第13話
車が停まり、繁華街の高級ホテルに到着した。
「ここで女の子達が待ってるわよ。よろしくね?」
部屋に案内されると、年端も行かない少女三人が怯えて固まっている。ファリダはその様子を見ると舌打ちし、持っていたバッグを少女達に投げつけた。
「お客様の前では愛想よくしろっつってんだろうが! さっさと始めな!」
ファリダは怯え切り泣く少女達を無視し、ジェミヤン達に向き直る。
「さ、この中で好きな子をお選びくださいな。……勿論私でもよくってよぉ?」
イリヤは一番小柄な少女を選び、部屋にこもる。すぐに少女が上げる悲鳴が聞こえてきて、見なくても中で行われている凶行がわかってしまった。少女の声はくぐもり聞こえにくくなったが、凶行は続行している。
「あなた方はどうなさるの?」
ファリダがジェミヤンとシャッテンに向き直り、早く選べと催促すると、突然シャッテンはソファに寝ころび、かぶっていた帽子で顔を覆い、寝てしまった。
「ちょ、あなたどういうつもり?」
「俺は女房以外の女に興味はない。ましてや子供になんて勃ちゃしねぇ。あの子供らに金が必要なら払ってやるから諦めろ」
少しは気骨のある男の様だな、と内心見直すジェミヤン。ファリダは面倒になったのか、シャッテンではなくターリブに選ばせ、最後の少女をジェミヤンに押し付けて不貞腐れた。
個室に入り、鍵を閉めるジェミヤン。少女は怯え切っており、小刻みに震えている。ファリダがオーストリア国籍を取得しているとの情報だったので、少女にドイツ語で話しかけてみようと思った。
「座りなさい、おじさんは君に何もしないよ」
「え……」
ジェミヤンは冷蔵庫に入っていた水を取り出し飲み始める。未開封のもう一本を少女に渡すと、恐る恐る受け取ってくれた。
「ふむ、ドイツ語は分かる様だね。でも君の顔立ちはゲルマン系ではない。君の出身地を教えてくれないか?」
少女はエヴィティミヤ・チェルネヴァと名乗った。名前から察するにブルガリアの出身だろう。エヴィティミヤの両親は不仲で、彼女が小学校に上がる前、父親が愛人と借金を作り蒸発。母親は娘を養うために、バラ農園で働いていた。幸いにもそこは良い職場だった様で、エヴィティミヤもよくその農園に行き、母親の同僚に可愛がられていたという。
「でもあの女が、お母さんの所に取り立てに来たの」
あの女とは、勿論ファリダの事だ。確かに美人だが、どこか噓のある美。即ち顔や体を整形していると思われる。それが普通の男にはわからないのだろう、すぐにファリダの虜になり、彼女の思い通りに動こうとする。それがジェミヤンには理解できなかった。
「君のお父さんが作った借金はいくらぐらいなのかな?」
「わからない……でも絶対本当の金額より多く言ってると思う。お母さんはバラ園での仕事の後、夜はあの女の所で働いてたけど、病気になって死んじゃったの」
ジェミヤンの隣に腰かけ、涙ぐみながら話す十六歳のエヴィティミヤからは、バラのいい香りが漂ってくる。
「まずいな、相手は子供だぞ……手を出すのは私の矜持に反する」
不意に感じた女性的で魅力的、それでいて清楚な香りに、ジェミヤンも男性として反応し始めたが、それよりも確認しなければならない事がある。
「エヴィティミヤ、君が知ってる範囲で構わないから、おじさんに教えてもらいたい事があるんだ。ファリダは何故、ターリブを言いなりにできてるのかな? ムスリムのターリブが女性の指示に従うのは、絶対に何か理由がある筈なんだ」
どうやらエヴィティミヤはそこ迄はわからない様で、明確な答えは得られなかった。当然である、彼らが「商品」である少女達にそんな重要な情報を漏らす訳がない。
「そうか、色々ありがとう。君もこんな所に連れてこられて疲れただろう? もう寝てしまいなさい。おじさんは適当に過ごして出ていくよ。後でファリダに何か訊かれたら、嘘泣きでもして、おじさんからひどい事をされた、とでも言っておけばいいから」
エヴィティミヤの頭に手を置き優しく諭すと、彼女はその頭をジェミヤンの肩に乗せて抱きついてきた。
「……おじさんは他の人みたいにひどい事しないんだね。おじさんってもしかして警察の人なの?」
彼女がこのファリダ達からどういう扱いをされているのか、よくわかる。助けてやりたい気持ちがない訳ではないが、任務から外れてしまう……理性ではそうわかっているが、漂ってくるバラの香りがジェミヤンの庇護欲を搔き立てる。
「……いい香りだね」
「あ、これはお母さんがバラ園で作ってた練り香水なの。私もずっと作り方を見ていたから、今は自分で作ってるわ。おじさんにも一つあげるね、おじさん優しくていい人だから……あの女を逮捕してくれる?」
子供からこんな事を言われるとは思ってもいなかった。エヴィティミヤから渡された練り香水を受け取り、黙って彼女の肩を抱く。
「ごめんね、おじさんは君が期待する様ないい人じゃないんだよ。確かに君にひどい事はしない。おじさんは普通の女性が傷つく事は嫌いだからね。でもファリダの様な悪い女はいずれ殺すよ、おじさんの仕事はそういう仕事だから。さぁ、もうおやすみ」
エヴィティミヤを寝かせ部屋を出ると、ファリダが近寄ってきてエヴィティミヤの評価を訊いてきた。
「ねぇ、あなたまだまだ余裕そうね。じゃぁ次は私の相手してくれない?」
ジェミヤンは誘ってきたファリダに、エヴィティミヤにぶつけられなかった性欲を、足腰立てなくなる迄全てぶつけ続けた。
「アベルチェフ君、君なかなか絶倫じゃないか。あのファリダを気絶させる程だとはね。セリョージャにも負けてないぞ? フフッ」
ずっとアリビツカヤに聞かれていたのは知っているが、改めて言われると気恥ずかしくなる。少し呆れていると、建物の裏手から、人が争う声が聞こえてきた。
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