本当の冒険者

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高校卒業後、僕は県外にある大学に進学した。考古学を専攻出来る学科があったからだが、そこでやりたい事はもうひとつあった。

それは環境について学ぶ事。

果てしなく広い宇宙でたったひとつしか無いこの星について、古代の事もだけど未来の事ももっと考え、知りたかったからだ。

幸い教授にも同じ志を持つ仲間にも恵まれて、文化祭での企画も沢山の注目を集められ、僕が発起して開設したクラブも活気的に活動していた。

宇宙と地球をテーマにした論文で小さな賞をもらい、僕がつけた恥ずかしい名前のクラブ「グランド・スカイ」は、新入生も含めて入部希望が殺到した。



タケシは高校卒業して家業の車屋さんを継ぐために専門学校に通ったが、夢を諦めきれず上京してアルバイトしながら養成所に通い、少しずつテレビに映るようになっていった。

初めて出た作品を是非見て欲しいと言われ、興味の無いドラマを録画した。が、彼はどこかのシーンでチラッと映っただけなので電話でどこに出てるのか聞かなければ分からなかった。


ケンジのリハビリは長くかかったが、持ち前の頑張りで歩く分には何も不自由ない程回復した。デスクワークの出来る仕事に就いて奮闘する傍ら、近所のサッカーチームにボランティアで教えるコーチになった。

彼の指導はボールを扱うテクニックももちろんだが、大切な事を教え伝えた。

それは夢を持つこと。諦めないこと。

それから、小学校で交通安全の指導にも力を注いだ。



僕らはそれぞれ別々の場所で、自分にとっての冒険を続けた。未知のものに出会い、新しい発見もあり、目的を果たせた成功の喜びも味わった。


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―――――――――――――――――――――


あれからずいぶん時が経ったけど、僕らはずっと忘れずに、そして諦めていないものがあった。


そして今、僕らはその洞窟の前に立っている。



          


「ここに来るまでにだいぶ時間がかかったよ」

私は笑いジワの出る顔で2人を見る。


「でもいつか必ずこの時が来るって、思ってた。いや、信じてた、って言うのかな」

今やテレビでよく見る俳優になったタケシが、少年時代の面影の残る、テレビでは見せない顔で微笑んだ。


「まあ時間が経ってもここの中身はそう変わらんだろ。なんせ、今日まで封鎖されてたんだから」

昨年、地元中学のサッカー部を全国優勝にまでのし上げた名監督のケンジが、相変わらず気楽で前向きな言葉を発する。


40年の時は、私たちの見た目も環境も変えてしまったが、奥底に眠る少年の心までは奪えなかったようだ。

あとは、その年月がこの中をどう変えているのか、または変わっていないのか。

少なくとも悠久の時をその姿のまま越えてきたあの壁画だけは、変わらずそこにあることだろう。


私は今日までいくつもの学びと知識を得た。数々の論文や仮説は賞賛を得て、研究の結果それが事実とされるものもあった。だがそれらの努力は全て、この日のためだ。今はこの洞窟を探索する事を止める人も、否定する人もいない。むしろたくさんの人の期待を背負ってさえいる。

こっそりと3人で来たいところだったが、著名な俳優の探検をテレビの材料にしたいらしく、カメラクルーも待機している。これは仕方ない。

ただ私からの条件として、今ある洞窟の状態を決して侵さないこと。それから何も見つからなかったとしても真実を放送する事を約束させた。


「ケンジ、足の具合はどうだ」

「心配ない。医療の進歩ってやつだ。まあ大事に歩くさ」

「タケシ、あれを出してくれないか」

「ああ。OK」

タケシは嬉しそうにニンマリして、何十年も大事に持っていてくれた地図を出した。




人生はその先に何があるか分からない。

思ったようにいかない事も、思いがけない事も起きるだろう。


だから冒険はやめられない。

期待通りでも、そうでなくてもいい。

まだ見ぬ場所があるからこそ、私たちは生きるのだ。

結果は行ってからのお楽しみだ。



「さあ。それじゃあ行こうか」

僕らはそれぞれライトを手に、待ちに待った冒険の道のりを歩き始めた。






                   完


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冒険少年 北前 憂 @yu-the-eye

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