魔法雑貨店
トクメイ太郎
コピーを作る指輪
時計の針が正午を過ぎた頃。散歩をしていた宗一郎が路地裏にある小さな一件の店の中に入った。
中に入ると、レジ前で店番をしている少女のエマが笑顔で出迎える。
「いらっしゃいませ」
宗一郎が店の中を物色する。
エマは、商品に夢中になっている宗一郎に声をかける。
「お客様。何かお探しですか?」
「え、と、その」
エマの気配に気づかなかった宗一郎が慌てる。
「ごめんなさい。驚かせちゃいましたよね」
「いえ、全然大丈夫です。俺こそ、全然気づかなくてすいません」
二人は頭を下げる。
頭をあげると、宗一郎が先に話しかける。
「表の看板に魔法雑貨店って書いてあったけど、アンティーク商品の事だったんですね」
「はい。でも、ただのアンティーク雑貨ではありません。」
「どういうことですか?」
「それは見てからのお楽しみです」
エマは、近くの棚にあった指輪を手に取って、右手の中指につける。
すると、次の瞬間エマが二人に増えた。
「女の子が二人に増えた!」
宗一郎に二人のエマが声をかける。
「どうですか? 魔法みたいだと思いませんか。こういうことです」
宗一郎は、一旦目をこする。
「幻覚じゃない、だ、と」
「これがいわゆる魔法というやつです」
エマは微笑みながら言う。
息をのんで、ひと呼吸おいて、宗一郎が言う。
「すげーじゃん。ほかにもたくさんあるのか」
「はい、あります。例えばこれは、人の気持ちがわかるペンダントです。」
「さすがに魔法もそこまではできないだろ。」
宗一郎が疑うと、そのペンダントをエマがつける。
「あなた悩んでますね。それも上司のことで」
「え、なんでしってるんだ」
「そういうことです」
「これがペンダントの力って事か」
「正解です」
「なるほど」
そして次の瞬間、エマが宗一郎に笑顔でしゃべり出す。
「それじゃあいっそ上司に幻覚を見せるなんてどうでしょう。魔法使いの間では使うことを禁じられていますが、この水があればできますよ。」
「そんな事できるのか?そもそもそんな危ない物なんで持ってるんだよ」
「企業秘密です。店をしてると色んなつながりができるんですよね」
宗一郎は一瞬考えたが、怖くなって断る。
「あなた小心物ですね」
「わるかったな。俺は小心者だよ」
宗一郎がため息をつきながら落ち込む。
そんな事を無視して、エマがしゃべり出す。
「そんなに落ち込まなくても。とりあえず、何か買っていきませんか? ちょうど今
タイムセール中で安くしときますよ」
エマのその言葉を聞いて、少し元気を取り戻す。
「ほんとか。じゃあとりあえず、この自分を増やす指輪をくれ」
「ありがとうございます。それじゃあ2千円になります」
「やっす。これで悩みがなくなるわ」
「一応言っておきますが、増えた人間を減らす事はできません。あと自分と全く人間です。それをよく覚えておいてください」
「わかりました」
こうして、宗一郎は店を後にした。
宗一郎が帰ると、エマはコピーを消してた。
◇
宗一郎は一人暮らしの部屋に帰ってきて早速指輪を使う。
目の前に光があらわれまぶしい表情をする。
光が消えると、目の前に自分そっくりの人間が現れた。
「これからよろしくな」
「こっちこそよろしくな」
コピーが生まれたことで、満足そうな顔をする。
次の日の朝。
宗一郎はコピーと早速喧嘩する。
「お前が行けよな」
「お前こそオリジナルなんだから行けよ」
喧嘩になった発端は仕事にどちらが行くかだった。
はたから見たらしょうもないことだが、宗一郎達には大事な事だった。
そんな喧嘩が30分続き、口をそろえて提案をする。
「じゃんけんしようぜ。それで勝った方が行くって事で」
「わかった」
お互いが納得してじゃんけんを始める。
「じゃいけん、ぽん」
「あいこでしょ」
「あいこでしょ」
