第12話 女神は理不尽かポンコツの二択。


「久しぶり! 転生の女神イザメルだよ。突然だけど今回は、転生の女神のお仕事を紹介しちゃうよ〜♪」

女神は翼を羽ばたかせ宙をグルリと舞いながら上昇すると両手を広げた。

「まずこの場所は、転生の神域。実は人間には産まれた瞬間、既に寿命が決まっているの。でも……稀にいる寿命よりも早く死んでしまう運の悪い人間がここへやってくる。その人間を異世界エアレンデルへ送るのが私の役目」


その時、遙か上空から転生の神域に一筋の光が差し込む。

「来たようね……」

女神がそう呟くと、その光は次第に大きくなっていった。

「そして、これが……」

直径二メートル程まで膨れ上がった光の柱の中に、学生服を着た一人の少年が姿を現し、ゆっくりと着地した。

「ん、んぁあ……どこだここは?」

「目が覚めたのね」

「てめぇは誰だ。こんなとこまで拉致りやがってクソがっ」

「あなたはなんでここに連れてこられたか分かる?」

「心当たりがあり過ぎて検討もつかねぇよ。北校の杉田か? それとも直江津の荒木か?」

「これはヤンキー同士の抗争じゃないから……」

「あぁ? じゃあこりゃあ一体なんだよ」

「あなたは異世界へ転生するの」

「はぁ? 俺はそういうガキくせぇのが大嫌いなんだよ。帰る――」


少年は立ち上がって歩き出すが、周りを見渡しても出口らしきものは見えない。

「おい。出口はどこだよ」

「ないよ。ここから行ける場所は異世界だけ」

「ふざけんな! 帰らせろ!」

「その異世界に……白銀 一君がいるって言ったら?」

「なっ、なんであいつが……」

「彼はね、勇者候補である君の代わりに死んでしまった。だから異世界で地球へ戻る方法を探しているの……」

「俺が勇者だと? なんの冗談だ」

「勇者候補は十年に一度、一人だけ選ばれる。見事に君が当選したんだよ『黒金 実くろがね みのる』君――」


その後詳しい異世界の説明をする女神イザメル。

「――という事で異世界行きを了承してくれる?」

「行かねぇ」

「え?」

「だから行かねぇ。俺は誰の指図も受けねぇ」

「断られたの初めてで……こんな時どんな顔して良いか分からないの――」

「泣き叫べクソ女」

「ムーっ!! 一君ならきっと乗ってきてくれたのに!」

それから世界の時間軸が一週間過ぎても、実は神域に居座り続けた。

「ねぇ……そろそろ異世界に行ってもらわないと私、上司に怒られちゃうんだけど……」

「知るか」

さらに一週間が経過した――

「ねぇ……ぐすん。お願い、私クビになっちゃう……」

「うるせぇ」

もう一週間――

「お願いお願いお願いお願い!」

床に仰向けになり手と足をバタバタとさせる女神。

「黙りやがれ!」

あれから一ヶ月――

「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」

生気を失ったイザメルは、全身とその周囲を白く染めながら、神域の隅で体育座りをしていた。

「俺は力石派だ……」

「あれ? これは分かってくれるの?」

そして二ヶ月が経とうとしていた――

「今日で一緒に住み始めて二ヶ月記念日だね! お祝いにケーキを用意したよ♪」

「はぁ? ふざけてんのかてめぇ」

「働きもせず毎日寝てばっかりの夫を持つと大変だよぉ」

「誰が夫だ! 俺はもっと乳のデケェ女が好みだ」

「あぁー! 実が言っちゃいけない事言いましたー! これはもう離婚だよ離婚!」

「上等だ、早くここから出しやがれ」


タイムリミットが目前に迫った事に焦りを感じた女神は真面目な顔で実を諭した。

「もう本当に時間がないよ? 勇者候補として異世界に転生すれば、すごい能力が与えられて向こうでの活躍が確約される。このままだと君は勇者候補から外されてしまって、今の状態のまま強制的に送還されてしまう……」

それを聞いた実は鼻で笑いこう返した。

「自分以外の力で強くなる事に意味なんてあんのかよ?」

「与えられた力だって君の力なの! いつまでも意地を張っていないで貰えるものは受け取ればいいじゃない!」

「俺は誰の指図も、施しも受けねぇって決めたんだ」


すると神域内に機械音声が響く。

《警告。転生猶予時間は残り僅かです。直ちにチュートリアルを済ませ異世界に転生して下さい。さもなければ5分後に強制的にエアレンデルへ送還されます》


「本当に……受け取らないつもり?」

「何度も言わせんな貧乳女神」

「貧乳じゃないもん! 着痩せするタイプなだけだもん!」

女神はめいいっぱい胸を張った。

「パッドいれてんの知ってるぞ」

「いっ、いつ見たの?」

女神の顔が真っ赤に染まる。

「カマかけただけだよバーカ」


《時間です。転生者『黒金 実』をエアレンデルへ強制送還します》


実がここへやって来た時と同じように光の柱が現れた。

「この二ヶ月、話し相手が居てなんだかんだ楽しかったよ」

「ドMかよてめぇは」

「頑張ってね……」

「自分の力でてっぺん獲ってきてやんよ」

「ヤンキー学校を一つに纏めるより難しいかも……」

「フンッ。上等だよ」

「ミノルー! 飛べぇ!!」

こうしてミノルは、シルバより二ヶ月遅れで異世界エアレンデルへと転生したのであった。


ミノルは例の草原にある小屋で目が覚めると、シルバの時と同じように小屋からゴブリンが二匹現れた。

「てめぇどこ中だよこの野郎」

喧嘩慣れしているミノルは二匹のゴブリンをあっという間に殴り倒すと、倒れたゴブリンの上に腰掛けて呟く。

「とりあえず、アイツを探すか――」


――時を同じくしてギルドクロノワール。

「ねぇロゼッタ。なんで最近目を合わせてくれないの?」

「そんな事ないわよ……」

ロゼッタは先日の騒ぎでシルバに見せてしまった失態をまだ気にしていた。だが当の本人には記憶がない為、何のことか分からずにキョトンとしている。

「それなら良いけど……」

スイがシルバの手を引っ張って尋ねる。

「にぃに、今日は薬草の日?」

「そうだよ。だから今日は一緒に行こうね」

「やったぁー! にぃにとおでかけ久しぶりだね!」

「しばらくモンスター討伐ばっかりで、お留守番が続いてたもんね……」


僕はスイに外出用の帽子を被せた。その理由はもちろん獣人であるスイの耳を隠す為だ。またいつ狙われるか分からない、このヒューマンの国では細心の注意が必要だ。因みにスイがいつもワンピースを着ている理由も尻尾を隠す為に他ならない。一応言っておくが、決して僕の好みだからではない。

「にぃに! 今日はいいお天気だね!」

外に出るとスイは嬉しそうにはしゃぎ回った。その天真爛漫な姿が愛おしくてたまらなかった。

もう一度言うが、決して僕の好みなんかじゃないんだから……。


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