第9話 マヨネーズで世界最強。


「ロゼッタ、一体何があったの?」

「話すと長くなるのよね……」

ロゼッタは困り顔で答えた。

「あなた誰……?」

泣いていたエルフがシルバに尋ねる。

「僕はシルバ。新人冒険者だよ」

「私がいない間に新しい冒険者を雇ったから、私は用無しって事なのねぇ……。えーん」

エルフはまた大粒の涙を流し泣き出してしまった。

「だから違うってばアリエル!あなたのギルド証の期限が切れているだけで、誰もあなたをクビになんてしていないわ!」

ロゼッタがそう弁解するとエルフは一旦泣き止んだ。

「ホントに……?」

「本当よ! あたし達は仲間でしょ!」

「うわぁ〜ん。よかったぁあ……」

そう言ってエルフはまた泣き出した。


「この子はギルドメンバーなの?」

「えぇ……彼女はアリエル。結構な古株なんだけど、ここ2年ほど失踪していたの」

「し、失踪?」

「良くあるのよ。今回は蝶々を追いかけていったら2年近く経っていたらしいわ……」

「……ここのギルドメンバーに普通の人はいないの?」

「あたしがいるじゃない」

(ロゼッタは本気で言っているようだから波風は立てないでおこう……)


「それでギルド証の期限が切れるとどうなるの?」

「彼女はBランク冒険者だったんだけど、期限が切れた今は特別更新料を支払うか、Fランクからやり直しになるわ」

「特別更新料はいくらなの?」

「金貨100枚よ……」

「私、そんなお金持ってないよぉ……」

アリエルは目に涙を浮かべ訴える。

「そんなに高いなんてちょっとやりすぎじゃない?」

僕は流石にアリエルに同情した。

「もちろんぼったくっている訳じゃなくて、期限が切れる前に更新していればこんなに高くはないのよ?」

「なんとかしてよロゼッタぁ……」

「こればかりはあたしにはどうにも出来ないわ……」

「僕に考えがあるよ!」

「ホント……?」

アリエルが僕を見つめる。

「ちょっとあなた、なに無責任なこと言ってるの?金貨100枚って大金なのよ?」

「前から僕もお金を稼ぐ方法を考えてて、試してみたい事があったんだ」

――そう、それは異世界ファンタジーと切っては切れない魔法の調味料"マヨネーズ"だ。

「本当にそんな調味料でお金儲けが出来るの?」

ロゼッタが首を傾げる。

「これは僕の元いた世界の一部の人間にとっては常識と言っていいほどの確かな情報だよ――」

僕はキメ顔でそう言った。

「そんなに美味しい調味料があるなら、私も食べてみたいなぁ……」

アリエルはすでに泣き止んだ様子で、今は口からヨダレを垂らしていた。因みに僕は鶏の唐揚げを食べる時は必ず唐揚げと1対1の割合でマヨネーズをつける程のマヨラーなのだ。この世界の食べ物は総じて薄味だった為、濃い味付けの食べ物が恋しいと思っていたところだった。


「ちょうど晩御飯の時間だし、みんなでそのマヨネーズを作ってみましょうよ!」

ロゼッタがそう提案した。

「いや……出来ればロゼッタには見学してて欲しいんだけど……」

「何か文句でもあるのかしら?」

ロゼッタの鋭く光を帯びたその視線は、言葉などなくてもあの時の命の危機を彷彿とさせる。

「な、何でもないです……」

「みんなでお料理なんて楽しみだねぇ」

アリエルはロゼッタがダークマター製造機だという事を知らないのか、存分に浮かれていた。


そしてここにいたメンバーにスイも加えて、マヨネーズ作りを始めたのだった。僕はロゼッタ対策で一人一つずつ木で作られたボウルを持たせて調理をする事にした。


僕の僕による僕の為のマヨネーズ講義が始まる。

「ではまず、マヨネーズのレシピを紹介します。材料はとてもシンプルで卵黄、塩、お酢、油の4種類。まず卵黄に塩、お酢を加えて混ぜる。そして少しずつ油を加えてさらに混ぜていき乳化させると……マヨネーズが完成するよ!」

僕はレシピを説明しながら手本を見せる。


※手作りマヨネーズは市販の物と比べ保存期間が短いので、作ったその日に使い切るようにしましょう。


「にぃに、こんな感じ? 合ってる?」

「そうそう! スイは上手だね〜」

エプロン姿ではしゃぐスイのあまりの可愛らしさに僕は思わずその頭を撫でた。


「ねぇちょっとこれどうなってるの? うまく混ざらないんだけど……」

僕はそう言ったロゼッタの方を見た。ロゼッタは何故か卵黄ではなく卵白のみを使い、両手をボウルの中に突っ込み素早くクルクルと回転させながら、クチュクチュという卑猥な音を立てていた。

「下ネタじゃねぇか!! どこの風俗嬢だ!

お前メインヒロインなんだから少しは自重しろよ!」

「何が間違ってるのよ?」

「全部だよ! 人の話し聞かないのも大概にしろ!

大体ヘラ用意してあっただろ? なんで使わないの?」

「料理には愛情が大切だって聞いた事があるわ。直接手で作った方が愛情がこもりやすそうじゃない」

「そんなやり方じゃ、もし生まれたとしても一夜限りの愛情だよ!」

僕はすぐにそのボウルを取り上げて作り直させた。


「見て見てシルバ! 出来たよ!」

そう言ったアリエルの方を見ると、そこにはイケメンのおじさんがスーツを着て立っていた。

「マヨはマヨでも川◯麻世じゃねぇか! 世界観ぶっ壊すんじゃねぇよ! どうやって召喚したんだ!」

「混ぜてたら……なんか出来たよ?」

「出来るか! すぐにお帰りいただけ!今再婚されたばかりでお幸せなんだから!あ、ご結婚おめでとうございます」

「えぇ? せっかく作ったのに……」


そして僕たちはなんとか各々のマヨネーズを作り上げて、いざ実食という運びになった。

「じゃあ出来たマヨネーズをパンに塗ってサンドイッチにしよう」

僕がそう提案すると、皆はそれぞれ好みの具材をパンに挟み特製サンドイッチを作り上げた。

「にぃに、マヨネーズのサンドイッチすっごく美味しいね」

「おかわりもあるから沢山食べてね」

「うん!」

スイの笑顔は僕の癒しだ……。


それに比べてこの二人ときたら――。

ロゼッタは自分の生み出した物体を食べると、突如むせ出し文句を言う。

「ちょっと何よコレ。なんか苦いんだけど……」

「え? ロゼッタちゃんのサンドイッチ一口ちょうだい?」

アリエルがその物体にかぶりつく。

「あ、ちょ、辞めた方が――」

僕が止めに入ったのも束の間……。アリエルは何故か今まで着ていた上着が弾けとび、肌着姿になると意識を失いその場に仰向けに倒れ込んだ。


(これがおはだけか……。いやそんなことよりとうとう死人が出てしまった……)

僕は恐れていた事態にあたふたとするが、すぐにアリエルの「スー、スー」という寝息が聞こえてきた為、安堵し座り込んだ。


そこへ仕事終わりのシェリーが顔を出す。

「何かあったの?」

僕達は事の経緯を話すと、それを聞いたシェリーはもじもじと口を開いた。

「あの……すごく言い辛いんだけど、マヨネーズはこの世界でも、もう商品化されちゃってるよ?」

「え――?」


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