「あいこでしょ」
じゃんけんだけで10分が過ぎようとしていた。
そして、ふとあることに気づき、宗一郎ががコピーに言う。
「もしかして、全く同じ人間だからこれ一生終わらないよな」
「それ俺が今言おうとしてたことだわ」
「そうだよな。」
「じゃあどうしようか」
無言の時間が続いた。
そして、宗一郎が、あることを思いつく。
「当番制にしないか」
「くそ、先に言われた」
コピーが悔しそうな顔をする。
先に提案したのが宗一郎だったこともあり、結局この日は宗一郎が仕事に行くことになった。
仕事を終え、食卓を囲みながらコピーに文句を言う。
「その話はもういいよ。飯がまずくなる。文句があるなら上司に言えよ」
「言えないのはお前がよく知ってるだろ。ここぐらい喋らせろよ」
コピーは宗一郎に怒っていた。
「お前俺が怒る事わかってるのに言ってるだろ」
「わかるけどさ。はけ口がないことお前が一番わかってるだろ」
「それもそうだけどさ」
二人は自分の事をまだうまく理解できていなかった。
「もういいよ!お前出て行け。自分そっくりで気持ちわるいわ」
「はあ。お前の自我でうまれたんだろ。責任持てよ」
コピーが宗一郎に怒りながら正論をぶつける。
二人は殴り合いの喧嘩になった。
ただ、力や行動が同じなため勝負がつかなかった。
気づけば二人は疲れて、横たわっていた。
「ごめん。今度から気をつけるよ」
「俺も悪かったな。ちゃんと話くらいは聞いてやるよ」
二人は仲直りしたのだが。
数日が過ぎたある日。
二人はあることに気づく。
「服が足りん、靴が足りん、電気代たっか、水道代がたっか、圧倒的に食費がたりん」
二人は一大決心をする。
「二人とも働きに出かけよう。そしたら生活費倍になるからまだましだ」
「そうだな」
コピーは宗一郎の言葉になっとくする。
こうして二人は別の職場を交代しながら働いていた。
数ヶ月がすぎたある日の事。
仕事で疲れていた宗一郎が、コピーにあることを言う。
「最近お金に余裕できたし、もう一人増やしてたまに一人休める日つくらないか」
「いいなそれ。」
二人はまた安易に一人増やした。
これで三人になった。宗一郎はオリジナル。コピーは一人がAもう一人はBになった。
三人の生活は三つ子になったみたいで宗一郎は楽しんでいた。
三人が別の所で働いたり、遊んだりしていく中で三人は考え方が徐々に変わっていった。
「なんか最近コピーAちゃらくなったな」
「そうかな。俺は普通にしてるつもりだけど、逆にオリジナルは全然変わらないよな。Bも髪型変えたのに」
「そうだな。俺はおれだからな」
宗一郎はコピーの何気ない言葉でふと考え始める。
(自分は何者なんだろう。コピー達は変わっていくのに。そもそも俺はオリジナルな
のか。コピーじゃないよな)
そんな事を考え出すと、仕事も集中できなくなっていった。
そして、宗一郎は気がつけばビルから飛び降りて死んだ。
◇
「どうなったんだ俺。」
宗一郎は丸い形をしている魂だけになり、自分の血を頭から出している姿を三人称で見ている感覚になった。
「あれ俺だよな」
宗一郎が死んだ自分を見ていると、見たことある少女が目の前にいるのを感じる。
「あの子、お店の子だよなたしか。おーい助けてくれ。」
エマは宗一郎のそんな言葉をむしして、宗一郎の意識が入った丸い魂を右手で奪い取り、使い魔の犬に渡した。
「うまいか」
エマの言葉をむしして、犬が魂を食べる。
宗一郎は、感覚をなくしたいくらいの痛みに蝕まれる。
(自殺した時の方がまだましだった)
後悔の念をしながら、宗一郎は食べられて消えた。
宗一郎が死んだ事はコピーとエマ以外誰も知らない。
魔法雑貨店 トクメイ太郎 @tokumeitarou
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