第15話 ラッキースケベってレベルじゃねぇぞ。


僕が出掛ける支度をしているとスイが不安そうに尋ねる。

「にぃに……いつかえってくるの?」

「明日には帰って来るよ」

「あしたのいつ?」

「夜までには戻って来れるかな……」

「やくそくだよ?」

「うん。だから一晩だけ、お留守番お願い」

「わかった。スイ、がんばっておるすばんするから、にぃにもがんばってね」

「ありがとう、スイ」

この世界に来て初めて泊まりがけのクエストへ向かうその日、寂しそうなスイと別れるのは心苦しかったが、妹をもう二度と一人にしない為にも再度気合いを入れ直した。


今回のルーシー王女の護衛クエストにクロノワールから参加するのは僕の他にロゼッタとアリエルの計三名だ。王様の話ではあと二名同行者がいるらしいのだが、その人達とは当日に王城で合流する事になっており、それが誰なのかはまだ知らされていない。そして僕は王城へ向かう前にハブリット武具店に寄り、新しい相棒を手に入れていた。

「見てよロゼッタ! この剣超カッコいいでしょ?」

店主のハブリットが打ったその剣は、柄から剣身まで全てが銀色に統一された西洋の片手剣だった。

「男ってホントこういうの好きよね。何がいいのか全然分かんないわ」

「女の子がオシャレが好きなように、男は武器とかカッコ良い装備に憧れるもんなんだよ」

「まぁなんでもいいけど……ちゃんと守ってよね?」

後ろで腕を組みながら前屈みでそう言ったロゼッタに、僕は不覚にも少しドキッとしてしまった。

「あ、うん……」

「私も頑張るから安心してロゼッタちゃん♪」

アリエルは得意げに両の拳を胸の辺りで握った。

「そう言えばアリエルってどんな魔法が使えるの?」

「私は特に風の魔法が得意だよ!」

アリエルはそう言って人差し指の先に小さな竜巻を発生させた。

「すごい! 初めてアリエルを尊敬したよ!」

「へへへ〜。そんなに褒めないでよ〜」

アリエルは調子に乗ってその竜巻を大きくすると周囲の風が強くなり、ロゼッタのスカートが捲れ上がった。

(し、白っ……)

「ちょ、ちょっとアリエル! やめてー!」

「ごめんロゼッタちゃん、やりすぎちゃった。えへへ……」

ロゼッタは赤面しスカートを押さえながらシルバに問う。

「み、見た……?」

「み、見てません……」

もしもこの時のロゼッタのパンツがいちご柄だったなら、僕はきっと西の方角を向きながら校庭で懸垂をしていた事だろう。


朝っぱらから人生初のラッキースケベを経験し少し大人になった気がしていた僕が王城行きの馬車へ乗り込むと車内には先客がおり、それはお爺さんと中学生くらいの女の子の二人組だった。その二人はどちらも長い銀髪を後ろで括っており、高貴な服装でどこかの貴族のような身なりをしていた。


