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特に話題も思い浮かばず、黙々と食べ進めていると大和さんから話しかけてくれた。


「昨日は遅くなったけど大丈夫だった?」

「はい、送ってくれてありがとうございました」


大和さんのお祖父さんから定期的な交流デートを課せられている私達は日曜日きのう映画を観に行った。

婚約者として紹介されてから何度もデートをしているけど、映画の選択は私のお気に入りだった。

映画フリークというわけではなく、話題作や気になったものを観るだけなんだけど……。映画中は喋らなくていいし、食事の時は感想を話してればいいから。


最初は隣に座るのもドキドキしたけど、今みたいに向かい合って見つめられるよりは気が楽だ。


「そういえば、来月は文化祭の準備があるので大和さんは忙しいですよね?」


3年生の役員にとって最後の大仕事となるのが文化祭らしく、とても盛大なものになると聞いた。うちのクラスは和風のカフェをやると決まっていて、少しずつ準備を進めているところだ。


「そうだね、遊びに行くのは難しいかも」

「事情が事情ですし、来月のデートは無しで良いと思います」

「うーん、出掛けるのは無理でも家でなら会えないかな。悠花ちゃんが受験の時もそうしたでしょう? 良かったら夕飯を食べに来ない?」

「大和さんのお家ですか……」


私が受験を控えていた時はうちに大和さんが来てくれていたので、訪問するとなると話が変わってくる。

お家に雇ったシェフがいるようなところよ?

シェフの料理は美味しいけど、メイドさんが側に控えてお世話してくれたり、自信のないテーブルマナーが上手くやれているのか気になったりと落ち着かない食事になることは分かりきっている。休日とはいえお忙しいご両親は在宅しているか分からないけれど、一緒になんてことになったら緊張で何をやらかすか……。

想像するだけで震え上がりそう。


手土産の用意だって悩んじゃう。大好きなチェーン店のドーナツってわけにもいかないから。お母さん達に相談して買いに行かなくちゃ。


「身構えなくて大丈夫、悠花ちゃんにはリラックスして食べてもらいたいし。そうだ、炎河も同席させよう」

「炎河を?」

「ちょっとは気が楽になるんじゃない?」


炎河は大和さんの従兄弟で、私とも親戚関係にある。

大和さんと私が出逢った誕生日パーティーに彼も来ていて初めて顔を合わせた。

その時は特に話などはしていないけど、高校ではクラスが一緒ということもあり、場違いな学校に来ちゃって馴染めない私の側に居てくれている。

炎河は同じ敷地内の離れに住んでいるから、私よりも大和さんの家に普段から馴染みがある。


「まあ、そうですね……」


彼なら嫌がらずに同席してくれると思う。

失敗してもしょうがないなと笑ってくれるだろうし、味方がいると思えば心強いかな?

私の緊張が少し和らいだことに気づいたのだろう、


「じゃあ、決まりね」

「……あ、はい」


にっこりと微笑まれて、結局断れなかった。

うちと格差があって慣れないけど、いずれ入籍したら住むことになる場所だ。いまのうちから耐性をつけておく必要があるのかも。

つくかな?迷子になりそうなくらい広いあのお屋敷に……。


「……」


コロッケを箸で割る。クリームが溢れ出すそれを、口に運びやすい大きさにカットしながら考える。


私は本当にこの人と結婚するの?


これまで何度も自問したことだ。

NOとは言えない状況だけど、私よりも大和さんのほうが損することが多いだろう。


お祖父さんの言いつけを守っているだけで、彼の心の中が見えない。


誰に対しても分け隔てなく、品行方正と言われるけど、あまりに現実味のない存在に私は薄気味悪さを感じている。

みんなが素敵だという微笑も貼り付けるただけみたいな……。

人に話せば笑い飛ばされるだけの、妄想が激しいだけだろうけど。でも、なんか、そう思っちゃう。


出逢ってから約5年間の月日が流れているのに、ちっとも打ち解けた気がしないのは何故なんだろう。


「あっ」


先に食べ終わったらしい炎河達がこちらを見た。先に教室に戻るつもりらしく、出口を指差すジェスチャーがあった。

OKという意味で頷くけど、本当は「待って!置いてかないで!」って泣きつきたい。

そんな情けない事は出来ないのだけど……。





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年上のハイスペ男子と婚約中ですが、そんなに上手い話があるとは思えません。 音央とお @if0202

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