第14話 王様からの信用が無駄に厚い。
先に目覚めたミノルは、夜の森の奥へと進んでいた。限界の体を引きずりながら、どこへ向かっているのかも分からなかったが、ただひたすらに前へ進んだ。
「クソがっ……」
その目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。因縁の相手と真正面から闘って、そして負けた。頼る人も帰る場所もない見ず知らずの世界で、彼の心の中には絶望だけが渦を巻いていた。
「がっ……」
暗い森で木の根に足を取られその場に倒れ込むと、力を入れるが起き上がる事すら出来ない。そこへ追い打ちをかけるようにゴブリンの大群がミノルの周囲を取り囲んだ。
「グギィイイ……」
ゴブリン達の唸り声がその場に響くと、ミノルは死を覚悟する。
「クソがっ。何がてっぺんだ。最後はこんな雑魚に喰われて終わりかよ……」
ゴブリン達は一斉に飛びかかってきた。それを見たミノルはゆっくりと目を瞑る――だが、いつになっても体に異変がない事を不思議に思い、目を開けると辺りは血の海と化していた。
「これは……どういう事だ」
するとどこからか女の声が聞こえる。
「こんなところで、思いもよらぬ拾い物をした」
「てめぇは誰だ……殺すぞ」
「その状態でそれだけの口がきければ上等だ。助けてやろうか?」
「俺は誰の施しも受けねぇんだよ。帰りやがれ」
「益々気に入った。お前はもう私のものだ」
「ふざけんじゃねぇ。早く消えねぇとぶっ殺すぞ!」
その女が人差し指でミノルの額に触れると、すぐさま気を失い大人しくなる。
女は笑みを溢しミノルを連れて闇に消えた。
ミノルと同様、満身創痍のシルバはなんとかギルドまで自力で戻る事が出来た。その姿を見たスイがすぐに駆け寄って来る。
「にぃに、にぃにー……」
よほど心細かったのか、スイは眠りにつくまでシルバの傍から離れようとせず泣き続けた。
「痛っ!」
「我慢しなさい。こんなになるまで……何やってるのよ」
スイが眠った後、傷の手当てをしてくれたロゼッタの目は少し潤んでいた。
「心配かけてごめん。でも後悔はしてないよ」
「あなたも、男の子なのね……」
「なんだと思ってたのさ」
「なんとも思ってないわよ、無関心」
「それが一番傷付くんだけど……」
「でも……見直したわ。今日のあなたは格好よかった」
「惚れちゃった?」
「そんな訳ないでしょ。ばーか」
「ロゼッタにもお兄さん居るんでしょ? どんな人?」
「ちょっと過保護過ぎるくらいよ。あたしが受付をしているのも兄さんの言いつけだし」
「心配なんだよ。良いお兄さんじゃん」
「実際に会ったら、きっと意見を変えるわよ」
「でも嫌いじゃないんでしょ?」
「まぁね……今では唯一の家族だから」
「家族の大切さってさ、失って初めて気付くんだよね」
「そうね……あなたとスイが出会えて本当に良かったわね」
「ロゼッタ、もうちょっと優しく……」
「男の子なんでしょ? 我慢しなさい」
翌日、僕は大事をとり一日休みをとった。
「にぃに、どこ行くの?」
「トイレだよ。心配しなくても今日はどこにもいかないから」
「うん……」
この日からスイは不安そうに僕の動向を気にするようになった。その様子を見て、僕はもっともっと強くならなくちゃいけないと思った。
「シンさん、僕もう少し上のランクのクエストを受けたいです」
「良いんじゃねーか? 丁度、王から頼まれてたクエストがあったんだが、ウチは万年人手不足だから断ろうと思っていたが、受けてみるか?」
「王って、王様ですか?」
「他に何があんだよ。貞治か?」
「なんでウチみたいな弱小ギルドが王様から直接クエストを受けられるんですか?」
「そりゃお前、俺の人徳以外の何物でもねーよ」
