスをしたり、

エルザにとっては、

凄く馴染みのある場所なんだ。


「島一番のおしゃれスポット、だよね!」


ポーラがアトラスに話を振ると、

そうだな、と、

浜辺を眺めて、

ぽやあーっとしていた。


あとらすせんせいによる、

シオン先生のモノマネは、

声質こそぜんぜん違うんだけど、結構うまかった。

動きとか、声の出し方とか、

絶妙なんだよな。

サッカーもうまくて、

こうやって見てると、超かっこいい。

シオン先生が居ないと、

存在感マシマシだった。


なんか、うん。

苦労してんだろうなあ、って思った。




浜辺の神殿の女王様、

闇の竜のドーラは、

とにかく、子どもが大好きなんだそうだ。

そして、人型にも竜型にも自在になるらしい。


どっちの姿でも、

歓迎はしてくれるらしいんだけど、

みんな、ちび竜の格好をしていくことにした。


なぜなら、

ここの神殿の文様は、

暗黒竜と月下美人。

しかもそれは、

ドーラの旦那さんの作品なんだって!

ひゅう。ロマンチック!


だから、

竜でコーディネートしていったほうが、

よりオシャレ!!アトラスとポーラは、そう主張したのだ。


エルザも、ふふっ。と頷いた。

同意ということだろう。


そんなわけで、

ホームステイ組はみーんな、

胸に手を当てて、

ぽわわーんと、ちび竜の姿になった。

バスの中は、カラフルだ。

みんなでテンション高く笑った。



浜辺の神殿は、本当にキレイだった。

石造りで、天井は高く、

文様はきらきらと輝いていた。



アトラスは、

中に入らなかった。

バスで待つと言った。



そして、

闇の竜のドーラと、

そのお付きの二人が、しゃなりしゃなりとやってきた。


竜の姿だった。

わあ。

堂々とした立ち振舞い。

長い睫毛。

悠久の時を思わせるように、

奥深くしっとりとつややかに光るドレス。

目を凝らすと、

花だろうか?細かな装飾が見て取れた。

宝玉のネックレスは、

ひとつひとつの石が、

深い闇をたたえていた。

圧倒される美しさだった。


そして、

彼女は俺たちを見て、

ぱあああーっと花開くように笑った。


それはそれは、

神殿で温かい歓迎を受けた。


ホントは前回も、

ここに通される予定だったんだそうだ。


けれども、ミル姉さんが倒れたり、

シオンさんが連れて行ったりで、

バタバタしたから、

サンバトラー三兄弟に引き継いで、

竜医院のツアーに変更したんだって。


ポーラとエルザが非礼を詫びて、

贈り物をした。

アトラスは出てこなかったが、

代わりに魔法封緘がぱあっと開いた。

金色の竜の魔法封緘だった。


それは、贈り物の一覧表だった。

そして、

バス型竜車の中には、たっぷりのお土産があった。

さっき、凩がくれた、

たくさんのサロッポビールや、緑茶葉の箱、

ほかにもいろいろ。

アトラスはいつの間にか、正装に着替えていた。

髪もセットされてた。

そして、おずおずとそれらの贈り物を捧げた。

精悍な横顔。

凄い。大人の本気の顔だ。

息を呑んだ。

かっけー!!


そうか。

凩から仕入れた品物なんだな、これは。

大人のお付き合いってやつだ。



それから、

神殿の大広間に通された。

すると、なんとなんと!!


エルザはじめ、

老巫女さんたちが、

コーラスの準備をしていたんだ!!


何人かの闇の竜が、

それを意地悪く邪魔したり、

からかったりしたんだ。

セットを蹴散らしたり、ののしったり。

落書きしたり、

勝手に飾り付けだしたりした。


そして、

老巫女さんたちと、

悠久の時を経ても変わらない、

ドーラの美しさを、

大声で比較したりした。



すると。

ドーラは、

かんっかんに怒って、

闇の竜たちを部屋から追い出してしまった。

ゴンゾーさんも、

きずだらけの顔に似合わず、

席から立ち上がって、

みんなにぺこぺこと謝ってくれた。


それで、

みんなに、

たくさんのお茶菓子を振る舞ってくれた。

おみやげの、

かわいらしい瓶もくれた。

中にはカラフルな宝玉がビーズ状になって、

詰められてた。

小さな魔法封緘は、月下美人だった。

女子は、きゃあっと喜んだ。







そして、

俺たちの前で、

エルザたちは。



それはそれは、

美しい歌声を、

披露してくれたんだ。



エルザが、

美しい声で歌うたびに、

巨大な青い蝶がゆっくり、

右へ左へと移動するようだった。

ため息が出た。

目が離せなくなった。


一挙手一投足に無駄がなく、

美しい蝶は切れ味が鋭く、

それでいて、

たおやかで、

白い波のように

ザッパーーン!!

ザッパーーン!!と、場を浄化していくのだ。


歌と踊りなのに、

それは前髪が持っていかれるような、

衝撃波なんだ。


俺たちの他にも、

闇の竜がたくさんいた。

何名かは、

ありがたい、

ありがたいと、手を合わせて涙を流した。


ああ。

俺の嫁は、なんて凄いんだ。


俺も手を合わせた。

思わずツーっと涙が出た。


歌そのものにも感動したし、

こんなにたくさんの人たちの心を、

震わせてる事実にも、

すごくすごく、感動したよ。

ドーラも、立ち上がって惜しみない拍手を送った。


そしてドーラの隣には、

顎の割れたイカツイ闇の竜がいた。


え、

暗黒竜の文様とぜんぜん似てないっ!!


俺がサヤナに言うと、

ぶーーーっと吹き出した。


「そっちのわけないでしょ!!

なんで職人さんが自分のことを文様にするのよ!

きっと、あの女王様のことよ!!」


耳打ちされて、

あはは!★っと笑った。

あれ?

聞こえてたのかな。


ドーラもそれを聞いて、 

ふるふる震えていた、気がした。

心なしか、湯気が立ってるように見えた。











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