第36話 元プロさん、elle式の敗北を味わう

第5回FLOW世界大会・DAY1 第一試合


第3リング収縮開始 残り人数54人 28チーム




『さぁさぁ! 第3リングの収縮開始ということは全体マップの1/3となり、この試合開始から15分が経ったということになります!』

『この試合の半分が経ったというのに、まだ54人……どうなってんだ……』


:エグい

:第3リングくらいまでに1/3くらいまで減るはずなんだけど……

:そうそう。そこからの減りが遅くなるのに、世界大会はなぜか最初から遅いんよな

:え、でもこれどうなんの?


:第3リングだと、去年はたしか40人くらいだったよな

:そう

:んでたしか、第4リングの収縮が始まったくらいから混戦になったんだよな

:何回見てもあれエグいww

:岩裏にからだ隠したと思ったら敵がいるんだもんなw

:前回あれにキノコ組が耐えられなかったんだよな

:でも今年さ、もう始まりそうじゃね?


「アミア、そっちはどう?」

「ちょっとずつだけど始まってんな、大会じゃありえんくらい戦いが」

「やっぱりか。こっちも結構起こり始めてるぜ」


いくら残り人数が多いとはいえ、前回大会よりも1リング分早く混戦が始まるとはなかなか想像されなかったのか、俺たちは無事に東の山の頂上を取ることが出来た。


敵もこの場所を警戒しているだろうから、スナイパーで抜かれないように動きつつ、下の様子を探ってみる。


すると、一目瞭然。


スモークが焚かれていたり、銃弾が飛び交っていたりと戦いが起きている。


それも1つや2つではなく、俺の視界に入っている場所以外からも銃声が聞こえてくる。


だがまだ混戦はこんなものではない。

今はまだ個々の戦いである。逃げ場もある。


だが、真の混戦が始まると、どこに逃げても敵がいるという、実力ではどうしようもない状況なのだ。


つまり、俺たちがはやめに山上を取ったのは正解だということ。


────しかし、その『正解』を目指そうとするのが、俺たちだけなわけが無い。


「ついに来たか」


このリングにおいて、山上などのいい場所は俺たちのいる東の山だけ。


つまり、俺たちが居ようと──戦闘になろうともこの場所を奪おうとしてくる敵が来るのだ。


────今、この瞬間のように。


「アミア、スナイ──」

「だめだスモーク焚かれた」

「ってことは俺たちいるの分かって詰めてきてんな」

「までも、この場所譲るわけにはいかないな。戦うぞ」

「おう」


敵が焚いたスモークはこの山を安全に登るためのものなので、範囲は山の斜面だけ。


頂上までは届いていないため、俺とアミアは頂上で待機する。



東の山の頂上までは緩やかな斜面であり、頂上まで登り切るとそれなりの範囲の平地が広がっている。


草木は無い代わりに、デカい岩がゴロゴロと転がっていて遮蔽が多く、かなり戦いやすいフィールドだ。


さらに、そこら辺の平原とは違い、少し小さい石が大量に落ちているため地面もかなり凸凹している。


システムの穴をつくelle式にはうってつけなのだ。



『おーっと! これ相手────』

『アフリカ1位、BASEstべーセストだ! こ、これは中盤から激アツバトルですね……!』


:ま、マジだ!!

:アツアツや!!

:アフリカの対面最強とアジアの対面最強のバトルが第3リング収縮中にあっていいんですか……!?


