第13話 転生初日は高確率でチンピラに絡まれる。


「おいお前、見ない顔だな」

「あぁ?」

異世界に転生したばかりのミノルは、お決まりの展開に直面していた。彼はシルバを探して歩き回り、森の中で道に迷っていたところだった。

「珍しい服装だな。お前転生者か?」

「うるせぇよ三下」

「口の聞き方がなってねぇな。俺はC級冒険者だぞ」

「Cって何番目だ?」

「はぁ? お前馬鹿なのか? 四番目だよ」

「じゃあ四下だな」

「少し痛い目みねぇと分かんねーようだな……」

苛立った男は持っていた大剣を振り降ろすと、ミノルはその剣に向かって拳を向け、その冒険者の身長程の大剣を砕き割った。

「なっ……お、お前、剣に素手をぶつけるなんて頭おかしいんじゃねぇのか……?」

「この程度でビビってるテメェが俺に喧嘩吹っかけてんじゃねぇよ殺すぞ」

そう言って冒険者を睨みつけるミノル。

「す、すみませんでしたぁあ……」


「さっきは本当にすみませんでしたミノルの兄貴。俺はこの街で冒険者やってる『ゴマ・スリーノ』って言います。あの……椅子になるのは構わないんですが、服だけは返してくれませんか……」

ミノルはゴマの着ていた服を剥ぎ取り下着姿で四つん這いにさせ、その上にふんぞり返っていた。

「お前、転生者のハジメって奴知らねーか?」

「え? 聞いた事ありませんね。名のある冒険者なら大体知ってる筈なんで大した奴じゃないんじゃないすか?」

「じゃあここら辺で転生者が多い族や組はねーのか?」

「ぞ、ぞく? くみ? 関係あるか分かりませんが、転生者が多く所属してるギルドならありますよ。人数は少ないんですが、そこの頭がまぁヤバい奴なんすよ。なんせ10年前魔王と互角にやりあったとかで……」

ミノルはニヤッと不気味な笑みを溢した。

「俺をそこに連れてけ」


「にぃに、薬草いっぱい採れて良かったね!」

「スイが沢山見つけてくれたおかげだよ。いつもありがとね」

シルバが頭を撫でると、スイは嬉しそうにはにかんだ。

「今日のご飯はなぁに?」

「そうだなぁ。思ったよりも薬草が採れたから、今日はいつもより豪華なもの食べよっか」

「スイにぃにの作ったお肉のすてーきがいい!」

「よーし、じゃあ帰ったら今夜はステーキだ」

「やったぁ!」


「ただいまー。ロゼッタ、これ今日の戦果だよ」

シルバはカウンターに薬草を置く。

「お帰りなさい。なんだかご機嫌ね?」

「今日の晩御飯はすてーきなんだよ?」

スイが嬉しそうに答える。

「へぇ、良かったわねスイ。今から買い出し?」

「うん。だからスイのこと頼むよ。今日シンさんはワシオさんと話があるみたいで居ないって言ってたから」

「そう言えばアリエルもまだ帰ってないのよね。じゃあスイ、二人でお留守番してよっか」

「はーい!」

シルバはスイをロゼッタに預けると、その足で買い出しへと向かった。


「おじさん! このお肉二枚下さい!」

シルバはその肉屋で一番高いステーキ肉を指差した。

「おぉシルバ、今日は随分といい肉を買っていくじゃねぇか。いつもは閉店前のタイムセールの小間切れしか買わねぇくせに」

「今日は贅沢する日なんです」

「何か良いことでもあったのか?」

「たまにはいいお肉を食べさせてあげないと大きくなれませんからね」

「一丁前な事言うようになったじゃねぇか。これはサービスだ、持ってきな」

肉屋のおじさんはその肉を一枚多く包んでくれた。

「良いんですか? ありがとうございます!」

「お互い様だよ。いつもありがとな」

意気揚々と帰路についたシルバだったが、ギルドには目を疑う光景が広がっていた。


受付には倒れて気を失っているマイケルと、マイケルに寄り添うロゼッタ。そして棚の影に隠れて怯えるスイの姿があった。そして何よりも驚いたのは、前世で同級生だった男の姿があった事だ。


