第4話 だいたい大団円


「すまないね、桃太郎」


 婆さんが玉子を飯捕らえた事を申し訳なさそうに言ってくるが、俺としては別に自分で斬り捨てるのも白州の場で裁きを受けてから磔にされるのもどっちでもよいので気にしない。結果は同じ“死”だしね。

 その間にもそれぞれの戦況も決着しつつあり、あと残っているのは大将の当主ぐらい。玉子が外からの狙撃で沈黙させられたことをみていた当主は外から狙われない位置取りに移動しながら粘っていたが、それでも俺と切り結ぶ中で大小の傷を負っており、腕前はわずかに俺の方が上だった。

 退路は塞がれ、ここから鬼ヶ島の当主が助かるには俺含めて全員を1人で斬り倒して逃げるしかない。でっきるっかな、でっきるっかな~?まぁ慢心も容赦もしないので一切気は緩めないけど。


「よう、年貢の納め時だぜ」


「ザッケンナコラーッ!!」


 長髪の言葉に大ぶりな一撃で斬りつけてくるのはやぶれかぶれか一か八か、早く重い一撃は当たれば即死だろう。しかしそんな当主の攻撃を、外套を被るようにして身を隠して視界を妨げつつ回避する。


「桃の吐息・参の型!“皮被り”!!」


「くそっ、ちょこざいな!!」


 舌打ちとともに悪態をつく当主を無視し、カウンター気味に空振りした斬撃の隙に懐に飛び込みつつ下段からの攻撃を繰り出す。


「何?!」


「―――桃の吐息・壱の型!“橋の下の古春画(エロス)”」


 起き上がりつつ下から当主を斬りつければ、ブバッと当主の胴に鮮血が走った。しっかりとした手ごたえがあった、これは獲ったな!!そして俺は獲物を前に舌なめずりなんてしないので攻める手はゆるめず、斬りつけた傷口を思い切り蹴りつける。


「じぇああああああ!?!!でめえなんでごぢょじゅるんじゃあああ」


 斬られたうえに蹴りをくらった衝撃を受けた腹が開き、中から臓物がボロンッと零れ出る。桃色がまろびでてモロ出しだぜぇ~!!


「鬼ヶ島の当主!その首貰った!!」


 振るう刀で首を刎ねると当主の首がぽーんと飛び、地面を転がった。

 好き放題した報いだ、馬鹿がよ。悪い事したら罰が当たるようになってるんだ、あの世で詫び続けてきな!

 もう他に動いている鬼ヶ島の手勢はいないようで、雉助も、猿吉も肩で息をしており犬士郎も巨漢を倒しはしたが相当にダメージをおっている。爺さんと婆さんの方が元気なんですがそれは。


「これしきでだらしがない……平和な世とはいえ鍛錬が足らんようだな。村に帰ったら、これからは儂がみっちり鍛えなおしてやるとしよう」


 わぁい、御爺貴の頼もしいお言葉。……泣けるぜ!!


 それから、犬士郎が「正直おしゃべり」のツボをつき、問われたことに嘘をつけなくなった状態の玉子を簀巻きにしてから都の裁きの場に突き出した。

 裁きの場で玉子は嘘やごまかしをいう事が出来ず、正直に下劣で利己的で自己中心的な最低な言動をペラペラと喋りつづけ、あまりの酷さに聞くに堪えず、もうしゃべるなとまで言われる始末だった。

 きっと自分に都合の良い嘘をついてごまかしたり救いをえようとしたのだろうけれどそれが出来ない事で号泣しながらも正直にしゃべり続けるという奇妙な光景で印象的だったよ。最後はなりふり構わず必死に命乞いをしていたけれど、愛した女への愛情よりも村を滅ぼした悪女への忌避感の方が強かったので、処刑に際してもこいつはしんでも仕方ない奴だから……と言う程度の感慨しか湧かなかった。

 結果、玉子は拷問の上死罪となり、7日7晩に及ぶ責め苦を受けズタボロにされた上で、衆目の見守る中で磔の刑となって後悔と絶望のなかで惨死した。

 一応、幼馴染で婚約者でもあったわけだから最期を見届けたけれどもそれがお前の望んだ結末か、とため息が出たよ。


 そして豪族でもあった鬼ヶ島の莫大な資材や土地は村の復興のために使う様にとされ、村は襲撃前よりも整備されてほんの少しだけ豊かになった。

 だからといって失われた命は戻ってこないけれど、それでも生き残った人間達で、この場所で毎日頑張って生きていこうと思う。

 鬼ヶ島の襲撃のお陰で村人皆に自衛の意識が強くなり、今では爺さんや婆さんたちに地獄のシゴキ……もとい指導を受けている。

 あとは風の噂に聞いたところによると、鬼ヶ島の暴挙とそれを成敗した俺達の話は都で口伝から伝聞となり面白おかしく脚色されて、“鬼退治の桃太郎”なんて伝わっているようだけれど、それは俺達には関係のない事なのでそっとしておく。噂の桃太郎一派の村、なんて村に観光に来る人もいれば移住希望者が来ることもあるので、放置しておいても利点の方が大きいしね。色々と変わる事もあったけれど、俺の人生は今日も続いている。


 ――――なんてことを海を見ながらぼーっとしていた俺を呼びに来ていたのか、隣には犬士郎が立っていた。


「明日はもっといいことあるよね、犬士郎♪」


「……へけっ」


 いつも無表情だけどノリはいい犬士郎がノリよくい返してきた。……うむ、幼馴染の婚約者がいなくなったけど愉快な友達悪友がいるから全然問題ないもんね!!!とりあえず、嫁さん探しでも頑張ろうと思うんだ。週末は皆でパ~ッと街にでかけて女の子との出会い探しちゃうんだからね!!!

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俺を裏切った婚約者が村を焼き討ちしにきたので落とし前つけさせることにした サドガワイツキ @sadogawa_ituki

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