『知らない人もいるかもしれないので、対面が始まるまでの短い時間に2人を軽く紹介しておきましょう!』

『2人を紹介、というか2人とも同じゴリゴリ攻めるプレイスタイルなのに成立してるアタオカチーム、という説明が正しいのでは?』

『……マジすね。ほんと、なんでIGLいなくて成立するのか……』


:たびたび解説放棄して感傷に浸るの好きw

:ただこれに対抗し得るのが…………

:FILM-0なんだよなぁ

:アミアIGLバカ上手いのに対面も上手いからよくないんだよな


「スモークが消える前にスナ当てれたらデカいけど……」

「エル場所分かるか?」

「いや、混戦のせいでうまく聞こえん」

「だよな。グレネードだけ投げて構えるぞ」

「おけ」


俺はスモークの中にグレネードを投げ込み、その後大きな岩に俺たちはそれぞれ身を隠した。


グレネードは音も大きいので簡単に避けられるだろう。


僅かにでもダメージが入ればいいというくらいだ。


「…………ん。やっと足音が聞こえてきた。近いぞ」

「だな。スモーク越しに姿見えてきた」


登れるタイプの岩の上に乗ったアミアは、スモークを上から見下ろして言った。


「俺のカウントで撃て。3、2、1──ファイア」


ズダダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!


アミアの合図に合わせてSMGの引き金を一気に引く。


敵も撃ってくることは簡単に想像できたので、ライトハンドピーク──基本的に銃は右手側で持つため、銃の射線だけを通し、残りの左側のからだを岩裏に隠す技術を駆使して対面する。


しかし、敵は俺との間に簡易シールドを設置しながらスモークから出てきたため、そこまでHITすることはなかった。


「さすがに守るか。ん? あのキャラはまさか──」


俺は撃つのをやめ、岩裏に全身を隠した。


そして、アビリティを短期解放し、反対側の岩に高速で移動する。


ポジションはころころ変えておかないとより攻められやすくなるからな。


あともう少しこちらに攻めてほしい。


アミアのショットガンの射程圏内まで誘い込めれば、頭に一発入れて一気に有利になる。


──が。


「ちっ! やっぱあのキャラ、重力逆転のアビリティだよな」


簡易シールドを設置した敵のスキンが僅かに見えたと思ったら、やはり使ってきた。


キャラを空中に浮かせる重力逆転を設置すると、2人は岩の上に着地した。


アミアとは反対の岩で、俺が身を潜めた岩でもある。


また、もう1人の敵は上昇しているときにアミアと同じ索敵のアビリティを使用しているため、俺たちの位置もバレている。


「アミアッ!」

「分かってる! 片方40だけ当てて降りるわ」

「おっけナイスすぎ! 俺上がるわ」

「位置バレしてるからな?」

「elle式で行くから大丈夫」


2つの岩に挟まれてるときにだけ使えるelle式──『壁登り』。


岩から岩にジャンプして飛び移りながらただ登るだけでは、隙も多く遅い。


だが、とある操作をしながら登ると、壁の接地面と実際に飛び始める座標が僅かにズレ、また『飛ぶ』という動作ではなく『走る』という動作になる。


登りたい先に敵がいるときにのみ刺さりまくる、elle式である。


これは、俺が1番最初にelle式として成立させた技で、まだ原理を理解しようとせずに作っていた頃のものだ。


これなら大丈夫──!


「────いや、エル待てッ!!」

「大丈夫、ちょっと削ればアビリティ使ってすぐ下がる!」

「いや────」


アミアが静止してくるが、これからあと数秒あれば終わること。


アミアが心配していることなど起きることなく引けるはず──



「────いや、その『削る』が!!」



「は──?」


アミアの声が響いたかと思えば、岩から岩へ飛び移ろうとした瞬間──座標がズレた先に銃弾が撃ち込まれた。


ダダダダダダダダダダダダダ!!!!


何が起きたか理解が追いつかなかったが、俺はひとまずアビリティを発動してすぐに退散した。


この立地を生かし、身体を隠しながら逃げたことで死は免れたが、シールドは全部削りきられ、体力は残り60。


「なんでelle式が────」

「いや……俺もまさかとは思ったが」


アミアは索敵のアビリティを発動して敵の動きを確かめつつ話し始める。


「しーたけさんたちが言ってただろ? 『Ray=elleってことに気づいている人はまぁまぁいる』って」

「それがどうした──って──ッ!」

「分かったか?」


一拍置いて、アミアは最悪の推測を述べた。




「多分だが今までのelle式、ぞ」

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