ブルブルと震えながらゴマがミノルを抑えている。

「あ、兄貴、このギルドに手を出すのはマズイっすよ。ここのギルマスは本当に化け物なんですって……」

「うるせぇ。お前はもう用済みだ。失せろ……」

その言葉を聞いたゴマはその場から一目散に逃げ出した。


「なんで……」

「やっと見つけたぞ……ハジメぇ」

「なんでこの世界にお前がいるんだ!?」

「フンッ、理由なんて俺が知りてーよ。女神が言うには、お前は俺の代わりに死んだらしいぞ、ざまぁねぇな」

「この世界に来てまで僕に何の用だよ! それにギルドのみんなは関係ないだろう!」

「うるせぇんだよ。てめぇが俺から逃げられるなんて思うんじゃねぇぞ。どの世界にいようが必ず見つけ出す」

「ミノル! お前は何が目的なんだ!」

「お前と決着つけてーだけだよ」

「決着って、あれは小学校の時の喧嘩だろ! いつまでそんな昔のこと引きずってるんだよ!」

「あ゛ぁ゛!?」

その言葉を聞いたミノルは逆上した様子で殴りかかると、シルバはギルドの壁に激突した。

「やめてーー!」

スイが飛び出してミノルの足にしがみつく。

「離せガキっ!」

ミノルは手の甲でスイの頬をはたき振り払うと、スイは吹き飛ばされた。

「スイッ!!」

シルバはスイの元へ駆け寄り抱き抱える。

「ちっ、まだ力のコントロールが慣れねぇじゃねぇか……」

「分かったよ……ミノル。場所を変えよう」

その時の自分を見つめるシルバの目は、長い付き合いのミノルでも見た事の無い、鋭くそして冷たい視線を放っていた。

「なんだよその目は……てめぇはまた、俺を馬鹿にしやがんのか!」

「ロゼッタ……スイをお願い」

「ちょっとあなたどこへ行く気? もうすぐ騒ぎを聞いた騎士団が来る筈だから……」

ロゼッタはシルバの手を掴み止めようとする。

「違うんだよロゼッタ。僕は……スイの兄として、大事な妹を傷つけたこいつを許す訳にはいかないんだ」

重い覚悟を受け取ったロゼッタは静かにその手を離す――。

この時シルバは、二度の人生の中で初めて明確な他者に対する怒りを感じたと共に、その矛先を暴力へと向ける選択をしたのだった。

「ミノル、着いて来て――」


二人がやって来たのは、転生者の始まりの場所。

「ハジメ、お前とガチでやり合うのは小学校以来だな……いつも散々逃げ回りやがって」

ミノルは指を鳴らしながら首を回す。

「思い出話をする気はないよ。それに今の僕はもう……シルバだ」

「始めるぞ……」

「あぁ……」

ゆっくりと歩み寄る二人……。

拳が届く距離まで近づくと二人が一斉に拳を振るう。

両者が同時にその拳を顔面に受けると、少し立ち直すのが早かったミノルがシルバの鼻を目掛けて頭突きを入れる。

両の鼻の穴から出血するも、シルバはすぐに殴り返しミノルは数歩後ずさった。

「ビビリのお前はどこいったんだよ……」

口から血の混じった唾を吐き出すミノル。

「今でもビビリだよ。でも……もう逃げたくない」

ミノルはシルバの胴に向けて蹴りを放つが、それを受け止めすかさず顔面に拳を放つシルバ。

シルバはミノルが倒れかけた隙に追い討ちをかけようと拳を振りかぶる。

そこに低い体勢からタックルを仕掛けシルバのバランスを崩し、腹へ膝蹴りをいれるミノル。

「がはっ……」

ミノルはすぐさま両手を握り前屈みになったシルバの背中へとそれを思い切り振り降ろすと、シルバは地面に倒れ込んだ。



「やっぱり……俺の方が強いじゃねぇか」

「まだだよ……」

シルバはゆっくりと起き上がる。

「クソがっ、早くくたばりやがれ!」

ミノルが拳を握り向かってくる。

シルバはそれを左手で振り落とすとカウンターを返す。

そして二人はお互いの胸ぐらを掴み合い、咆哮する。

「ぶっ殺してやる!」

そこから更にテンポを上げ無我夢中に殴り合った。

先に倒れこんだシルバに馬乗りになって拳を繰り出すミノルだったが、一瞬の隙をつき反撃したシルバと形勢が逆転し一方的に殴られた。

ミノルが体を跳ね上げてなんとかその状況を打破すると、二人は距離をとって息を整える。

両者の体力は既に限界が近く、顔は腫れによる赤さなのか、それとも流れる血の色なのか判断出来ない程だった。


ふらふらな両者はゆっくりと近づいていく。

ミノルが殴る……。

シルバが殴る……。

そしてミノルが再度シルバに殴りかかったその時、その拳は空を切り、そのままシルバにもたれ掛かると次の瞬間には倒れ込み気を失った。

シルバは……ゆっくりと空を見上げ、声にならない叫びを上げる。そのまま膝を着き倒れると意識が遠くなった。数分後にシルバが目覚めた時、既にそこにミノルの姿はなかった――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る