第37話 FILM-0、最強伝説の再来

「多分だが今までのelle式、ぞ」



たしかに少し考えれば想像出来たかもしれない。


今のFLOWプレイヤーにとって、elle=近距離最強よりもelle=elle式なのだろう。

俺のプレイスタイルは少しずつ忘れていくが、技術は根深く残るからな。


そして、古くからいるプレイヤーはRay=elleであると気づいている。


この3つを連立させれば、Ray=elle=elle式という情報戦を敗北へ至らせた式が出来上がる。


初代・第2回と世界大会に出場したとき、俺は確かに他人に興味は無かったが、誰よりもFLOWに本気で取り組んでいた自信はある。

配信をしなかった理由は学業以外にも、情報を渡したくなかった、というのもある。


ではなぜelle式が普及しているか。

答えは簡単。世界大会本戦のライブ映像があるからだ。


FLOWの公式チャンネルではリアルタイムでの観戦とは別に、後日上位プレイヤーの解説ライブも行われる。


1チームだけに注目されるそれは、世界大会出場者にとってみればいわば研究資料なのだ。

なんせ、降下してすぐの初動から死ぬまですべて流されるのだから。


elle式は1つ開発するのにもえげつない時間がかかるし精神がすり減る。


多くもないそれを惜しむほど世界大会に余裕もないため、俺が開発したものはおそらくすべて世界大会本戦で使ったはずだ。



──それを見返して研究されているのだ。



……マズい、それは想像してなかった。

これでは他のプレイヤーと差をつける手段が…………


「エル、焦るな」

「っ」


アミアの冷静な声が俺の耳に届く。


「エルの武器はelle式だけじゃないだろ?」

「……すまん、助かった」

「気にすんな。俺はIGLである以上に、エルの相棒なんだからな」


そうだ。俺の武器は何もelle式だけじゃない。あくまで補助的な技術だ。

確かにelle式はもう勉強され、研究され、対策されてるかもしれない。


だが、俺の──初代世界王者の目と耳、キャラコンとエイム力は誰にも止められない!


「ふぅー…………っし、さて行くか」

「ここじゃ混戦には巻き込まれない。好きなだけ暴れてくれよ狂犬」

「おう」

「もう索敵スキルの効果が切れる。再発動まで3分だが、その前に第4リングの収縮が始まるから早め移動したいところだな」

「おっけ。俺が伝える。指示は任せた」


俺は体力を満点、シールドを50まで回復させる。

そしてちょうどそのタイミングで索敵スキルの発動時間も切れ、敵の位置が分からなくなる。


よく耳を澄ますと、スキルの効果が切れたからといって特に移動することはなく、岩の上に乗っていることが分かる。


「位置変動なし」

「なら敵との距離は約50m。間に岩は5つあるが、横並びを省くと実質3つだな。スモークの目眩まし効果があるのは直径35mだから距離は詰められるな。だが、あの岩の上は……えっとあの場所だから……直径7mだな。ここからグレネードは届くがバウンドで上手く乗らねーから詰める方がいい」

「了解」


──これこそアミアの能力。


俺が舞台の中央で目立つ主役だとすれば、アミアは舞台裏で誰よりも働く、日の目を浴びることはないが誰よりも頼られる裏方。


地形の長さ、銃のダメージの距離減衰など。


試せるものは120%試しているため、elle式のような特異点以外は誰よりも知っている。

アミアは1を知れば10を察し、そしてそれを100まで推測して伝える、最強のIGLなんだから。


「スモーク焚く」

「さんきゅ。俺詰めるぞ……ん? これ……うん1人降りてるわ。スモークの中入ってきてんな」


スモークは外から中の様子がまったく見えなくなるが、その中では2人の距離が10mほどになれば少しずつ見えてくる。


敵は、俺がelle式を使ったせいで俺をRayと分かっていながら、近距離戦を挑んできている。

俺のほうが分が悪く、敵も対面がかなり強いのだろう。


──……だが。


「エル」

「分かってる」


詰めてくるということは、足音がより聞こえるということ。


そしてここはスモークの中。


アミアがスナイパーを撃つために身体を出しても、岩上で待機している敵はアミアを撃つことができない。




耳を澄ませ──elle、集中しろ────!!


…………いや違う。落ち着けelle──お前は、世界王者だろ──






──────ぽちゃん。と。






周りでは混戦が始まりつつあり銃声もより多くなってきた。

だが、俺は凪ぐ海の如く、目の前の戦いの音すら聞こえない。


俺の無音の領域に入るは────敵の足音ただ1つ。

その音が、まるで水紋を描くように俺の五感に染み渡る。



──ダッ!



俺はアサルトを一発だけ撃った。

そしてそれは──敵の胴体にHITするとともに、また静寂を齎す。



──ダッ!



一拍置いて、また一発。

さっきの位置から移動した敵にまた当てる。


「────さすがだ相棒」


だが、今度は静寂が来ることはなかった。




────ドンッッッ!!!!!




『おうぇ……?』


:は……?

:え、

:ちょっ……え???

:どうなってんの?


俺の背後から轟いたスナイパーの轟音は、スモークだけでなく空気をも切り裂いて直進し──敵の胴体にHITした──。



かつてチーターと呼ばれ続けたは、簡単には消えない──!!



その後、HPが残りミリになった敵はすぐに仕留めた。


すると残りは1人。2対1の数的有利を取ってからの戦闘は──語るまでもない。






第5回FLOW世界大会・DAY1 第一試合


第4リング収縮開始 残り人数43人 22チーム





《あとがき》


質を優先したい回だったので投稿遅れました。

明日はお休みするかもです。

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