「あんたに人徳があったら、世の中みんな聖人ですよ」
「じゃあ明日早速会いに行くか」
「そんな簡単に会えるんですか? 王様ですよ?」
「貞治よりもよっぽど簡単に会える」
「もう貞治のクダリいいですから……」
僕たちが馬車を降りると、そこは高くそびえ立つお城の真下だった。
「本物のお城って、すごい迫力だね……」
「広過ぎるのも考えものよ? 移動が大変だもの」
ロゼッタは隣国の王女なだけあって自身の体験談を語る。
「ロゼッタちゃんの実家もこんなに大きいの?」
「うーん、これと同じくらいかしら……昔の事だからあまりよく覚えていないの」
アリエルの問いに頬杖をつきながら答えるロゼッタ。
「おい何してんだ、早く来いお前ら」
シンさんの呼びかけで僕達は王城へと入った。
「ではこちらでお待ち下さい」
シンさんが話を通すと、とある一室まで案内された。
「シン、よく来てくれた。引き受けてくれて嬉しいよ」
そう言って部屋に入って来たのは、シルバ達が住むボナール王国の国王『アルフレッド・ボナール』であった。
「今回はコイツらに任せてみようと思ってな」
「何ぃ? 君が受けてくれるのではないのか?」
「俺は何かと忙しいんだよ」
その様子を見ていた僕は思わず口を挟んだ。
「シンさん! 王様にタメ口はマズいんじゃないんですか?」
「良いのだよ。シンとはもう長い付き合いだからね」
王様のこの言葉で、シンさんは一体何者なんだろうかと更に謎が深まってしまった。
「それで……今回の依頼ってのは?」
シンが王に尋ねる。
「あぁ…娘のルーシーが魔国領のオーロラを見たいと言って聞かないんだ」
「そうか……もうそんな時期か……」
「十年に一度、魔国領に住む魔族やモンスターの魔力が高まるこの時期には、それに起因して空に魔力のオーロラが見えるのだ。だがそこに近付くという事は、危険地帯に自ら足を踏み入れるということ。そこで信頼できる護衛を付けたいと思い、今回の依頼をした訳だよ」
「あの王女は小せえ頃から好奇心旺盛だからなぁ」
「まったく悩みの種だよ。年々気も強くなって若い頃のマリーにそっくりだ」
その時部屋の入り口から一人の声が聞こえた。
「お父様、全部聞こえていますよ」
「ル、ルーシー……!」
「この方々が私を護衛して下さる冒険者の方々ですか?」
「あぁ。そうだよ」
王女はロゼッタの姿を見ると嬉しそうに話しかける。
「ロゼッタ! あなたも一緒に来てくれるのね!」
どうやらルーシー王女とロゼッタは顔見知りらしい。
「久しぶりねルーシー。今日はあなたの顔を見に来ただけで、残念だけどあたしは一緒にはいけないわ……」
「なぜ?」
「街の外には出ないように兄さんに言われているの……」
「そんなのつまらないわ!」
「あたしも出来るならみんなと一緒に行きたい……」
このロゼッタの発言を受けたルーシー王女は、慣れた様子でシンに問いかける。
「シン! ロゼッタにもオーロラを見せてあげたいわ! ねぇいいでしょう?」
「あたしからもお願い! 今回だけ、兄さんには秘密にして……?」
「おいおい、参ったなこりゃ。これがクリフに知れたら怒り狂って、アイツ何しでかすか分かんねーぞ?」
そう言ったシンは困り顔をする。
「あたしだって……たまにはみんなと一緒に冒険したい……」
ロゼッタのその表情を見て、シンがとうとう折れる。
「はぁ〜、ったくしょうがねぇな。シルバ、アリエル、護衛対象が増えたがいけそうか?」
「はい! 任せてください!」
「みんなとおでかけ楽しみだねぇ〜!」
こうして僕達は魔国領の国境付近まで、馬車で一泊二日の冒険の旅へと出発する事になった。
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