王城へ到着するとその二人組も僕達と共に馬車を降りた。

「皆、揃っているようだな」

出迎えてくれた王様がそう言った事で、この二人が同行者なのだと理解する。

「ランス、紹介しよう。彼らがクロノワールの冒険者達だ」

王様が僕達を紹介すると、お爺さんが僕達の方を向く。

「君達が護衛の冒険者じゃったか。儂はランス・アキレスで、こっちは孫のジャンヌじゃ。よろしく頼む」

「ら、ランスってあの大将軍の……?」

ロゼッタが驚いた様子で尋ねる。

「今はただの隠居老人じゃよ」

「ロゼッタ、この人知ってるの?」

僕が小声で尋ねる。

「『軍神』の二つ名で知られる王国の伝説の大将軍よ」

「へぇー、それは心強い援軍だね」

準備を終えたルーシー王女を交え、挨拶も程々に済ませると早速出発することに。


一行は馬車の中で今回の旅のルートを確認する。

「このボナール王国を北上していくと膨大な魔国領がある訳じゃが、この国境ギリギリの位置ならば魔力のオーロラを観測出来る。馬車で片道半日といったところじゃ」

ランス将軍が地図を広げ詳しい地理を説明した。

「魔国領に近付くと魔族に襲われたりするんですか?」

「魔国領の外れは魔族の集落からは離れておるから大丈夫だとは思うが油断は禁物じゃ。今は魔族の魔力が高まる時期じゃから、凶暴化しておるかもしれん」

「でも十年に一度のオーロラってどんな景色なのかしら」

「ルーシー王女、オーロラ楽しみですね!」

シルバがそう話しかけると青ざめた表情の王女。

「よ、酔ったわ……」

「だ、大丈ですか? 一旦馬車止めましょうか?」

僕がそう言って近付いた瞬間だった……。

「お゛ロ○ゔゲぅ#オボぼ☆」

王女は僕の顔面めがけて、その口から盛大に高貴なもんじゃ焼きを召喚した。


馬車を一旦止めて、川で顔を洗っていた僕の隣にやって来たルーシー王女は申し訳なさそうに言う。

「本当にごめんなさいシルバ……」

「いえいえ、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ」

「まさか異性に嘔吐している姿を見られただけでなく、それを顔にかけてしまうだなんて……とんだ初体験だわ」

王女は恥ずかしそうに手で顔を覆う。

「本当に僕は全然気にしてませんから!」

「でもこのままじゃ私の気が収まらないわ……そうだわ、シルバも私に向かって吐いてちょうだい!」

「は? 何言ってるんですか王女!」

「それでおあいこじゃない!」

「そんなのおあいこにしたって誰も得しませんし、王女にそんな事したら僕、打首ですよ!」

「私は王女だからって特別扱いされるのが嫌いなのよ! いいから早くあなたのを顔にかけて!」

「ちょっとその言い方やめてもらって良いですか!?」

「早く出してってば!」

「姫様に何をさせようとしているんだ貴様」

この最悪なタイミングでランス将軍が顔を出す。

「ご、誤解なんです将軍。これは……」

シルバは慌てて弁明しようとするが、王女がそれを遮る。

「ランス! シルバが私の初めてを奪ったくせに顔にかけてくれないのよ!」

「ちょっと姫様黙ってマジで!」

「おい貴様ちょっとこっちへ来い」

ランス将軍に木陰へと連れられるシルバ。

「いいか貴様、姫様はともかく……もし儂の可愛いジャンヌに指一本でも触れてみろ。その時は骨も残らんと思え」

「は、はい……」


その後、僕は恐怖のあまり放心状態だった。再度動き出した馬車の中で、何故かこの世界で流行っているというマジカルバナナを暇つぶしに皆でやる事になった。

ロゼッタ「マジカルバナナ〜、バナナと言ったら黄色♪」

アリエル「黄色と言ったらマヨネーズ♪」

ルーシー王女「マヨネーズと言ったら酸っぱい♪」

ジャンヌ「酸っぱいと言ったら……お爺様の枕」

ランス将軍「お爺様の枕と……ちょっと待ってくれジャンヌ……お爺ちゃんの枕は酸っぱい匂いなのかい?」

「ごめんなさいお爺様。慌てていてつい本音が……」

「皆すまんが、前で少し風に当たってくる……」

その大将軍の背中は憂いに満ちていた。

「じゃ、じゃあ気を取り直して、ジャンヌが枕から始めましょう」

ジャンヌ「枕と言ったら白♪」

シルバ「白と言ったらロゼッタのパンツ……」

放心状態だった僕はつい、やってしまった。

「……や、やっぱり見てたのね……」

ロゼッタは顔を赤くさせプルプルと震えていた。

「ち、違うんだ! ロゼッタならきっと白だろうなと想像しただけで……」

「そっちの方が気持ち悪いわよ!」

「やめてロゼッタ、気持ち悪いって言葉で思い出しちゃったわ……」

再度青ざめた顔をする王女はゆっくりと立ち上がる。

「だ、大丈夫ですか?」

慌てて駆け寄ったシルバの顔に向けて調理を始める王女。

「お゛ロ○ゔゲぅ#オボぼ☆」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

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